【DAILY art PICKS】最高齢・黒人女性として初めてターナー賞を受賞した画家 | Lubaina Himid | 20230824
Lubaina Himidは、2017年にアーティストとして最高齢・黒人女性として初めてターナー賞を受賞した画家である。
しかし、彼女は自らを(厳密な意味での)画家というより、「視覚的言語を用いた政治戦略家」なのだと語る。
2022年、ロンドンにあるTATE Modernで行われたHimidの回顧展で、実際の作品を初めて見た際に強い関心を持ち、彼女の作品、というよりも活動、リサーチ、戦略を簡単になるが紹介したいと考えた。
2022年の回顧展では会場に入ると、壁や上に吊るされた旗に、詩のような、台詞のような質問が書かれていた。
ここでは、ひとつひとつの作品の分析は行わないが、例えば、毛根から生える毛、血管、皮脂などの絵と一緒に、「私たちにしか耐えられない優しさ」という文字が書かれているタペストリーなど、絵と文字の間にある乖離 ≒ 余白が、新しい意味的なつながりを想像させるような、詩的な作品が並ぶ。
なんだか物語を見せられているような展示だと感じたが、あながち間違ってはいなかったようだ。Himidはウィンブルドン美術学校でシアターデザインを学んでいる。そして、演劇は古くから政治的な言説の場にもなっていた。
Himidは一貫して、忘れ去られ疎外された黒人の歴史や、見えなくされていた、あるいは、沈黙していた歴史や事実に焦点を当てる。
だが、その痛ましい歴史を、ありきたりな痛ましさの表現で書くことはしない。
そこには演劇的な、詩的な、風刺的な、想像の余地と、意味を見出すための余白が残されているようにも思える。
例えば、上の2つの絵は1819年1月24日にル・アーヴルを出港したフランス船ル・ルデュール号が、 10ヶ月の航海中に、原因不明の目の病気で乗組員のほとんど全員が失明し、さらに39人のアフリカ人奴隷が殺害されたという事件に基づいた絵だ。
特に2枚目の絵は、展示で見かけて思わず足を止めた。
色彩の組み合わせや構図が、とても美しく思えた。
敢えて奥行きがなく平面的に見える絵画空間の中で、鳥の頭の女性(足がない)と、彼女に何かを手渡す女性の、不思議な行為が、現実と別世界(お化け?)の2つの世界の視点/パースペクティブがぶつかり合っているようで、いつまででも見ていられた。
しかし、後で調べてみると、これは奴隷貿易の絵だったのだ。
この美しい色彩の、そして同時に痛ましい歴史の絵を、どう処理すればいいのだろうか。考えをまとめて、そのうち書いてみようと思う。
いずれにせよ、忘れることはないだろうなと思う。
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