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Chapter 5:人口減少の時代、企業がとるべき行動は?

日本企業は「人口ボーナス国」を狙い撃て

2015/9/7
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第五弾である『大前研一ビジネスジャーナル No.5「2040年の崩壊 人口減少の衝撃/地域活性化の現状と課題」』(初版:2015年5月22日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。
Chapter5では、人口減少の時代、企業や経営者がとるべき行動を具体的に示す。今後、日本の人口は減り続けていくが、新興国を中心に世界的には、人口増加の趨勢が続くと考えられる。そのような中、企業の勝ち目はどこにあるのか。ヤマハ中興の祖・川上源一氏の例を引き、25年後の日本の在り方を決める経営者の心構えを説く。
前編:2040年に向けて沈みゆく日本。この国はどうなるか(7/13)
後編:少子化問題と移民政策は国の最優先事項だ(7/20)
本編第1回:人口減少による「国債暴落」のシナリオは回避できるか(7/27)
本編第2回:「産みづらく」「育てにくい」国、日本(8/3)
本編第3回:出生率が上がらない理由。他国と比較して考える、日本の問題点(8/10)
本編第4回:移民受け入れ「後進国」の日本(8/17)
本編第5回:2040年、50%の市町村が「消滅」する?(8/24)
本編第6回:国民の大半が、地方創生に関して「あきらめムード」(8/31)

企業の勝ち目は「人口ボーナス期」の国にある

この国は「人口減少、どうしよう、どうしよう」と言うばかりで、抜本的な解決策を打つ気配はまったくありません。私は20年以上前から、新しい「国籍法」、「コモンデータベース法」、「道州制」などを提案し続けていますが、何も変わっていない。変える気がないのです。

そのような状況下で、企業が生き抜くためにどうすればいいか。図-35、世界の人口推移予測を見ると、日本では人口が減少する一方、新興国を中心に、世界的には人口増加が続きます。国内の人口減少はシリアスな問題ですが、個人や企業の視点から見ると、伸びている国に行けばいいのです。このまま日本にいても、お客さんは減る一方です。
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図-36を見てください。人口ボーナス期の長さを表すグラフです。日本は高度経済成長期に人口ボーナス期があったのですが、既にマイナス、人口オーナス期に転じています。中国は2014年がピークで、2015年から人口オーナス期に入ります。ベトナムは、2020年が転換点です。カトリック国のフィリピンでは、堕胎ができないという事情もあって、2055年ごろまで人口ボーナス期が続きます。このデータを参考に、今後も人口ボーナス期が続いていく、できるだけ大きなマーケットに行くのがコツです。
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新興国では「昔取った杵柄」でビジネスができる

図-37の表も参考になるでしょう。横軸に人口の規模、縦軸に人口増加率をとり、世界の国名をプロットした一覧表です。右側の国の中で、政情が安定している国を選んで、その国に攻勢をかける。これらの国には、今から40年くらい前の日本と同様のビジネスチャンスがあると考えられます。わざわざ新しい仕掛けをせずとも、これまでのやり方で十分商売ができます。
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産婦人科でピアノを売りまくったヤマハ・川上源一

最後に、新興国に打って出る際のヒントとして、元ヤマハ社長、川上源一さんのビジネスモデルをご紹介したいと思います。川上氏はかつて、人口ボーナス期の日本でピアノを作り、世界一のピアノメーカーを目指した人物です。

ピアノを売りたいと言っても、国民の大半が貧しいですから、そんなお金はどこにもないのです。まだテレビがない家も多かった時代です。そこで川上さんがどうしたかというと、産婦人科で子供が生まれるところに立ち会って、「おめでとうございます。お子さん、将来ピアノなどいかがですか」と声をかけるわけです。

母親が「お金がありません」と答えれば、「ご心配なく。ヤマハレディが、来月から千円ずつ集めにきます。4歳になったら、ヤマハ音楽教室に通ってください。ピアノが上達したころ、ちょうどお子さん専用のピアノが手に入ります」と言ってピアノを売りまくったのです。

結果、何が起こったか。日本の一般家庭のピアノ普及率は、実に20%です。5軒に1軒はピアノを持っている。ドイツを抜き、米国を抜き、世界でこれほどピアノが普及した国はありません。すべて川上氏の仕掛けです。人口ボーナス期には、そういうやり方ができるのです。

今、インドネシアでは、ヤマハ音楽教室が大人気です。日本でも、1人当たりGDPが3千ドルのころからピアノを習わせる親がいたように、子供の情操教育、あるいは将来のために、音楽を習わせたいという親心は世界共通なのですね。
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社会が変わらなければ、人口動態が示す通りの未来がやってくる

Chapter1で述べたように、社会が変わらなければ、確実に人口動態が示す通りの未来がやってきます。突然起こるわけではありません。ずっと前から分かっていたことです。

どう変えるか。まず、政府は戸籍制度を廃止、「コモンデータベース」から公的サービスを提供します。また、移民を受け入れる準備を始める。移民制度ができてから、有効な労働力が動くまでには10年、20年という長い時間がかかります。地方活性化のためには、バラマキ政策をやめ、統治機構を根本から変えて道州制を導入すべきです。

企業はどうするか。今後も人口ボーナス期が続きそうな国を選んで、とことん攻める。人口ボーナス期の国へ行って産婦人科に乗り込み、商品を売り込むくらいの気概を持った日本企業、日本人経営者がどれだけ現れるかで、2040年の日本の姿は大きく変わってくるはずです。
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(大前研一向研会定例勉強会『人口減少の衝撃(2014.10)』より編集・収録)

*次回からは『大前研一ビジネスジャーナル No.6』の内容を掲載します。

*本連載は毎週月曜日に掲載予定です。

本特集は、2014年に大前氏が経営者に向けて開催した定例勉強会「人口減少の衝撃(2014.10 向研会)」を基に編集・構成している。

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