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KPIはユーザーの問題を正しく解決に導けたか

雷軍本人こそがシャオミの「トップカスタマーサービス」

2015/8/12
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。前々回と前回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング
本編第2回:シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」
本編第3回:ユーザーを魅了するシャオミの「飢餓感商法」
本編第4回:シャオミのファン育成戦略、「ランク分け」で競争心を煽る
本編第5回:シャオミ、CEO雷軍が重視した「起業家としてのブランド価値」
本編第6回:シャオミがつくっているのは商品ではない。ライフスタイルだ
本編第7回:シャオミCEO雷軍のポリシーは「神は細部に宿る」

カスタマーサービスこそ「イノベーティブ」であれ

「シャオミは、『企業知道(バイドゥによる企業とユーザーのための交流サイト)』において、真心と誠意をもって専門的な回答をし、徹底的にサービスに責任を持っている」

このような理由において、シャオミは2012年のバイドゥの「ベストカスタマーサービス大賞」を獲得した。毎日10万以上のビーフンたちと交流を持ち、その回答数及び満足度が最高だったことが評価されたのだ。

雷軍はウェイボで嬉しげに、このニュースをファンにシェアした。

EC企業にとって、カスタマーサービスは直接ユーザーとコミュニケーションがとれる貴重なルートである。その成否は、企業のサービスの質やブランドイメージを大きく左右する。そのため、雷軍はカスタマーサービスを極めて重要視している。

「カスタマーサービスはシャオミとユーザーをつなぐカギであり、ビーフンたちのシャオミに対するブランドイメージを決定づけるものである。現在、シャオミのコールセンターには1000人の椅子があり、これは、中国の携帯電話業界で最大規模だ。通話率も業界トップである。シャオミのカスタマーサービスのポリシーは『サービスの質を上げよう。ビーフンと友達になろう』だ」

シャオミは一貫して、「ユーザーと友達になる」ことを強調している。カスタマーサービスの理念とシャオミのファン文化は、切っても切り離せない。

シャオミのウェイボによるカスタマーサービスはユニークだ。新浪やテンセントといった2大主流ウェイボにシャオミは企業アカウントを持ち、カスタマーサービスでは30分以内に回答する。雷軍は今後もカスタマーチームを強化し続け、早晩ビーフンのための24時間サービスを実現したいとまで考えているようだ。

注目すべきは、雷軍本人こそがシャオミの「トップカスタマーサービス」であることだ。雷軍曰く、「私は一週間に6日出勤している。そのうちの5日はシャオミにいる。私は毎日シャオミフォーラムと自分のウェイボにログインする。そこに寄せられる多くの書き込みに、私はいつも注意を払っている」。

あるとき、雷軍の娘の教師が彼女に「あなたのお父さんは何をしているの?」と聞いたとき、彼女はこう答えた。

「お父さんはふたつのことしかしていません。会議と、お客さんへのサービスと」

商品の機能に関していい意見があれば、「トップカスタマーサービス」である雷軍が、すぐさま反映させる。雷軍にとって、カスタマーサービスは、企業の戦略を決めることと同じくらい重要なのである。黎万強曰く、「設計者と開発者は自分たちの商品を使わなければならない。自分で使わない者に、発言権はない」。

シャオミの創始者グループや幹部は、毎日2~3時間フォーラムに参加し、ユーザーとコミュニケーションをとり、ニーズを掘り起こしている。

ファンとのふれあいに関して、シャオミは「15分反応」というルールを定めた。友好的な提案であろうと、文句であろうと、シャオミの社員は極めて短時間のうちに答えなければならない。また、フォーラムの書き込みにすぐに回答しているかどうかは、プログラマーの人事考課における重要な指標になっている。

シャオミのカスタマーサービスを管轄している楊京津曰く、「上は社長から、下は第一線の社員まで、われわれのサービス重視の考え方は決して単なるスローガンではない。われわれ自身の行動は、元をたどれば社長の示す手本からきているのだ」。

カスタマーサービスを通じて、ユーザーのニーズを探り、関連部署に伝える。これが多くのEC企業の慣例だ。しかし、シャオミにとっては、これではまったく不十分だ。

シャオミでは、研究開発、設計を含めたすべての社員がみな第一線で顧客とふれあうことが必要だと考えられている。この理念のもと、シャオミのユーザーフォーラムと開発グループは、共同でバグ管理システムの実現に向けて取り組んだ。ユーザーの新しいニーズとアイデアが常に開発グループに知らされ、対応できるようにしたのである。

より一層カスタマーサービスの質を向上させるために、シャオミのアフターサービスチームは、携帯電話に「シャオミのかけら」と呼ばれるシステムを搭載した。ユーザーとのやり取りの中で問題を見つけたなら、どんな社員でもこの「かけら」に意見を出せば、すべての人が、その書き込みを見て、コメントを書いたり「いいね!」を付けたりすることができる。

そして、一定の期間内に、「かけら」システムの運営グループがその書き込みを要約し、まとめ、分析する。採用された意見はすぐに実行に移され、提案した社員には一定の報奨が与えられる。この仕組みにより、シャオミのユーザーからのフィードバックシステムはより活性化された。

シャオミのスマホが人気を博すにつれて、サービスへの要求も高まっている。雷軍には、このことについて大変深い感慨がある。

「ずっと海底撈がわれわれの手本だった。われわれはさらにスピードアップして、サービスをいいものにしていかなければいけない」

シャオミには1つの不文律がある。「新入社員はまず、海底撈に連れて行き、食事をさせる」というものだ。それほど、雷軍は海底撈のサービスに心酔し、シャオミのサービスもそのレベルまで引き上げたいと考えている。

サービスの水準を保証するために、シャオミのカスタマーサービスの60%以上が、HPから直接オペレーターとやり取りできる「オンライン通話システム」をとっている。

この方法は、すべてのカスタマーサービスの業務の中で最も難易度が高い。顧客と接するサービススタッフがすべての商品技術に習熟している必要があるからだ。

楊京津曰く、「われわれは第一線の社員のために、『われわれが提供しているのはイノベーティブなサービスである』という雰囲気をつくりだしています。わが社には、ものものしい階級制度もなければ、KPIもありません。われわれにとって、他社のKPIに当たるような指標はただひとつ、ユーザーの問題を正しく解決に導けたかどうかだけです」。

あるとき、一人の現場の社員が「ユーザーの問題を解決に導く」という理念に基づき、自発的に、複雑で無味乾燥になりがちな技術的問題を、他の社員が楽しんで理解できるようにと漫画にした。

そして、それを動画にしてオフィスのディスプレイで繰り返し再生し、カスタマーサービスのスタッフが休憩時間に頭を上げると自然に目に入るようにした。このような工夫により、多くの技術的問題は全社員の頭に自然と入るようになっているため、ユーザーからどんな問題が出されても、すぐさま答えられるようになっている。

また、シャオミのフラットな組織構造はカスタマーサービスにおいても、大きなメリットがある。第一線のカスタマーサービススタッフは、顧客とのやり取りで出されたどんな問題でも、すぐさま社内のミリャオに反映することができ、すぐさま関係する責任者、あるいは雷軍のアカウントに直接解決方法を尋ねることができる。

階級が多層にわたる組織では、このようなことは不可能だろう。このようにして、問題をできるだけ早期に解決できる体制が保証されているのである。

*8月5日から毎日、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。
 シャオミ_書籍紹介