ワイヤレスがもたらす経済効果とワイヤレストランスフォーメーション

2024年7月11日
全体に公開

電波の利用が技術の進展に伴い、陸・海・空・宇宙などのあらゆる空間や社会経済活動において普及・進化しつつあります。

総務省では2024年7月2日、電波政策の課題と新たな目標設定、及び実現方策について検討するため、「デジタルビジネス拡大に向けた電波政策懇談会」を開催。本懇談会では、電波をデジタル社会の成長基盤として捉え、ビジネスチャンスの一層の拡大を図ることを目的として、「デジタルビジネス拡大に向けた電波政策懇談会 報告書(案)」について意見を募集しています。

電波利用の現状

携帯電話等の無線の普及全国の5G人口カバー率が96.6%(令和4年度末)に達するなど、無線が日常生活に深く浸透しています。ライフラインとしての重要性の増大無線は電気通信事業とあわせて、消防、救急、航空、列車、警察、海上保安等においても使用され、ライフラインとなっています。

無線技術も多様化しています。衛星コンステレーションでは、開発・展開が欧米企業を中心に進展。衛星と携帯端末の直接通信に向けた検討が進展しています。

HAPSでは、WRC-23において周波数分配が決定され、実用化に向け、無線設備や機体の技術開発が進められています。

Beyond5Gにおいては、国際競争力の強化や経済安全保障の確保を図るため、我が国発の技術を確立し、社会実装や海外展開を目指す研究開発が実施されています。

ローカル5Gでは、ユースケースの実証が行われるとともに実利用の事例も増加しており、柔軟な運用に向けた制度改正も実施されています。

さらに、無線活用分野の拡大により、スマホやタブレット、Wi-Fiなどが生活の隅々に浸透しています。

また、V2Xやセンサーによる自動運転•センサー、遠隔操作などを活用したスマート農業/漁業/林業/物流•携帯電話の復旧などへの衛星やドローンの防災活用も始まっています。

さらには、無線通信を活用した空飛ぶクルマ など、ワイヤレスネットワークを活用する分野が拡大しています。これにより、ワイヤレス産業と関連産業の構造変化が引き起こされています。

ワイヤレスがもたらす経済効果

ワイヤレスの活用が進展した場合の成長シナリオでは、ワイヤレス関連産業の成長により、実質GDPが545兆円(2022年)から約53兆円(2035年時点)押し上げられると推計しています。

あらゆる社会経済活動へのワイヤレスの浸透により、ワイヤレス利用産業への波及効果が見込まれ、2030年時点で約80兆円、2035年時点で110兆円規模と、産業全体に占めるワイヤレス関連規模が拡大していくと推計しています。

ワイヤレスがもたらす経済効果   出典:総務省 デジタルビジネス拡大に向けた電波政策懇談会 報告書(案) 2024.7.2

ワイヤレストランスフォーメーション推進戦略

こういった背景もあり、総務省ではワイヤレスサービスがB2BやB2B2Cなどを通じ、産業構造を変化させ、生活やビジネスが創造性と多様性に満ちたものに変革(ワイヤレストランスフォーメーション)するワイヤレス新時代を実現を目指しています。

①進化するビジネス:Business Innovation
・ワイヤレス化、センサーにより自動化が進展
・NTNなどによりビジネス領域も拡大
・異業種連携により新産業,イノベーションが創出
→ ワイヤレス関連産業の成長により、実質GDPが545兆円(2022年)から約53兆円押し上げ

②真に豊かでワクワクする暮らし:Life Diversity
・ ワイヤレスにより時間的
・空間的な制約がなくなることで、どこにいても希望する教育・医療を受けたり、自分の能力を発揮する仕事が可能
・地方や都市で真に豊かでワクワクする暮らしが実現

③信頼出来る社会:Trusted Connectivity
・災害等が起きても人とつながる安心した暮らし
・意識しなくても安心に使えるサービスを実現
・予想できない不確実な出来事(災害、ウイルスなど)においても産業や暮らしの継続が出来る世界

ワイヤレス新時代の実現  出典:総務省 デジタルビジネス拡大に向けた電波政策懇談会 報告書(案) 2024.7.2

将来に向けた電波有効利用のための目標設定では、

① サブ6・ミリ波、Stand Aloneによる5G整備目標を設定(2027年度までにミリ波基地局数5万局
② トラヒック需要拡大に対応するためのBeyond5G、NTN等の周波数を確保(2040年時点で約70GHz幅

といった設定をしています。

デジタルビジネス拡大に向けた電波有効利用方策

将来に向けた電波有効利用のための政策の柱(RADIOイニシアティブ)を推進していくとしています。

① Rapid expansion
NTNをはじめ陸・海・空・宇宙といったあらゆる空間における電波利用の拡大への対応1)新たな無線システムを導入しやすい免許制度の整備・無線従事者資格の見直し
2)実験促進エリアの設定によるミリ波をはじめとした高周波数帯利用の加速
3)HAPSや衛星コンステレーションによるNTNの実用化の加速

② Rapid expansion re-Allocation
周波数ひっ迫の中で需要が急増する電波の柔軟な利用のための移行・再編・共用
1)周波数移行・再編の加速(条件付オークションの収入の活用などを含む)
2)周波数共用・調整のための新しい仕組みの確立
3)AIを用いた周波数調整の効率化

③ Dependable/Reliable
インフラとしてのワイヤレスネットワークを安全・安心に、安定して利用できる環境の整備
1)携帯電話基地局の耐災害性強化
2)高い周波数などの利用拡大を踏まえた電波監視の強化
3)経済安全保障の観点も踏まえた安定的なサービス提供の確保

④ spectrum user fee Income/Outlay
デジタルビジネス拡大の源泉となる電波の適正な利用を確保するための電波利用料制度
1)電波利用料の総額規模及び料額算定の基本的な枠組みを維持
2)耐災害性強化等の新たな使途の追加の検討
3)新たなシステムの導入や周波数の利用状況を踏まえた見直

今後の展望

陸・海・空・宇宙のあらゆる空間における電波利用拡大に伴うワイヤレス技術の進展は、ビジネスイノベーションなど、さまざまな経済効果が期待されており、都市から地方まで、あらゆる場面での利用が拡大し、持続可能な社会の実現に寄与していく可能性があります。

これらの進展は、いまの私たちが想像もしないビジネスを生んだり、ワイヤレスによる社会課題の解決など、持続可能なビジネスを生み出す可能性もあります。

これらのワイヤレスのインフラを有効活用するための、アプリケーションや、サービスの登場など具体的なユースケースにより、社会全体が恩恵を受けられる、次世代に向けた明るい未来の実現が期待されるところです。

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