NP_interview

ドワンゴ川上量生会長インタビュー【Vol.3】

新聞社を「悪の権化」と叩くのは大間違い

2015/4/22
2014年10月に誕生したKADOKAWA・DWANGO。老舗出版社とIT企業という異色タッグのカギを握るのは、コンテンツを創る編集者、プロデューサーの存在である。出版業界とIT業界は似ていると語る川上会長。「なぜ編集者にプログラミングを学ばせるのか」「なぜ編集者はこれからいちばん食える仕事なのか」「これからの編集者にもっとも必要な能力は何か」。川上会長が「ネット時代の編集者像」を語り尽くす。
【Vol.1】ネット時代に最も重要なのは、プロモーション能力だ
【Vol.2】人工知能の進化により、クリエイティブの世界はどう変わるか

社会のはみ出し者が集まった業界

──KADOKAWA・DWANGOの新卒採用ページの宣言では、出版社とIT業界が一見遠いようで非常に似ていると書かれていました。そこをもう一度お話しいただいてもいいですか。

川上:これは、ジブリの鈴木(敏夫)さんともお話しているんですけど、昔の出版社って、やっぱりまともな人間が行く場所じゃなかったらしいんですよ。

──そうですよね。ヤクザな業界ですよね。

川上:それこそ、もう親は悲しむみたいな。まともな職業とみなされてなかった。IT企業もそうですよね。今まさに変わる途中ですけども、この10年、20年はそういうところがあった。要するに社会からはみ出てしまった人たちが流れ着いてつくったところ。そこがとても似ている。

今、一旗揚げようとする人はITベンチャーを設立したりしますけど、昔はそれが出版社だったと思うんですよね。ITベンチャーの良いところは、固定費が少なくて人件費だけで会社ができて、しかも当たると大きい。それって、昔の出版社ですよね。

──確かに、似ていますね。

川上:はい、社会的な役割や立ち位置が似ています。そして、多様性があるんですよ。要するに変な人たちばっかりが集まっている。さらに、ユニークな人というのは、成熟した業界では淘汰(とうた)されるか、丸くなっていくかだと思うんですけど、あまりそうなっていない。一般的には許されないような人が残っている。

──最後の天然記念物のような人がいます。

川上:そう。それがコンテンツ業界の特徴ですね。そして、コンテンツというものは、一つひとつが替えのきかない独占商品だと思うんですよ。独占商品をもっているがために、そのつくり手の特徴もそのまま一緒に保存される。だからこそ、普通だったら許されない人も、いまだに残っているんです。

それは、音楽業界や芸能界も同じですね。独占商品じゃないものが競争すると、結局みんな同じものになるのとは対称的ですよ。僕はそれがすごく面白いと思います。

新聞社の人と話してショックを受けた

──同じメディア業界でも、新聞業界などは出版業界とは別物ですもんね。

川上:いや、でも最近、新聞業界がとても面白いなと思っているんですよ。

──どういうところがですか。

川上:「自分たちが社会正義をやっている」と本気で思っている個人や組織が残っているのが、とても面白いですよね。「朝日新聞」や「産経新聞」もそうですが、特に「読売新聞」はその傾向が強いと思います。

普通、資本主義の会社って、そういうことを思わないわけですよ。そんなことばっかり考えている会社ってつぶれるから。新聞業界は宅配制度が守られ、ある意味競争が制限されたことで、それが許されたわけです。自由競争って、最終的には新自由主義の権化みたいな人しか、経営者としては許されないような世界になっていきますから(笑)。

──競争が激化の一途をたどっていきますからね。

川上:そうそう。そのなかで、収益基盤がある程度安定しているがために、己の信念に基づいた個人や組織が残ることが許されているという点で、新聞業界は素晴らしいと思います。いろいろ言われていますけど、やっていることはすごい。僕は、ドワンゴってIT企業の中でも、すごく社会貢献をしている会社だって自負しているわけですよ。

たとえば「ニコニコ超会議」は赤字だし、「将棋電王戦」も、将棋を守るためにやっているようなところがあって、ビジネスじゃない部分があるわけです。普通のIT企業はそういう感覚でやっていないと思うんですよね。でも、新聞社の人とお話ししてショックを受けましたね。本当にいいことやっているので(笑)。

──文化事業をはじめ、いろいろとやっていますよね。

川上:ほとんど宣伝しないで、めちゃくちゃいいことをやっています。僕らは社内に保育園をつくったことも、パブリシティとかにしてバンバン宣伝しましたけど(笑)。

みんな、新聞社がいかにいいことをしている団体なのかということを忘れて「悪の権化」みたいにネットでたたいていますよね。あれ、大間違いですよ。日本にいろんな組織がありますけど、新聞業界ほど営利企業らしからぬ、いいことをやるっていう文化が残っている組織はないんですよ。みんな、そこをもっと見るべきだと思いますね。

──今の言葉を聞くと、新聞業界の方は相当喜ぶんじゃないですか。

川上:いやいや、でも本当にそうだもん。僕ちょっと自分が恥ずかしいと思いましたからね。

 川上量生(かわかみ・のぶお)KADOKAWA・DWANGO / ドワンゴ 会長1968年生まれ。京都大学工学部を卒業後、コンピューター・ソフトウエア専門商社を経て、97年にドワンゴを設立。携帯ゲームや着メロのサービスを次々とヒットさせたほか、2006年に子会社のニワンゴで『ニコニコ動画』をスタートさせる。11年よりスタジオジブリに見習いとして入社し、鈴木敏夫氏のもとで修行したことも話題となった。13年1月より、ドワンゴのCTOも兼任。

川上量生(かわかみ・のぶお)
KADOKAWA・DWANGO / ドワンゴ 会長
1968年生まれ。京都大学工学部を卒業後、コンピューター・ソフトウエア専門商社を経て、97年にドワンゴを設立。携帯ゲームや着メロのサービスを次々とヒットさせたほか、2006年に子会社のニワンゴで『ニコニコ動画』をスタートさせる。11年よりスタジオジブリに見習いとして入社し、鈴木敏夫氏のもとで修行したことも話題となった。13年1月より、ドワンゴのCTOも兼任。

テレビ業界とは「フェア」でありたい

──それでは、テレビ業界についてはどう思われますか? コンテンツのつくり手がすごく多いと思うんですよね。日本はマルチメディアも進んでいて、これからの時代に必要なスキルをもっているのは、テレビ局のプロデューサーやディレクターじゃないかと思うのですが。

川上:はい、それは絶対そうです。テレビの人たちがネットの知識を持つのが最強ですよ。

──テレビと一緒に組むことについてはどのように考えていますか。

川上:今でもいろんな仕事も一緒にさせていただいているし、もう満足してるんですけどね。僕は、ビジネス環境ってやっぱり「フェア」というのが重要だと思っているんですよ。

フェアな関係とは何か、ということで考えると、今ぐらいがフェアかなと思っているんですよね。みんなが思っている「テレビともっと組みたい」というのは、どういうことか。

それは、「テレビ局がやればすごい利権になるのにやっていない。それを一緒にやらせてもらおう」ということ。それはテレビ局が持っている金鉱を一緒に掘る名目で、その半分くらいを自分のものにしようという考えですよね。

彼らが気付いてないものを取ろうというのはなんか違うと思うんですよ。それはね、やっぱりフェアじゃない。

──ビジネスビジネスしていないですね。

川上:うちの場合は好き勝手やっていますからね。投資家も諦めています。

──本当ですか。

川上:はい。説明はまったくしてないですけれどね。われわれの背中を見て、「もうこういう会社なんだ」って思うようになる。一般的には「上場する企業というものはこういうものだ」っていう人たちの言葉に左右されがちですけれど、それは、やっぱり信念の問題じゃないですかね。

※続きは明日、掲載予定です。

(聞き手:佐々木紀彦、構成:菅原聖司、写真:福田俊介)