ポストウェブ、ポストソーシャルの「7つの潮流」

2017/4/24

ウェブの次、ソーシャルの次

Facebookの誕生から13年。iPhoneの誕生から10年。
過去10年の間に、ソーシャルメディアとスマホは、完全に世界中に浸透した。
総務省情報通信政策研究所のレポートによると、ソーシャルメディアの利用率(2015年時点)は、全世代で7割弱に到達。スマホユーザーに限ると、利用率は9割を越えている。「ソーシャル×スマホ」はデファクトスタンダードになった。
これらの新しいテクノロジーは、われわれの住む世界を大きく変えた。ビジネスを変え、メディアを変え、政治を変え、ライフスタイルを変えた。社会に「新しい価値」をもたらすと同時に、「新しい問題」も生み出した。フェイクニュースの問題はその典型と言えるだろう。
いったい、ウェブとソーシャルはビジネスと社会をどう変えたのか。そして、ウェブとソーシャルの「次」にはどんな潮流が生まれるのか。その問いを考えるのに、今はうってつけのタイミングだ。
本特集では、ポストウェブ、ポストソーシャルをテーマに、ビジネス、テクノロジー、メディア、思想、政治などの視点から、各分野の識者たちに話を聞いた。
そこから導き出された、ポストウェブ、ポストソーシャルの主な潮流は以下の7つだ。
 (1) ネットを超えるAIのインパクト
 (2) オープンからクローズへ
 (3)「マス一辺倒」の終わり
 (4) スケールからブランドへ
 (5) 課金イノベーション
 (6) 流通網としてのコミュニティ
 (7) ライブの勃興。時間概念の回復
第1回は、社会学者の宮台真司氏と思想家でゲンロン代表の東浩紀氏に、思想的な切り口から、ソーシャルメディアが社会にもたらしたインパクトについて語ってもらう。
両者の「ソーシャルメディア」に対する評価はネガティブだ。世の中はどんどん悪くなっていると口をそろえる。
宮台氏は「LINE、Facebookに代表されるSNS的なコミュニケーションが広がったことで、『コミュニケーションの自動機械化』が進んだ」と指摘。スタンプをベースにした固有性のないコミュニケーション、遅れ(ラグ)が許容されないコミュニケーションが、主体と意識の喪失を招いていると説く。
東氏は、ブレクジットやトランプ勝利を引き合いに出しながら、「今われわれは、『やっぱり大衆は駄目だった』という驚くべき現実に直面している」と話す。そんな現状と戦うために、「論理の復権」と「辺境を作り続けること」の重要性を訴える。
第2回は、メディアアーティストで筑波大学助教の落合陽一氏が、テクノロジーの観点から、ポストウェブ、ポストソーシャルを語る。
これまでのインターネットは「マス」だったのに対し、今後、インターネットは「個人化(パーソナライズ)」していくと予測。AIやコンピューターサイエンスのように、統計的に処理できて、コストがゼロの情報処理が「個人化」の原動力になると話す。
人間も「タイムマネジメント」という概念から解放され、今後は「ストレスマネジメント」が中心になると言う。
第3回は、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏が、ポストデバイスシフト、ポストソーシャル時代のビジネスについて展望する。
今後のイノベーションは、「テクノロジーセントリック」から、「ユーザーセントリック」「社会セントリック」なものにシフト。コミュニティも、小グループ化が進み、「狭く濃いコミュニティ」を運営するノウハウが差別化の肝になると読む。
ひとつの分野でスケールを追うビジネスだけでなく、ある領域で成功したビジネスモデルを他領域に横展開する「ビジネスモデルの複写」がカギになると話す。
スケールに頼らないビジネスを可能にする。量より質によってビジネスを成長させるーーそのために必要なのが、広告とは異なる収入源だ。その最有力候補が、定額サブスクリプションなどの課金である。
日本ではソーシャルゲームがいち早く課金に成功しているが、世界でもさまざまな分野の企業が、有料課金にトライしている。第4回では、各分野で課金に成功している代表的なプレーヤーの課金戦略をまとめて解説する。いわば、課金イノベーションのベストプラクティス集である。
ネットとソーシャルは、コンテンツやモノの流通のあり方を変えたが、今後の流通網として欠かせないのが、コミュニティだ。
クリエーター・エージェンシー、コルク代表の佐渡島庸平氏は現在、「コミュニティファースト」を掲げて、コミュニティ戦略を練っている。なぜポストソーシャル時代において、それほどコミュニティが大事になるのか。佐渡島氏に解説してもらう。
ウェブメディアの便利なところは、いつでもどこでも、コンテンツを消化できること。しかし一方で、時間に拘束されないがゆえに、習慣が付きにくいという面もある。そこが、朝ドラ、朝刊・夕刊というふうに、時間と紐付いている伝統的メディアとの差だ。
「今後のウェブメディアは、“時間概念”が重要になるのではないか」と語るのは、『ネットメディア覇権戦争』の著者で、法政大学准教授の藤代裕之氏。メディアと時間概念の関連性について考察してもらう。
第7回は、宮台氏と東氏の対談の後編。前編の問題提起を受けて、「これからどう社会が変わっていくか」「どうすれば現状が少しでも改善するのか」について考える。
宮台氏は、「感情の働きが豊かな人間と劣化した人間が、しばらくは分離していくと思う」と予測。比較することと、ブランドを創ることの重要性を強調する。
東氏は、今後、どこかの段階でインターネットの性質が大きく変わり、「今のように簡単に、誰もが自分の意見を自由に発信することができる状況は、そんなに長くは続かないのではないか」と読む。
世の中のテクノロジーをめぐる議論は、過度にその影響をおそれる「テクノフォビア(テクノロジー恐怖症)」か、テクノロジーを盲目的に信じる「テクノユートピアン(テクノロジー夢想家)」に引っ張られやすい。
しかし、答えはどちらでもない。その間のどこかだ。
テクノロジーの波は不可逆であり、その流れをせき止めることはできない。テクノロジーを、社会に役立つ形でどう活用できるか。ますます人類の知恵が問われることになるだろう。
第1回を読む
【宮台真司×東浩紀】ソーシャルが私たちから奪ったもの
(写真:是枝右恭、デザイン:中川亜弥)