東アジアの中心に創出する、次世代テック市場
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2017/10/28
少子高齢化によって生産人口が減少するなか、どのように産業やコミュニティを維持・発展させていくか──現在さまざまな課題に直面する地方で、先端テクノロジーを使った取り組みが行われている。
いまの地方を取り巻いているのは、東京などの都市部にも、いずれ訪れるであろう状況だ。未来の変革は、ローカルから始まっている。(全7回連載)
いまの地方を取り巻いているのは、東京などの都市部にも、いずれ訪れるであろう状況だ。未来の変革は、ローカルから始まっている。(全7回連載)
九州最大の都市・福岡市。ここ数年、経済誌などでは「勢いのある都市」の筆頭に挙げられることも多い。東アジアの大都市を経済圏に収める地理的優位性に加え、スタートアップビジネスを後押しする自治体のサポートも手厚く、起業家たちから熱視線が注がれている。
ここ1年の間だけでも、さまざまなビジネスの種がまかれた。昨年度はIoTに関するコンソーシアムが立ち上がり、福岡の街をフィールドにした民間企業の実証実験をサポートする事業も始まった。コンソーシアムの参加者はドローンにも高い関心を寄せており、さまざまな実証実験に取り組んでいる。
福岡は今、IoTなどの先端テクノロジーを駆使した新しい産業を創出し、アジアを代表するスタートアップ都市を目指しているのだ。
2016年9月、福岡市と福岡地域戦略推進協議会(以下、FDC)の共同プロジェクト「福岡市実証実験フルサポート事業」がスタートした。ITやIoTを活用した社会的課題の解決や市民生活の質の向上などにつながる実証実験プロジェクトを全国の民間企業から公募し、新たな産業の創出・育成を目指すというものだ。
なかでも、次世代産業の柱として福岡市の企業が関心を寄せているのが「ドローンビジネス」。FDC内に「九州ドローンコンソーシアム」を組織し、ドローンオペレーターの育成やドローンによるIoTネットワークの実証実験などを行っている。
こうした取り組みは、福岡や九州にどんな未来をもたらすのか? 取り組みの最前線にいる関係者たちに語ってもらった。
手厚いスタートアップ支援で開業率日本一
お話を伺ったのは福岡市経済観光文化局の石井隆之氏、FDCシニアマネージャーの平山雄太氏、九州ドローンコンソーシアム代表理事の増本衛氏(株式会社トルビズオン)、さらに、日本初のドローンスタートアップ専門のベンチャーキャピタル「DRONE FUND」を立ち上げた千葉功太郎氏。
まずは福岡市の新産業振興を担う石井氏に、「福岡市実証実験フルサポート事業」や「九州ドローンコンソーシアム」立ち上げの経緯を聞いた。
── 福岡市は他の地方都市に比べ、非常にアグレッシブにスタートアップ支援を行っている印象です。
石井:福岡市が新しい産業の創出に力を入れているのは、今に始まったことではありません。30年前には、これから情報化社会が訪れることを予見して、ももち浜の埋め立て地に情報システム系の企業を多数誘致しました。
さらに、そうした企業を支援する外郭団体や出資団体も立ち上げ、連携しながら産業を育てた結果、今では市内の情報関連産業は約2000社に増え、九州全体の売上高の63%を占める規模にまでなっています。
石井隆之(いしい・たかゆき)/福岡市 経済環境文化局 創業・立地推進部 新産業振興課長。東京都立大学法学部卒。金融機関を経て、2004年に福岡市役所入庁。現在、ITやIoTなどに関わる企業や大学、研究機関などと連携しながら、先端的なテクノロジーを活用したまちづくりに取り組んでいる。
── そもそも情報通信産業が栄えていて、IoT都市としての土壌があったわけですね。
石井:加えて、IoTビジネスと親和性の高いスタートアップが起業しやすい環境も整っています。福岡市は創業支援を政策の柱とし、2012年にはスタートアップ都市宣言、2014年にはグローバル創業・雇用創出特区、国家戦略特区の認定を受け、さまざまな規制緩和のメニューを市内で使えるようになりました。
さらに、スタートアップを対象にした法人市民税の免除など、独自のスタートアップ支援も行っています。その結果、福岡市内の開業率は約7%(2015年度)で、全国トップとなっています。
── 昨年9月からは「福岡市実証実験フルサポート事業」も始動しました。
石井:IoTビジネスではリアルなフィールド、つまり実際の街中での実証実験が必要になりますが、行政はまず規制から入ってしまうところがある。私たちの部署は、まずトライすることから始めています。
行政が管理する公共施設のフィールド調整だけでなく、FDCに加盟する地元の民間企業や商業施設のサポートも受けられますし、さらには通信ネットワーク「Fukuoka city LoRaWAN※」の実証環境を提供するなどして福岡市内での実証実験をフルサポートしていきます。
※LoRaWAN…LPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク通信技術の一つ。低消費電力かつ長距離通信が可能で、IoTサービスの利用に適したオープンな通信規格として注目を集めている。
── なかでも「ドローンスタートアップ」の支援に力を入れていますね。
石井:市内のITやIoTに関わる事業者の方々が、今まさに関心を持っている分野の一つがドローンを使ったビジネスです。2016年9月には、株式会社トルビズオンさんなどドローンを使ったビジネスに着目した企業の方々を中心に、FDC内に「九州ドローンコンソーシアム」が立ち上がりました。
日本中の空に、数億台のドローンが飛び交う
── 次に、千葉さんにおうかがいします。こうした福岡市の取り組みについて、スタートアップを支える投資家として魅力を感じるのはどんな部分でしょうか?
千葉:福岡ほどの大都市で「Fukuoka city LoRaWAN」のような無料の通信インフラが整備されれば、IoTが一気に普及する可能性があると思います。すべてのものがインターネットにつながったフルコネクテッド社会が、どこよりも早く実現する未来都市になれるポテンシャルを秘めているのではないでしょうか。
それに、LoRaWANは福岡市が力を入れているドローンビジネスとの相性も良いですよね。
千葉功太郎(ちば・こうたろう)/投資家・慶應義塾大学SFC研究所、ドローン社会共創コンソーシアム 上席所員、Drone Fund General Partner。1997年に慶應義塾大学卒業後、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社し、インターネット事業立ち上げに携わる。株式会社サイバード、株式会社ケイ・ラボラトリー、株式会社コロプラを経て、現在、IT業界のエンジェル投資家として活動。
── ドローンとの相性が良いのは、どんな点ですか?
千葉:現状ではドローンにSIMカードを挿して、空飛ぶIoTデバイスとして通信を行っています。しかし、これではコストが高い。大がかりな実証実験ともなれば、ドローンで撮影した画像データをLTEで送るだけでもかなりの通信コストがかかってしまいます。
LoRaWANはナローな通信技術なので、膨大なデータを瞬時にやりとりすることは難しい。それでも、ドローンが今どこを飛んでいて、どんな状態なのかを把握し、緊急時にサポートを行うといった、最低限の航空管制には十分です。しかも、行政が無償で提供してくれるわけですからね。
── では、ドローンをビジネスに活用する事例、アイデアを教えてください。
千葉:現行の法律では地上0mから150mまでがドローンの飛行可能区域として開放されているのですが、ここが全て物理的なインフラネットワークになります。
物を運ぶこともできますし、空から映像を撮る、センサーを使って情報を集める、防犯・防災のための監視を行うなど、さまざまな用途があります。農業や測量にも使えますし、産業ドローンが普及すれば、他にも思いもよらない新しい価値やサービスが生まれてくるでしょうね。
今のドローンって、いわば黎明期なんです。インターネットでたとえると、1993年あたりの「パソコン通信」くらいの段階。その時代に iPhone のような端末を誰もが手にして、手元で何でもできてしまう未来が訪れるなんて、なかなか予測できなかったと思います。
ドローンも同じで、これから端末がコネクテッドされ、法律も整備されて福岡市の上空を1万台のドローンが常に飛び交うような時代がやってきたとき、今では想像もできないようなサービスが生まれてくるのではないでしょうか。
── スマホのように、1人1台ドローンを所有する時代がやってくるかもしれませんね。
千葉:個人がマイドローンを持つかどうかは分かりませんが、人間よりもドローンの数が多くなるのは間違いありません。日本中の空に数億台のドローンが飛び交う時代は、おそらく5年以内にやってくるでしょう。
2018年には特定のエリアに限りドローンの自動自律飛行が可能になる法律も整備される予定です。特定のエリアというのは、1平方キロメートルあたりの人口が2000人未満の地域。つまり、離島や山間部、農村地帯では早くも「ドローン前提社会」が動き始めるということです。
その後、都市部でも、2020年以降には自動自律飛行が可能になっていく見込みですが、東京はいろいろな規制があって社会実装されるまでには時間がかかる。その点、現時点で他の大都市に先駆けて実証実験を行っている福岡市は、すでに大きなアドバンテージを得ていると思います。
「課題先進国」の日本、IoTの活用は待ったなし
ドローンはビジネスとして大きな可能性を秘めるだけでなく、災害対策や人口減少に伴って生じる社会課題など、日本が抱える諸問題を解決する手段としても用いることができるという。
増本衛(ますもと・まもる)/九州ドローンコンソーシアム代表理事、株式会社トルビズオン代表取締役社長。西南学院大学法学部卒、九州大学大学院MBA修了。大手通信企業の法人営業を経て、2014年にドローン販売・操縦士教育を主体としたコンサルティングを行うトルビズオンを創業。2016年9月より、九州ドローンコンソーシアムを他5社と設立。
増本:九州ドローンコンソーシアムは、そもそも防災対策を主な目的として発足しました。九州は台風の通り道であり、毎年のように豪雨・洪水が起こっています。ドローンをうまく使えば、防災・減災にも役立つ。川の上流部や山間部の状況を逐一チェックしたり、遭難者を捜索したり、さまざまな使い方があります。
平山:たとえば建築物の点検も、これまでのように足場を組み、人間が目視で行う限り、なかなか生産性が高まりません。しかし、ドローンや、ドローンで撮影したデータを活用すれば、公共施設に限らずインフラ全体の管理を効率化することができます。
人口が減り続けるなかで、これからは人手を使わず労働生産性を高めていく必要があります。IoTやドローンを活用した社会は未来の話ではありません。私たちが抱えるさまざまな問題を考えると、もはや待ったなしの状況にあるといえます。
平山雄太(ひらやま・ゆうた)/福岡地域戦略推進協議会(FDC)シニアマネージャー。立命館アジア太平洋大学、九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻卒。金融セクターにて新規事業の立ち上げ後、2016年2月に独立。2016年3月より、FDCに参画。
増本:日本は、いわば「課題先進国」なんです。特に人口減少、高齢化問題、インフラの老朽化、これから多くの先進国が直面する社会課題を、ひと足先に体験することになる。でも、それを悲観していても仕方ない。
見方を変えれば、将来的な超少子高齢化社会の貴重なサンプルであり、ビジネスチャンスでもあると思います。世界に先駆けてドローンを含めたIoTを社会実装し、磨き上げ、1億2000万人の課題を解決できれば、必ず世界がそのノウハウを欲しがるはずです。そのまま世界に輸出することができるわけですから。
── 福岡は、国内だけでなく世界を見据えている。それも、スタートアップが集まる理由の一つですね。
平山:東京を起点に1000km圏の円を描くと、北海道から九州までが収まります。まさに日本の中心です。
でも、福岡を起点とする1000km圏内には、東に東京、西に上海、北にはソウルや釜山といった、いくつもの大都市圏が包含され、円を2000kmまで広げると全世界のGDPの約30%を占めるエリアが収まる。このことから、福岡は「東アジアの中心」という見方もできると思います。
千葉:東京から見れば東アジアは遠いですが、博多から見れば近い。福岡から東京に持っていくのも、広州やシンガポールに輸出するのも感覚としては変わりませんから、福岡は東アジアの経済圏を、外需ではなく“内需”として取り込む力を持っていますね。
そうした地理的優位性に加え、行政も企業もやる気があって、実証実験のための環境も整っている。今、世界で最も大きな発展性を秘めているといっても過言ではないかもしれません。今後、福岡で生まれる新しいビジネスやソリューションは、アジア全域に広がっていくと思います。
東日本大震災以降、多くの企業が福岡に本社を移転したり、拠点を構えたりするようになった。当初は被災リスクを低減させる目的が大きかったが、今では「わざわざ福岡に来るべき理由がいくらでもある」と千葉氏は語る。
多くの企業がそのポテンシャルに注目し、東京に偏りがちだった優秀なプレーヤーも数多く参入。街全体として、福岡発のIoTビジネスを盛り上げていこうという機運が高まっているのだ。
AppleやAmazon、Google、Facebookを生み出したシリコンバレーのように、福岡がIoTビジネスの世界的発信地になる日が早晩やってくるかもしれない。
多くの企業がそのポテンシャルに注目し、東京に偏りがちだった優秀なプレーヤーも数多く参入。街全体として、福岡発のIoTビジネスを盛り上げていこうという機運が高まっているのだ。
AppleやAmazon、Google、Facebookを生み出したシリコンバレーのように、福岡がIoTビジネスの世界的発信地になる日が早晩やってくるかもしれない。
(取材・文:榎並紀行/やじろべえ 編集:宇野浩志、呉琢磨 撮影:松山隆佳 デザイン:片山亜弥)
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