ハリス氏が女性初アメリカ大統領になるために手に入れなければならない、たった一つのこと
バイデン大統領が21日に大統領選から撤退、カマラ・ハリス副大統領を支持することを表明したことを受け、ハリス氏は現地22日夜の時点で、指名を受けるのに十分な数の代議員を確保、自ら出馬する意向も表明しました。
AP通信の非公式の集計によりますと、支持する議員は過半数の1976人を超え、有力な対抗馬も少ないため、数週間のうちに正式に指名される見込みです。
民主党の有力な支持者として、クリントン元大統領のほか、ペロシ元下院議長。さらには出馬の可能性があるとされた、カリフォルニア州やイリノイ州、ミシガン州の知事ら、党内実力者の支持も確保しました。
ハリス氏は22日、陣営で「誇りに思う。候補指名を勝ち取り、民主党、米国を団結させ、選挙に勝利するため全力を尽くす」と語りました。
バイデン陣営が持つ9600万ドル（約150億円）の資金を引き継いだほか、立候補後の24時間で8100万ドル（約127億円）を記録的な資金を集めました。
トランプ with バンス vs ハリスの構図が、ほぼ固まりましたが、カマラ・ハリスって一体どんな人？ 情勢や論点をおさえて、「女性初のアメリカ大統領になるために手に入れなければならない、たった一つのこと」という視点で見ましょう。
①どんな人？「検察官＞政治家」の顔
はじめに59歳のカマラ・ハリスさんとは？
亡き母と、ジャマイカ出身の父の間に生まれた、インド移民の娘で、母親は乳がん研究者。ハリスは度々、母親をロールモデルとしています。
自身の回顧録の中で、ハリス氏は子どもの頃、両親とともに公民権運動に参加したことを回想。自らはキリスト教徒である一方、母親とともにヒンズー教の寺院にも通って育ち、夫は副大統領の配偶者としては初のユダヤ人です。
カリフォルニア大学を卒業後、地元で副地方検事としてキャリアをスタートさせたハリス氏は、家庭内暴力と児童虐待事件を多く扱いました。
②女性初？ 歴史を作ってきたキャリア
キャリアに「史上初」は多く、2003年には黒人女性初の検事に。その後、女性で初めてカリフォルニア州の司法長官にも選出されました。
刑事司法改革に重点を置く「進歩的検事」と自ら語り、彼女によって有罪判決が増加したと指摘する声もあります。
政治家の経験は長くありません。
2016年、カリフォルニア州選出で史上初の南アジア系の上院議員になると、司法委員会のメンバーとして、トランプ政権の高官らに厳しい尋問することで、アメリカ全土でも知られるようになりました。
前回の2020年大統領選挙に立候補表明しましたが、陣営内の内紛などもあって離脱。副大統領候補として選んだのが、バイデン氏でした。
③副大統領としての評判は？ 失言に👎
副大統領となってからの評判は、芳しくありません。
任期の初期にスタッフの離職率が高く、元側近の中には「厳しすぎる上司」と評価する声が残っています。
米国とメキシコの国境を通過する人が急増する中、移民の根本的な原因を取り上げたことでも非難を浴び、こうしたコミュニケーション面でも不安があるとされます。
2022年には、アメリカ社会のムードを「マレーズ（沈滞）」という言葉で表現。かつてエネルギー危機で苦しんだアメリカで、カーター大統領が国民に向けテレビ演説で語った内容がマレーズ・スピーチと呼ばれ、80年の再選に失敗したこともあり、この一言は「失言中の失言」と言われています。
④バイデン大統領は当初「ハリスでは勝てない」
棚ぼたで後継者となったハリス氏ですが、そもそもバイデン大統領が高齢ながら当初「2期目を目指す」ことを決めた、最たる理由がなんだったのか？
それは他でもない、ここまで紹介したハリス氏の政治家として、不人気ぶりでした。「ハリスでは勝てない」がバイデン氏が側近に当初もらしてた肉声で、進退を決める際に「ハリスで勝てるのか？」と慎重に見極めたとされます。
その点で今回、民主党としては驚くべき転換ですが、情勢はどうか？
コネティカット州のキニピアク大学が7月22日に発表した、ハリス氏とトランプ前大統領の対決を想定した世論調査では、トランプ氏支持率が49％と、ハリス氏（47％）を2ポイント上回りました。
⑤どう戦う？「検察官vs.重罪犯者トランプ」の構図
両者で今後、どういう論戦が見込まれるか。
CNNは、まずハリス氏が政治家として過ごした年月よりも、はるかに長く検察官として費やしてきたこと、そして、疑惑、訴訟まみれのトランプ前大統領と戦うことから、「検察官 対 重罪犯者」という図式に持ち込む、と指摘しています。
一方、トランプ氏は、高齢不安を最後まで庇い続けたハリス氏をバイデン氏の「最高の支援者」だと指摘。「ハリス氏の方が負かしやすい」とCNNに語るなど、選挙戦本番直前での交代劇に勝機を見出しています。
また、ハリス氏の度重なる失言や、副大統領としての実績の弱さ、特に移民問題やインフレ問題に汚点があるとして、対決に不安はないとトランプ陣営顧問は公言しています。
ジバンとカバンを手に入れ、欠く一つのピースが...
初の女性大統領への期待、「ガラスの天井」を破るのか？
こうも報じられていますが、メディアが作り出した見方とも言われ、有権者が実際はどう動くか。
日本では選挙に欠かせないのが「ジバン（地盤＝組織力）、カンバン（看板＝知名度・人気）、カバン（鞄＝資金力）」とされます。アメリカにそっくり当てはまるわけではないでしょうが、バイデン氏から急きょバトンを受けたハリス氏はどうか？
民主党の党内支持を急ぎ取り付け、資金も地滑り的に集めたハリス氏。あとは「ハリスなら勝てる」と信じるに足る、地元の揺るがないジバンに加えて、なにより「人気」という意味でのカンバンが圧倒的に足りません。銃撃事件を乗り越えてカンバンをさらに磨いたトランプ氏と論戦をしながら、あと数カ月で不人気ぶりを期待に変えられるのでしょうか。
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このコラムでは、調査報道を専門に新聞記者・海外特派員として経験を積み、NewsPicksの姉妹メディアで編集長を歴任、現在はラジオ・Podcastのパーソナリティとしても活動する野上英文が、ジャーナリスト✖️MBAの視点で時事ニュースをまるっと“二刀両断”で解説します。
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▼参考ニュース：
ハリス氏、民主党大統領候補指名に十分な代議員確保－「誇りに思う」（Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-22/SH16WBT0G1KW00
情報BOX：民主党候補指名有力なハリス氏、重要ビジネス分野での実績（ロイター）
https://jp.reuters.com/world/us/RGXXTMZM5BM5BEPOLHDZMF3BTI-2024-07-23/
ハリス氏、民主候補の指名確実 対トランプ色鮮明―新たな構図固まる・米大統領選（時事）
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024072300190&g=int
トランプ氏は元検事に勝てるか、ハリス氏は女性票も意識－本格始動へ（Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-23/SH243GT1UM0W00
ハリス氏がトランプ氏批判、中間層構築を目標に 指名獲得へ初演説（ロイター）
https://jp.reuters.com/world/us/HSAQ6ZZCNNJ4RIWSBE73MVLH3A-2024-07-22/
トランプ氏がハリス氏をわずかにリード、米大統領選世論調査（ジェトロ）
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/2137aabfb3ed13d6.html
トランプ氏「ハリス氏の方が負かしやすい」、バイデン氏撤退受け（ロイター）
https://jp.reuters.com/world/us/G352PSTG2RO47INCTUTPABOGYA-2024-07-21/
ハリス氏、指名獲得なら対決戦略は「検察官対重罪犯」か（CNN）
https://www.cnn.co.jp/usa/35221784.html
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