課長を鍛え直す“課長ブートキャンプ”? 課長再生研修の中身とは

2015/7/19
ポスト減、国際競争激化の時代。管理職は安泰ではない。課長を鍛え直す、さながら“課長再生工場”がある。

「枠超え」を体感する。“課長ブートキャンプ”に入る?

「アナタの後任、アナタの7割の給料で、もう採用しちゃったんだよ。なのに、何でアナタをまた雇わなきゃいけないの?」
こんなことを現実に言われたら、大半の人は心が折れるはずだ。
だが、企業の社員研修を手がけるワークハピネスの管理職向け研修では、実際、受講者にこんな“悪夢の疑似体験”をさせる。受講者は課長職を中心とする現役管理職。上司役の講師を納得させるため、いかに自分が再雇用されるのに値するかを説得しなくてはいけない。

一人乱れるとダメ出し

「私は人生を懸けて、日本の製造業の復活に尽力したい。そのために、私はこんなことをします」などと言っても、上司役はそう簡単には首を縦に振らない。
「アナタの本質はそんなもんなの?」
などと厳しいハードルを課し、何度も受講者を追い返す。受講者はそのたびに、違う説得方法を考えなければならない。
あるいは、こんな内容もある。まず、チームメンバーは小学生がポンポンを持って踊るチアダンスの動画を見せられる。
そして、5〜6人のチーム全員が猛特訓し、一糸乱れずに、そのダンスを再現するのだ。1人でも仲間とフリが合わなければ、ダメ出しを食らう。まるで“課長ブートキャンプ”!
この研修をリードする元野村信託銀行の取締役で、同社のチーフ・カタリストである藤岡長道さんは研修の意義をこう語る。
「管理職世代ともなると、自分のやってきたこと、できることの枠にとどまりがちになり、『時間や予算の制約でできない』『私たちの権限では無理』などと言い訳がましくなる。現在の日本は人口減に加え、グローバル化が進み、国際競争にさらされている。管理職は、予定調和を崩し現状を超える行動をしなければなりません。研修を介して、挑戦することの大事さを“体感”してもらう意義は大きい」
ワークハピネスの管理職向け研修で、ポンポンを振ってダンスを披露する参加者たち。チームワークが鍛えられる。

「CAN」の棚卸し

役職定年を迎えたり、役職離脱を余儀なくされたりした中高年を再生させる取り組みとして、人材育成に携る社会人材学舎は「知命塾」というサポートプログラムを実施している。
「組織の中で能力を持て余している人を活性化し、活躍する場をつくっていく取り組みです」(塾長の野田稔さん)
知命塾は、20人前後のクラスのゼミ方式で、約5カ月の通学制となっている。座学だけでなくグループワークや合宿も行う。費用は60万円。最も注力するのが、「受講者の思い込みを外すこと」(野田さん)。参加者は、自分の職歴や組織、価値観にとらわれているケースが多い。
「40、50代の頭を柔らかくするのは、ダイヤモンドを揉みほぐすようなもの。でもそれぞれの枠を取り払って、習得しているスキルを因数分解すると、ほかの職種にも共通していることがわかります」
 参加者たちは、「自分ができること=CAN」について棚卸しを行うことで、新しい可能性を模索していく。ちなみに、「CAN」には学生時代までに得意だった「原点CAN」と、社会人になってから手に入れた「大人CAN」があり、そのふたつをかけ合わせることで、セカンドキャリアを見つけることができるのだという。
例えば、大手電機メーカーで新規事業を手掛け、エンジニアとして活躍していた55歳の参加者は、学生時代には、写真などのクリエイティブな分野に関心を持っていたことを思い出した。
グループワークを介して、過去の経験と元々の得意分野のふたつを生かす仕事を認識。その後、広告業界のセールスプロモーションという異業種への転職に成功し、プロジェクトリーダーとして活躍しているという。
ポストの減少や、競争の激化で、ミドル層のキャリア形成が難しくなるなか、管理職は厳しい現状の認識と、発想の転換が求められる。野田さんは言う。
「今後は、ひとつの会社や仕事にとらわれず、柔軟に能力を発揮するミドル層の活躍が、日本の新しい活力になると思います」
(構成:NewsPicks編集部・佐藤留美、菅原聖司、写真:ワークハピネス提供)