なぜ20代、30代に大腸がんが増加しているのか

2022年3月20日
全体に公開

若者に起こる大腸がんが急速に増加傾向にあることは、医療の世界では比較的ホットな話題の一つです。私自身これまでの医師人生で、そのような辛い局面に何度か直面してきました。

大腸がん自体の総数は近年、各国で不変または減少傾向にあります。これは、大腸がん検診が世界中で広がり、ポリープの切除などが積極的に行われるようになったこと、喫煙が全体に減少傾向にあることなどがその理由ではないかと指摘されています。

しかし、実際に数が大きく減っているのは、50歳以上の大腸がんであり、50歳未満で見てみると、大腸がんの患者が増加の一途を辿っていることが指摘されています。

このことに迫る論文[1]を、今日はご紹介します。

例えば、20のヨーロッパの国々のデータからは、大腸がんの新規発症率が20代で、1990年には10万人あたり0.8人であったのが2016年には2.3人に、30代では2.8人から6.4人に増加したことが報告されています。

このような増加は北米やアジアなどでも報告されていて、日本も例外ではありません。

また、より懸念すべきは、そういった若者での大腸がんが、高齢者での大腸がんと比較して発見が遅れる傾向にあり、がん自体の悪性度も高い傾向にあると報告されている点です。

では、なぜ今このようなことが起こっているのか。その理由は未だ明らかにはなっていませんが、さまざまな仮説が検証されています。

20代から30代の大腸がんのリスク因子として、これまで報告されているものには、1日14時間以上の非活動時間、高中性脂肪、肥満、加工した肉を多く含む欧米スタイルの食事、こちらのトピックスでも紹介した砂糖含有飲料、1日2杯以上のアルコール、喫煙などが挙げられます。

また、その中でも食生活の変化というのは特に注目されています。腸に直接的に影響を及ぼしうるものだからです。あるいは、近年の食生活の変化が腸内細菌の変化をもたらす形で間接的に若者の大腸がんを増やす原因になっているのではないかとする仮説もあります。

この食生活や腸内環境の変化には、食生活の欧米化や加工食品の増加だけでなく、母乳からミルクへの移行、子供時代からの抗菌薬への暴露の増加、フードチェーンにおける抗菌薬の使用なども、原因の一端を担っている可能性が指摘されています。

また、パンデミックで加速されてしまったインドアでの非活動的な生活や肥満の増加との関連も指摘されてきています。

あるいは、まだ指摘されていないような未知の原因が潜んでいる可能性もあります。近年使用する頻度が急速に増加したもの、摂取が増加したものなどに着目すると、そのヒントが隠されているのかもしれません。

まだ分からないことだらけの領域であり、若者の命を奪う病気として強く懸念されているものの、その予防法や早期発見の方法は残念ながら確立されていません。

大腸がんは、症状が生じてから検査をしたのでは「時すでに遅し」であることも多い病気であるものの、より早期に発見し、早期に治療をすれば根治が望める病気でもあります。症状に依存しない早期発見法を確立する必要のある病気と言い換えることもできます。一般に50歳以上の方には、大腸がん検診がそういった意味でとても大切と考えられていますが、若者にただ検診を拡充するのでは、デメリットがメリットを大きく上回ることになる可能性が高く、イノベーションが求められます。

今後もさらなる研究が必要とされる領域であり、引き続き研究の進歩を追っていきたいと思います。

参考文献

1.        Patel SG, Karlitz JJ, Yen T, Lieu CH, Boland CR. The rising tide of early-onset colorectal cancer: a comprehensive review of epidemiology, clinical features, biology, risk factors, prevention, and early detection. Lancet Gastroenterol Hepatol 2022; 7:262–274. 

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