ゼロからわかる トランプ前大統領、ジョージア州でも起訴。主な4事件をおさらい
台風7号の上陸で災害ニュースが大半でしたが、アメリカでは「あれ、ついこの間も似たような話がなかったっけ?」という、トランプ前大統領の起訴が大きく報じられています。
「起訴」は検察官が裁判所に「訴え」を「起こす」という意味で、刑事事件で使われます。一方、民事裁判では、「訴え」を「提起」するという意味から「提訴」という言葉が使われ、区別されます。
スキャンダルから数々の民事事件で提訴されてきたトランプ氏ですが、今年は刑事事件の起訴が相次いで今回で4件目です。
4つの刑事事件で被告人となった前代未聞の大統領
アメリカのトランプ前大統領と側近らが、2020年の大統領選で接戦だった南部ジョージア州で、トランプ陣営が敗北した結果を違法に覆そうとしたとして、14日、恐喝や共謀などの罪で起訴されました。
トランプ氏は今年3月に大統領経験者として初めて刑事責任を問われましたが、捜査が進められてきた主な4つの事件、すべてで刑事被告人となりました。
ジョージアでの起訴内容をおさえたうえで、他の3つの刑事裁判とともに関係性や重みをおさらい。最後に、次期大統領選の見通しもみていきましょう。
①ジョージアの集計を覆そうとした「組織犯罪」の罪
はじめに今回の起訴内容です。
2020年11月にあった大統領選で、ジョージア州は激戦州の一つでした。結果は、トランプ前大統領が、民主党候補のバイデン現大統領に1万1779票差で破れます。
この結果が判明した後の21年1月、トランプ氏はジョージア州の選挙管理を担う州務長官に電話して「私が望んでいるのは、1万1780票を見つけることだ」と迫ったことが、通話記録で明らかになっています。つまり「俺の方が1票多くて勝っていた」という主張です。
2年半にわたって捜査してきたジョージア州の検事は、トランプ氏に有利な選挙結果に変えようとする「組織犯罪」の共謀が故意、かつ違法に存在したとして、トランプ氏や顧問弁護士ら計19人を起訴しました。
起訴内容は、ゆすりや虚偽書類の提出のほか、最も重い罪は、マフィアのような組織犯罪対策で整備された、集団暴力と腐敗組織法(RICO法)の違反で、最大で禁錮20年に処される可能性があるといいます。
②民主主義の否定「大統領選の敗北を覆そうとした」罪
次に、トランプ氏がこれまで起訴された4件の事件を整理しましょう。
時期で3つの分け方ができて、2020年の選挙関連で2件、それより以前で1件、トランプ氏が大統領を退任した後で1件です。
選挙結果に直接関連する刑事事件は2件で、一つは今回の「ジョージア州での集計作業への介入疑惑」です。そして、もう一つが8月に起訴された「大統領選の敗北を覆そうと画策した連邦法違反の罪」です。
トランプ氏は「選挙は不正で、自分の勝利だった」とウソの主張をして、バイデン氏の就任が確定するまで2カ月間にわたって手続きを妨害。これを支持者たちに信じ込ませて、大統領の承認手続きをする連邦議会の襲撃事件にもつながりました。
ジョージア州の起訴は接戦州での集計妨害というミクロな動きですが、連邦法違反はマクロな不正疑惑です。選挙で平和的な権力移行をするという民主主義を、大統領が自ら踏みにじる不正行為を問われており、4つの刑事事件のなかでも最も重大だとされています。
③違法な口止め料 ④機密文書の持ち出しの疑惑
残り2件の起訴内容は、20年の前回大統領選とは直接は無関係です。
3つ目は、2016年の大統領選中、元ポルノ女優とのかつての不倫関係が公になって選挙に影響することを恐れ、弁護士を通じて違法に「口止め料」を支払ったとされる疑惑です。
4つ目は、トランプ氏が大統領を退任した際、300点以上の機密文書を、ホワイトハウスからフロリダ州の自宅に持ち帰った疑惑です。
24年の大統領選へ。起訴でむしろ高まる人気
トランプ氏は、いずれの4事件も無罪を主張しており、今回はSNSで「魔女狩りだ」「なぜ2年半前に起訴しなかったのか? 私の政治活動の最中にやりたかったからだ」と投稿して、非難しています。
すでに立候補を表明した2024年の大統領選ですが、共和党候補では一番人気で、2位はフロリダ州のロン・デサンティス知事です。
トランプ氏への支持は、一時低下していましたが、今年3月以降に起訴のニュースが続くと、共和党内でむしろ支持が高まっています。
NBCニュースの世論調査では、共和党支持者の68%が「トランプ氏の立候補を阻止する政治的動機がある。代わりはいないので、支持しなければならない」などと答えており、来年の大統領選は現状「トランプvsバイデンの再選」の可能性が高いとみられています。
トランプ氏によるジョージア州の高官に対する圧力ともとれる疑惑の電話は、ワシントンポスト紙などが入手して公開しています。
さすがに本人も「これはフェイク音声だ」とは言えない肉声です。(下記のBBCの記事中に日本語字幕つきのダイジェスト版あり)
反論は「大統領として選挙不正に抗議するために必要なことで、当時は誰もこの電話に異議を唱えなかった」。つまり、電話内容は事実だが、俺は悪いことは何もしていない──。どこまでもトランプ節です。
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▼参考ニュース:
トランプ氏含む19人を起訴、選挙結果覆す画策で 米ジョージア州大陪審(CNN)
https://www.bbc.com/japanese/66507755
トランプ前米大統領、ジョージア州でも起訴 2020年大統領選に介入と(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/66507755
米ジョージア州裁判所、トランプ氏起訴巡る文書を一時掲載 その後削除(ロイター)
https://jp.reuters.com/article/idJPKBN2ZP1AH
What We Know About the Trump Election Interference Case in Georgia(NYTimes)
https://www.nytimes.com/2023/08/14/us/trump-georgia-election-indictment-what-to-know.html
Donald Trump and allies indicted in Georgia over bid to reverse 2020 election loss(Guardian)
https://www.theguardian.com/us-news/2023/aug/14/donald-trump-georgia-indictment-2020-election
口止め料、機密持ち出し… 対トランプ氏「四つの捜査」をすべて解説(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR3N66C2R3NUHBI01M.html?iref=pc_international_top__n
2024年米大統領選挙は、トランプ氏対バイデン氏の再現か(ジェトロ)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2023/299466092f4006b7.html
▼野上英文著『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)
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