B2Bカスタマージャーニー:複雑な購買活動におけるタッチポイントと顧客体験

2023年8月18日
全体に公開

カスタマージャーニーという言葉は、顧客が製品やサービスに出会い、購入・契約するまでの流れ(旅)の中で、顧客がどのようにサービスに触れ、意思決定に至るかを示したものとして知られています。

購買意思決定が個人(あるいは家計)で決定されるようなB2Cビジネスでは、このカスタマージャーニーを購買ターゲットであるペルソナ(ある特定個人を想定した顧客像)に対して把握した上でマーケティング戦略を立案・実行します。

一方で、購買活動に複数のメンバーが関与し、複雑な役割分担を持つB2Bビジネスにおいては考え方が少し異なります。その一番の要因は、購買決定者と製品やサービスの利用者が異なることです(前者を購買センター、後者を利用センターと呼びます)。最近になって、このB2Bカスタマージャーニーについて、Value-based Selling研究の第一人者でもあるTerho. H氏の研究グループから論文が出版されたので、今回はこの内容を取り上げてB2Bセールスにおけるカスタマージャーニーについて考えます。

今回取り上げる論文

B2B customer journeys: Conceptualization and an integrative framework
Arttu Purmonen, Elina Jaakkola, Harri Terho, Industrial Marketing Management, 113, 2023, pp 74-87

https://doi.org/10.1016/j.indmarman.2023.05.020

ざっくり概要

「B2Bカスタマージャーニーとは、購買センターと利用センターのメンバーが、複数の直接的・間接的なタッチポイントを経て、商品を購入・利用するまでの、目的志向の絡み合った経路のことであり、買い手と売り手の関係の文脈に影響されるものである。」

今回の論点

B2BセールスではBuying Centerと呼ばれる複雑な購買意思決定の仕組みがあることを前回の記事で説明しました。これは、製品やサービスを購入(継続購入の判断も含め)する部門と実際に製品やサービスを利用する部門が異なっていて、決裁権や購買判断に影響を与るインフルエンサーの存在を知ることが重要であるということです。

この様な組織的な購買活動において、製品やサービスについての情報に触れ、共感し、導入を決断するのは主に購買センター利用センターになります。前者は、企業活動を行うにあたって適切で効果的な製品やサービス、それらを供給するサプライヤー、ベンダーを選定し、契約条件を交渉し、企業活動がより価値あるものを実現するためのリソースを企業に導入する役目を担っています。この購買センターは、近年非常に購買活動が複雑で難易度が高いものになっていると実感しており、実に77%ものバイヤーが購入プロセスに苦労していることがGartner社のレポートからもわかります。

この様な購買活動において、購買センター(担当者レベル)のカスタマージャーニーはとても重要です。B2Bセールス活動としては、購買担当者が自社の製品やサービスにどのタイミングでどのチャネルを通して触れ、判断材料を入手し、交渉によって意思決定する購買体験を如何にして向上させるかが鍵となります。しかし、先に述べた通り購買センターの意思決定は購買センター内のカスタマージャーニーに閉じることはありません

今回の論文の重要なポイントとして、利用センターの関与が挙げられます。利用センターは、実際に製品やサービスが導入された際に利用して、企業活動から価値創造を行う重要な役割を持っています。そのため、導入に際しての他社(競合や現在使用している製品等)との比較や、自らの業務においてどのような価値実現が可能か情報収集を行った上で、利用センターとしての購買意思決定を下します。この部分に、B2Bセールスが単に良い製品を良い価格で売るだけでは成り立たない要因があります。つまり、グッズドミナントではなくサービスドミナントに価値提案を行い、買い手企業との価値共創を行うことの必要性です(この内容はこちらの記事で詳しく取り上げています)。

これらをより詳細に落とし込むと、購買センターと利用センターそれぞれのDirectもしくはIndirectタッチポイントでのジャーニーと、それぞれが有する組織ゴールと個人のゴールを加味したロイヤルティループを理解することが重要です。

Directタッチポイント:サプライヤーによって「制御可能」なブランド/商品の表現と顧客の対話
Indirectタッチポイント:サプライヤーの「制御が及ばない」、ブランド/製品の表現との顧客のやり取り

(ロイヤルティループの図はぜひ元文献をご覧ください!)

日々のB2Bセールス活動に活かすためには

最後に、我々が日々のB2Bセールスに今回の内容を活かすためにできることを考察します。

・購買センターの意思決定材料(旧来BANTと呼ばれている「予算」「決裁権」「ニーズ」「導入時期」の確認)のみならず、実際の製品やサービスを利用する部署、担当者のKPIを正しく理解する

・製品やサービスによって実現される価値創造について、利用センターが適切に情報収集、判断できるようにコンタクトし、かつ間接的な情報の伝達を意識したコンテンツマーケティングを行う(事例公表やキーオピニオンリーダーの取り込みなど)

・購買者、利用者個人がどの様なタッチポイントで情報を収集し、それぞれが何を達成したいと思っているかを把握して、真の競合になる製品やサービスを理解した上で価値提案を行う

・購買センター、利用センターのカスタマージャーニーに沿ったコンタクト(タイミング、コンタクト手段、メンバー、提供する情報などなど)を実施して、顧客体験の向上に努める

B2Bセールスにおいて顧客体験はこれまで(B2Cに比べて)あまり重視されていなかったのですが、それぞれ購買意思決定に関わる重要な購買センター、利用センターに所属する各個人レベルを考えたときには、そのメンバーたち一人一人の顧客体験を向上させることがそのままセールス活動の成果につながるようになってきたということを実感させられる内容です。

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