2023/3/12

【教えてプロ】出生数「過去最少」今からできることは何か?

NewsPicks コミュニティチーム
児童手当の財源確保や子育て支援は、本当に課題解決の一手になるのか?
今、岸田文雄首相が年初に明言した「異次元の少子化対策」をめぐる議論が活発になっています。
NewsPicksのコメント欄で読者の質問を募る「#教えて」シリーズ(詳細はこちら)。今回は【#教えてプロピッカー】で、少子化対策にまつわる疑問を深掘り解説していきます。
INDEX
  • 👨👩👧 日本の少子化、何が問題なの?
  • 🌎 世界の出生率はどうなのか?
  • 🤱 現状をどう変えていけばいい?
  • 次回は3/19【#教えて編集部】

👨‍👩‍👧 日本の少子化、何が問題なの?

今回取り上げるのは、2月下旬に報じられた韓国 出生率『0.78』7年連続過去最低 少子化歯止めかからず(NHKニュース)に寄せられた質問です。

少子化の話題が増える中、日本と世界の現状はどうなっているのでしょう。

産婦人科医のプロピッカー稲葉可奈子さんと、独身研究家の元プロピッカー荒川和久さんに解説してもらいました。
厚生労働省が発表した、2021年の日本の出生数は81万1604人。
国際比較でよく使われる「合計特殊出生率」(調査年における15〜49歳の出生率の合計)は1.30で、前年の1.33から低下。
しかも、今年2月に出た人口動態統計の速報値だと、2022年の出生数79万9728人は統計開始以降で最少。これが日本の現状です。
言わずもがな、少子化は国力が落ちる要因となります。冒頭で紹介した「異次元の少子化対策」に挑戦するという岸田首相の発言は、何とかして歯止めをかけたいという考えの表れでしょう。
しかし、現時点で基本方針と見られる3つの柱
  1. 児童手当など経済的支援の強化
  2. 学童・病児保育、産後ケアなどの支援拡充
  3. 出産・育児のしやすい働き方改革を推進
について、稲葉可奈子さんは「付け焼き刃の財源確保ではなく、社会システムそのものを見直す必要がある」と指摘します。
後述する先進各国の少子化対策を見ても、家族向け社会支出の増強や社会保障制度の充実だけでは中長期的な問題解決にはならないと分かっているからです。
(Photo:iStock / hamzaturkkol)
また、各メディアで少子化問題について発信を続けている荒川和久さんは、国が進めてきた少子化対策は根本的に的外れであると述べています。
「子育て支援はどんどんやるべきですが、『子供を産みやすくする』ための政策だけでは、中長期的な出生率は上がりません。問題の本質は、子供を生む人が減っている『少母化』にあるからです」(荒川さん)
荒川さんが言う少母化とは、15〜49歳の女性の絶対人口が減少していることを指し、それを招いた要因は「婚姻数の減少」だと指摘します。
事実、2020年の国勢調査に基づく男女の生涯未婚率(50歳時未婚率)は過去最高。男性は28.3%、女性は17.8%で、「若者は結婚したくてもできない環境に置かれている」(荒川さん)と言います。
この理由について、下のご質問への解説で詳しく説明していきます。

🌎 世界の出生率はどうなのか?

ご質問ありがとうございます。まず世界の出生率を見てみましょう。
総務省統計局「世界の統計2023」によると、2020年時点の普通出生率(人口1000人あたりの年間出生率)は、
  • 先進国の平均が9.5
  • 開発途上国の平均が18.7
と二極化していることが分かります。
ただ、1985年からの推移を見ると、先進国、開発途上国ともに下がり続けています。
世界人口についても、国連が一時期「2100年に100億人超え」と試算していましたが、一転、2050年の約90億人をピークに減少していくと言われ始めています。
長期的には、世界全体で出生率が落ちていき、人口増も止まると見る動きが強まっているのです。
今年に入り、韓国では2022年の合計特殊出生率が0.78(暫定値)で過去最低を記録したと報じられ、中国でも出生率が統計開始以降で最低になるなど、この傾向はすでに顕在化しています。
荒川さんは、その背景に「若者が若者のうちに結婚をして、子どもを産むことができなくなっている」という経済的な現実があると指摘しています。
🇰🇷 韓国の現状

2010年代から「三放世代」と呼ばれる恋愛、結婚、出産を放棄する若者が増えていると言われている。

日本以上の学歴社会で、「就職難による将来の経済不安が原因」(荒川さん)だという。
🇨🇳 中国の現状

過酷な競争社会を生き抜くことをあきらめた一部のZ世代が「寝そべり族」と呼ばれており、少母化の要因と見られている。
これは「日本も同じ構造」だと荒川さんは言います。
つまり、出産や子育て以前に結婚への障壁として「若者の経済問題」が存在し、この問題から目を背けている限り、子育て支援だけでは焼け石に水だというわけです。
他方で、今回いただいた質問にある「出生率が多い国」という視点で見ると、一時的になら出生率を上げた先進国もあるにはあります。
例えば次のような国々です。
🇫🇷 フランスの取り組み

1993〜1994年に合計特殊出生率が1.65まで落ち込んだ同国は、家族向け社会支出のGDP比率を高めながら、当時の大統領の名前を用いた「シラク3原則」(以下)を旗印に改革を推進。

1. 出産による経済的負担の軽減
2. 無料保育所の完備
3. 産休・育休からの復帰時は「休暇中も勤務していた」と評価

結果、2010年には合計特殊出生率が「2」を超え、EUではトップの水準まで回復した。
🇸🇪 スウェーデンの取り組み

1980年後半から現在まで、合計特殊出生率が1.5〜2程度を推移し続ける同国は、家族向け社会支出の対GDP比が3%台と、日本(約2%)を上回る。

また、出産後の育児休暇が最大で480日間与えられるなど(当該期間の給与所得も、390日間は8割支給)、働き方の面でも手厚い配慮が義務化されている。
しかしこの2国ですら、合計特殊出生率は低下またはギリギリ現状維持の状態にあります(2022年時点で、フランスは1.83、スウェーデンは1.66)。
フランスのINSEE(国立統計経済研究所)は、2010年まで一時的に出生率が回復した要因として、移民など外国人の出生率が上がったことを挙げています。
逆に言うと、出生率が再び低下しているのは「フランス人の出生率は上がりきらなかったから」と公式に認めた形です。
移民大国のフランス(Photo:AP / アフロ)
「国の支出や子育て支援を増やせば出生率が上がると考えるのは幻想」という、荒川さんの主張を裏付ける形になっています。
稲葉さんも、こうした各国の状況を見た上で、「少子化は政策、制度を改善すれば解決するという単純な問題ではない」「同時に出産・育児に対する社会全体の見方、価値観をアップデートするのが大切」だと指摘します。

🤱 現状をどう変えていけばいい?

では、子供人口が減る未来が「世界的に間違いなし」という中で、どんなことに取り組むのが大切なのでしょう。
経済問題という根本的な課題以外で、私たちも考え、行動できる事柄は何か?という質問に、2人はこう答えます。
日本の出生率は1.30ですが、希望出生率は1.8。だから、『もっと産みたい』と考えている人たちの不安を取り除く環境づくりが求められます」(稲葉さん)
「結婚したいのにできない『不本意未婚』が増えている現状に手を打つことこそが必要です」(荒川さん)
(Photo:iStock / kazuma seki)
具体策の1つとして、2人が異口同音に提案したのが、
  • 男女問わず出産・育児に対する漠然とした不安を解消するコミュニティづくり
です。
例えば、子育てで最も小さな単位のコミュニティは「家族」でしょう。
米ハーバード大学が日本・アメリカ・スウェーデンの3カ国で比較調査をした結果、男性の家事・育児負担率と出生率は正の相関関係にあったそうです。
稲葉さんはこれを引き合いに、次のように話します。
「調査結果を拡大解釈すれば、企業経営でも『子育ては女性が行うもの』という価値観をなくすのが大切です。
男性の育休取得だけではなく、その後の育児にも男性もコミットすることが当たり前になるような状態にしていくことが、不安解消の一助になるでしょう」(稲葉さん)
(Photo:iStock / Halfpoint)
また、社員の出生率を1.97まで改善したことで知られる伊藤忠商事の「働き方改革」についても、稲葉さんはこう分析しています。
「社内託児所の新設や朝型勤務の全社採用など、さまざまな働き方改革を進めた結果と言われていますが、制度以上に重要だったのではないかと思うのが、社内に出産・育児とキャリア形成を両立するロールモデルが増えたことです。
同じ業種、同じ職業で身近なロールモデルがいると、『復職は大変そう』『2人目、3人目を産んでも大丈夫?』などという不安が払拭されます。
これもコミュニティの1つの形で、経営者や管理職の人は制度変更以上に重視するべき点だと思います」(稲葉さん)
地域レベルで少子化対策に取り組む自治体の中では、特に千葉県流山市のやり方が「コミュニティ形成型だった」と稲葉さんは言います。
子育て支援に回せる財源が少なくても、「市民を巻き込んで子育て世代が接し合うコミュニティづくりを続けた」(稲葉さん)結果、
  • 全国の市の中で人口増加率が6年連続1位に(2016〜2021年)
  • 合計特殊出生率は全国平均の1.30より高い1.56に(2021年)
なっています。市のブランディングサイト「ながれやまStyle」では、ロールモデルとなる家族の紹介も積極的に行っているようです。
2019年に話題となった流山市の交通広告。「父になるなら、流山市。」バージョンもある(画像:同市のプレスリリースより)
ちなみにこのコミュニティづくりに関連して、荒川さんは「時代の流れに逆行しているかもしれない」と前置きした上で、大企業による20〜30代社員の全国転勤を復活させるのも面白いと提言しています。
「経済問題を解決しない限り、少母化は止められないというのが私の主張ですが、地方へ講演に行くと『中小企業では賃上げにも限界が......』という声をよく聞きます。
そもそも、地方からは若者の流出が多く、結婚すらできない状況もあります。
なので、大都市圏に集中する約3割の大企業就業者が、一時的に地方にかかわれる環境を作ることで、互いに何かしらの化学反応が起きるかもしれません。
生活基盤としての移住を推奨するのではなく、仕事の場としてかかわり、しかも期間限定だからこそ客観視できることもあります。いわば、人の縁の流動性です」(荒川さん)
(Photo:iStock / gremlin)
今、所属するコミュニティを一歩抜け出し、“接続するコミュニティ”を増やすことで見えてくる景色はたくさんあります。
「一見、少子化対策と無関係な話と思われるかもしれませんが、今起きているのは人の縁の固定化と分断だと思うので。
昔のムラ社会に戻るというのではなく、令和ならではの『人と接続する』環境ができるのではないでしょうか」(荒川さん)
最後に稲葉さんは、4児の母としても「子供たちにこの問題を押し付けたくない」「子供を望む人が望む人数の子供に恵まれるように、あきらめずに声を上げ、ロールモデルを増やしていくことが大事」だと語ります。
私たちにできるのは、「あきらめない人」の主語を増やすこと。
女性や若者たちだけの問題にしない環境づくりを、皆が考えて実践していかなければならないということでしょう。
そのためのアイデアや新たな論点があれば、ぜひコメント欄に書き込んでください。

次回は3/19【#教えて編集部】

NewsPicksは、これからも読者の「もっと知りたい」にお応えしてまいります。
【#教えて編集部】【#教えてプロピッカー】でいただいたコメントには、全て目を通しておりますので、たくさんの「問い」をお寄せいただけたら幸いです。
また、問いに対する答えは1つではなく多様であるため、追加取材した記事の内容も1つの意見だということをご認識いただけましたら幸いです。