【合成生物学ナビ】酵母による天然物生産

2024年3月12日
全体に公開

出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、古くから利用されてきた真菌で、合成生物学でも全ゲノム合成プロジェクトSc2.0の対象にもなっています。実際に、酵母を用いて、ハイドロコルチゾンやアルテミシニンといった化学物質が工業スケールで作られるようになっています。

新しいCurrent Opinion in Biotechnology誌に「Emerging trends in production of plant natural products and new-to-nature biopharmaceuticals in yeast(酵母を用いた植物天然物および新規天然バイオ医薬品の生産における新たな動向)」という総説(オープンアクセス)がでていましたので目を通してみました。

Perrot, T. et al. (2024) Emerging trends in production of plant natural products and new-to-nature biopharmaceuticals in yeast. Curr. Op. Biotechnol.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S095816692400034X

天然物は、人間の健康にとって貴重な化合物の計り知れない供給源である。特に、植物によって生産されるものは、生産量が少ないため、依然として入手が困難である。また、気候変動やパンデミックによって植物由来のバイオ医薬品が不足する可能性もあり、市場の動向は常に緊迫している。そのため、合成生物学に基づくバイオテクノロジーによる代替供給が登場している。こうした革新的な戦略の多くは、化合物の合成に人工微生物システムを利用することに依存している。この点で、酵母は真核生物のモデルとして最も扱いやすく、植物由来の代謝物を異種生産するための生合成経路全体を再構築するのに便利なシャーシであり続けている。ここでは、酵母における新規天然化合物の生物生産に関する最近の発見に焦点を当て、生物生産を最適化するための新たな戦略について概説する。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S095816692400034X

細菌は、増殖速度が速く、遺伝子組換えのための複数のツールが利用可能であるなどの利点があるが、真核生物モデル、特に酵母は、植物と細胞内コンパートメントが類似しており、CRISPR-Cas9のような遺伝子ツールの実装により、複数の遺伝子を導入できることから、強力なツールになっています。

利用可能な酵母モデルに関しては、Pichia pastorisYarrowia lipolyticaと比較して、Saccharomyces cerevisiaeが天然物の生産に最も使用されているシステムであります(注:Pichia pastoris、メタノール資化酵母; Yarrowia lipolytica、アルカン資化酵母)。

テルペン類、フラボノイド類、スチルベン類、アルカロイド類、ベタレイン類といった天然物(てんねんぶつ)を合成するのに、酵母を使い、機械学習を利用した方法で生産を最適化していくことが説明されています。

また、ハロゲン化された前駆体を利用することで、ハロゲン化代謝物が合成され、そのうちのいくつかは優れた医薬品となる可能性が示されています。

最後に、特異的バイオセンサーなどの新しいツールの開発により、酵母での天然物合成をリアルタイムでモニターできるようになり、天然物生産の最適化が加速されるかもしれないとしています。この点に関して、Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、アルカロイド、テルペノイド、ポリフェノールなどの天然物と結合することがよく知られており、特定の化合物を認識するGPCRバイオセンサーを酵母系に組み込むことで、スクリーニングツールの確立が可能となり、最適生産株の同定、ひいては天然物生産が加速される可能性があるということです。

合成生物学は新たな産業革命の鍵となるか?」担当:山形方人

【合成生物学ポータル】 https://synbio.hatenablog.jp

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