ゼロからわかる ツイッター改め「X」 イーロン・マスクの狙いはWeChatやGojek
アメリカのSNS大手ツイッターが、ブランド名をアルファベット1文字の「X(エックス)」に変更しました。代名詞だった青い鳥のロゴも廃止して、デザインは、黒い背景に白文字の「X」となりました。
ブランド変更は、ツイッターを買収した起業家、イーロン・マスク氏による主導です。
マスク氏は4月には、自らが所有する法人「X(エックス)社」に、ツイッター社を統合して運営も移しており、ツイッターという社名はすでになくなっていました。今回は、社名「X」に、ブランドの名称もロゴも一致させた形です。
ツイッターは、「ツイートする」「リツイート」などと、企業ブランドが日常会話に広がり、さらに動詞としても使われてきた、高いブランド力を持つ稀なSNSプラットフォームです。その有名ブランドをオーナーが自ら廃止するのは、さらに異例といわれています。
このニュース、①マスク氏の狙い、②変更の影響と反響、③元の青い鳥のデザインについて、紹介しましょう。
1. マスク氏の狙い「スーパーアプリ」への近道
はじめにマスク氏の狙いです。
ツイッターからXへの「リブランディング」は、ユーザー目線では唐突に始まりました。
マスク氏が「まもなくツイッターのブランドにさよならを告げる。徐々にすべての鳥とお別れする」と予告したのが22日のことです。
翌23日には「プラットフォームカラーを(現在の青から)黒に変える」と予告、さらにユーザーから新たなロゴマークを募集しました。24日には米国のユーザーが投稿したロゴを微調整し、正式採用すると明かしていました。
そして25日には、サンフランシスコのオフィスビルの看板も取り除かれます。
わずか4日間でロゴから看板まで一変させました。
ツイッターのデスクトップ版ではさっそく「X」が表示される一方で、スマホアプリではなお、青い鳥のロゴの表示が続いています。
ただ、マスク氏は、ブランドの変更が「もっと前に行われるべきだった」と語っていて、今後は、エックスという名前の「スーパーアプリ」を作る意欲をみせています。
スーパーアプリとは、電子決済や送金といった金融サービスをはじめ、日常生活に必要なあらゆる機能をまとめたアプリ。英語でeverything app (万能アプリ)とも呼ばれます。
例えばアジアでは、インドの「PayTM」やインドネシアの「GoJek」が、金融システムと連携して、さまざまなサービスを展開しています。
マスク氏がモデルとして目指しているのではと、もっぱら噂なのは、中国の「微信(ウィーチャット)」です。中国版Twitter・フェイスブックなどと言われてきましたが、提供サービスをアジア随一にまで増やして、昨年の利用者数は中国だけで12億9000万人に達しました。
マスク氏はそもそも、このスーパーアプリ「X」の実現を早めるため、ユーザーを手早く獲得する目的で、ツイッターを買収したとも言われます。影響力を高めたり、マーケティングを強めたりするために、「フォロワーを買う」という言葉や行為がありますが、「ツイッターを丸ごと買った」わけです。
今後はツイッター機能とフォロワーを持ったスーパーアプリXの開発を加速させる見込みです。
ただ、かつて、ほかのSNSが参入する余地や企業の力がなかった中国やアジアの一部地域と、現在の世界のアプリの状況は違っています。ITテックがそうしたサービスを欧米ですでに展開していることもあり、Wechatと同じ道を歩むのは難しい、との指摘もあります。
マスク氏が6月にツイッター運営を任命したリンダ・ヤッカリーノCEOは23日、社名変更について「人生においてもビジネスにおいても、大きな印象を与える2度目のチャンスをつかめることは滅多にない」とコメントしました。
「ツイッターは巨大な印象を与え、我々のコミュニケーションの在り方を一変させた。今、Xはその先へ行き、世界中の街の広場を転換させる」
2. 影響と反響「ツイートの言い換えは?」
財務上の影響ですが、ツイッターが世界でいまのブランド価値を獲得するのには15年余りかかっています。
これに対して、現地のアナリストらの分析として、今回の動きで40億〜200億ドル(約5700億〜2兆8300億円)の価値が吹き飛んだと、ブルームバーグは報じています。
ツイッターをめぐっては最近、認証マークの有償化や閲覧の制限、さらには人員整理といった経営判断が、ネガティブな報道や訴訟につながっています。
こうした「ドラスティックな変化」を広告主やユーザーは嫌い、マスク氏は今月にツイッターの広告収入が半分に減ったことを明らかにしています。また、ツイッターの価値は、昨年10月にマスク氏が買収した440億ドルの3分の1程度になっている、といいます。
また、新しいブランド名とロゴの「X」ですが、アメリカでは数百社が「X」の商標登録をしており、あまり特徴のないXのロゴが保護される範囲は、ツイッターに比べてとても狭くなる、と専門家はみています。
一方、ユーザー体験の影響も少なくありません。
利用者の間では、「ツイッター消滅」がトレンド入りしました。
SNSでユーザーから「ツイートは今後、何と呼ぶべきか」と問われたマスク氏は「X’s(エックセズ)」と答えましたが、「ではリツイートはどうなるのか?」と聞かれると、「考え直す必要がある」と返すにとどまりました。
今後、ブランド変更の影響がどこまで広がるのか注目されています。
3. さようなら、青い鳥。名は「ラリー」
ユーザーから「別れがつらい」と惜しむ声が集まっている青い鳥について振り返りましょう。ツイッターのロゴ「だった」青い鳥の名前は「ラリー」といいます。
ツイッターの共同創業者ビズ・ストーン氏が名付けの背景を明かしており、1980年代のプロバスケNBAを席巻したラリー・バード選手にちなんだそうです。
2012年にこの「ラリー」をデザインしたマーティン・グラッサー氏は、廃止の一報を受けて、青い鳥の原画とともに、成り立ちの説明をする投稿しました。
「今日、私たちはこの偉大なる青い鳥に別れを告げる。このロゴは2012年に3人のチームによってデザインされた。 シンプルでバランスが良く、とても小さなサイズでも読みやすいようにデザインした」
ツイッターとえいば、共同創業者のジャック・ドーシー氏が有名ですが、このツイートにヤギの絵文字をつけてリツイート。「Greatest Of All Time(過去最高)」の頭文字をとったヤギ(Goat)の絵文字が、こうしたケースで使われるといいます。
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▼参考ニュース:
ツイッターが「X」に名称変更、青い鳥のロゴも廃止に
https://www.bbc.com/japanese/66298031
ツイッターが「X」に、青い鳥は消滅 マスク氏発表
https://www.cnn.co.jp/tech/35206946.html
ツイッターの青い鳥から「X」へ、マスク氏のリブランディングは正しいのか?
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66298036
ツイッター、40億-200億ドルの価値喪失も-ブランド名「X」に変更
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-07-25/RYBSB5T0G1KW01
ツイッターのブランド変更、問題に直面も 数百社がXの商標登録
https://jp.reuters.com/article/twitter-musk-logo-trademark-idJPKBN2Z506D
青い鳥をデザインしたマーティン・グラッサー氏のお別れ投稿
https://twitter.com/martingrasser/status/1683266038602010624?s=20
▼野上英文著『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)
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