「こんな顔じゃない!!」高橋由一とインスタグラムとBeReal

2023年10月9日
全体に公開

高橋由一について

高橋由一は、1828年 江戸生まれの洋画家です。

若くして日本画(狩野派)を学び、それから横浜に住むイギリス人画家のワーグマンに師事し、油彩を本格的に学んでおり、日本で最初の洋画家だとも言われています。

彼に関する話は、重要な話が何通りもあるが、今日は彼の作品「花魁」についてだけお話しします。

花魁 (1872) 高橋由一

この絵はとても有名で、たくさんの論考が世に出ているので、色々読んでみるのも悪くないと思います。

「私は、こんな顔じゃない。」

この絵のモデルは、4代目小稲という方。遊郭吉原の稲本楼にいた、非常に人気のあった花魁さんだそうです。

由一が書いたこの絵を見せられたモデルの小稲さんは「私は、こんな顔じゃない!!!」と泣いてしまったのだとか。

なんでそんなことになったのか。という話をしていきます。

※ちなみに、この絵が制作された背景は、花魁の文化を写実的な絵に残そうというプロジェクトで、高橋由一に依頼が入ったという経緯があるようです。泣かせた絵をわざわざ自分から頼んで描いたわけじゃなさそうで良かった(?)

洋画のフォーマット・当時の化粧のフォーマット

油彩は、陰影を強調した立体的な質感を表現することも得意とします。これは、当時の日本画の技法とは大きく異なります。

一方、花魁の白粉を使った化粧の技法は、顔を平面的に見せ、特有のデフォルメされた美しさを作り出します。

高橋由一は、この油彩の立体的な技法を強調して使用し、日本の化粧や日本画の技法と対比させました。

この強烈な表現様式のズレが、少し不気味な絵画を生んだ要因のようにも思われます。

つまり彼の目的は、西洋画と日本の技法の違いを通じて、人々の視点や認識の違いを表現することだったのかもしれません。

本人が何を考えたかはさておき、とても面白い構造が垣間見える絵画です。

初めてこの絵を見た時、小稲さんに同情しつつ、「なるほど、世界の見方は、それを表現するメディアや技法によって大きく変わるのだな。」と衝撃を受けたのを覚えています。

インスタ映えとフォトショップ

自撮りをしたり、写真に写った自分を見て、「思ってたのと違う・・・」という経験をしたことがある人は多いと思います。

一般的に美しいとされる写真映えを目指して、お化粧もそうですし、撮り方や、表情の作り方を工夫したり、フォトショップや顔補正アプリを使う人もかなり多いでしょう。

カメラやアプリに、自分を合わせる作業で考えてみましょう。

〜〜〜

以下の図は、あくまでもスマホアプリを日常的に使って撮影/セルフィーを行う場合の多くの場合で起こっていそうな構図です。(例外はあるとして)

由一の場合は、西洋油彩の技術が、表現を規定する構図がありましたが、セルフィーについてもスマホカメラ/アプリが、撮影作品や被写体の状態を規定している可能性があるかもしれません。

BeRealはどこまでリアル?

外見を後からアプリなどで補正して、よく見せようとする流れが加速しすぎた反動で、「フォトショップはダサい」「インスタ映えは古い」「等身大の生活や自分=オーセンティシティが良い」という価値観が土台となって出てきた最近のソーシャルメディア(SNS)にBeRealというものがあリマス。

アプリから通知が届いたら、2分以内に(自分の今の)写真を撮影して投稿する(遅れて投稿も出来る)、その写真には加工などはできず、撮ったらそのまま反映されます。

また、スマホの表裏のカメラがどちらも起動するため、風景と自分の姿の両方がいっぺんに撮影される。撮り直しは3回までしかできない。撮った写真は、次の日には、フォロワーからは見えなくなる。そのためコストをかけて撮影準備をするメリットも低いです。

そのため飾らない「ありのままの姿」を友人たちと見せ合うことができ、社会的なプレッシャー(バエていないと不安/素敵な生活をしていないと不安になるなど)からフリーになれる。というような作りになっています。面白い。

BeRealの面白さは、このアプリの作り以上に、哲学として「リアルな」写真を推奨し、キャンペーンまで行っているところです。

部屋は散らかっていて、髪も服も寝起きのままで、食べ物もいつものスナック。ネットフリックス見てゴロゴロしてます。外に出てコーラ飲んでるだけ。

そんな写真が推奨されているような空気感が漂っています。

※ 社会から、外見の補正を半強制される息苦しさについては、ルッキズムの紹介記事をご覧ください。

セルフィーの歴史や、ソーシャルメディアに関する大きな問題提起の流れなど、話したいことは尽きませんが、今日はここまで。

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余談:

ドミニク・マカイヴァー・ロペス 、ベンス・ナナイ、ニック・リグルの『なぜ美を気にかけるのか』という本を買った。

なかなか気になるタイトルなので、読んだら感想なんかもシェアしたいと思う。

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