ドワンゴ川上量生会長インタビュー【Vol.4】
コンテンツ業界は、すでに危機的状況だ
2015/4/23
2014年10月に誕生したKADOKAWA・DWANGO。老舗出版社とIT企業という異色タッグのカギを握るのは、コンテンツを創る編集者、プロデューサーの存在である。出版業界とIT業界は似ていると語る川上会長。「なぜ編集者にプログラミングを学ばせるのか」「なぜ編集者はこれからいちばん食える仕事なのか」「これからの編集者にもっとも必要な能力は何か」。川上会長が「ネット時代の編集者像」を語り尽くす。
【Vol.1】ネット時代に最も重要なのは、プロモーション能力だ
【Vol.2】人工知能の進化により、クリエイティブの世界はどう変わるか
【Vol.3】新聞社を「悪の権化」と叩くのは大間違い
迫り来る「巨大プラットフォーマー」
──編集者の役割として、これからはビジネスモデルをつくることも必要になると思います。やはり、ドワンゴのモデルのように、課金を中心にしていくことが一番王道ですか。
川上:そうですね。パブリッシャーはコンテンツごとに課金するモデルしか残れないです。あとは今のテレビ局みたいな感じ。
要するにメディアをもっているところしか、コンテンツをつくれなくなる可能性があります。そうなったときというのは、たとえば、アップル、グーグル、アマゾンとか、非常に少数のプレーヤー以外はコンテンツがつくれないという世の中ですよね。
定額制でしかコンテンツの課金ができないとなった場合には、定額制のプラットフォームを維持できるところ以外は、コンテンツをつくれなくなります。
──プラットフォーマーが独占する世界ですね。
川上:はい。プラットフォームをもっているところだけは儲かるので、そこがコンテンツをつくるというシナリオは十分にあり得る。でも、そこでパブリッシャーは生存できないですよね。
今、彼らは巨大なプラットフォーマーに飲み込まれる大きな歴史の流れの中にいるんですよ。
──そう考えると、ネット時代において、パブリッシャーの未来は相当暗いし、かなり難しい。
川上:暗いというよりは、今、特殊な状況なわけです。なんで特殊なのかっていうと、やっぱりコンピュータとインターネットって違法コピーができるマシンなんですよね。
つまり今のコンテンツ業界は、自分たちがこれまで価格をつけて売っていたコンテンツが、勝手にコピーされている世界で「勝負をしろ」って言われているわけです。
さらに、そこで技術力をもっていて、ユーザーベースも確保しているプラットフォーマーが、「それをタダでやられるぐらいだったら、私たちが換金してあげますよ」と、甘い誘いをかけている状況ですよ(笑)。
その行きつく先は、彼らに全てを囲われてしまうということです。そんな状況で何をすればいいのかっていう状態に立たされているのが、今のコンテンツ業界。現時点ですごいピンチに陥っているわけです。
──ドワンゴは、プラットフォームでありコンテンツもつくる方向性です。その戦略以外に生き残れないからですか。
川上:そうです。
──これから、そうしたプラットフォームをつくることは可能ですか。
川上:ネットの場合、定額制、サブスクリプションモデルが強いので、そこの小さい胴元になるということがたぶん重要なんです。
それに成功している例というのは、堀江(貴文)さんだったりする。規模としては、個人レベルでは大きいけれども、ビジネスとしてはまだ小さい。ただ、それはひとつの成功例だと思うので、同じようなプラットフォームをつくれるチャンスはあると思います。
「これはない」と言われるビジネスモデルをつくりたい
──ドワンゴとしてはもうビジネスモデルは確立したという感じですか? 個別課金という点では、「ブロマガ」などがありますけれど。
川上:いや、これからじゃないですかね。ニコ動って基本だましなので。インチキですよ、インチキ(笑)。だって、有り得ないですよね。世界中の動画サイトが無料なんですよ。有料サイトはうちだけですよ。世界中で。
──すごいですよね。画期的なモデルです。
川上:画期的でしょ。それってやっぱり、だましなんですよ。ある瞬間、海が割れて、そこを走り抜けた、というやつで。僕らが通ってきたところは、道じゃないんですよね。
でも、そのすごく薄い可能性の中で生まれたニコ動の地盤は、それなりに強固なんですよ。僕らの立たされているポジションは、これをどう利用して次のステージに行けるのかということだと思いますけどね。
──また新しいビジネスモデルをつくっていくわけですね。
川上:そうです。僕はやっぱり、みんなが「これはないでしょう」と言うビジネスモデルをつくっていきたいですね。
ニコニコ動画とNewsPicksは似ている
──「NewsPicks」も有料課金をベースに新しいビジネスモデルを模索しています。
川上:僕も検索のために有料課金していますよ。でも、値段高いですよね(笑)。
──皆さんから980円にしろって言われます。
川上:いいんじゃないですか、今の値段で。980円にしても売り上げは絶対下がりますよ。
──川上さんがもしNewsPicksを経営するとしたら、何を変えますか。どうしたらもっとよくなりますか。
川上:うーん、NewsPicksって十分成功していると思うんですよ。ユーザー視点で見ると、このままずっと続いてほしいと思っているんですけど。
つまり、どういうゲームをするかですね。僕からみると、NewsPicksって結構完成している。別に何もしなくていいと言ったら、しなくていい。
その意味で、ニコ動と似ています。ある平衡状態に達しているので、それを次のステージに動かそうとすると、多分もがくんですよ。
──なるほど。
川上:「超会議」も「電王戦」も、あれはやっぱり次に行く決め手じゃないですよね。花火なのか、次の手がでるのかどうか、単純にもがいているだけなのか、その過程で起きている現象だと思います。
NewsPicksも新聞を出していましたが、それ自体は答えじゃないんだけど、媒体を世の中に知らせる方法としては有効だと思いますし、基本うまくやれていると思います。
ただ平衡状態なので、次の一手が難しい。それが何かは現時点で答えはみえていない。ビジネスとして、資本主義の論理で考えれば、上場ゴールを目指すのが一番賢い(笑)。
──川上さんは経営者として「次の手」について普段どのようにイメージされているんですか。
川上:フェーズによって違いますよね。たとえば、継続してやること、すでに一歩踏み出したものに関しては、相当先まで読みます。
たとえば、超会議において僕が考えているのは、「再来年どうしよう」。僕の中で今年の超会議は終わっているので。今年は成功します。今年成功するっていうことは、来年も成功するんですよ。問題は再来年。電王戦も今回成功したので、来年も盛り上がる。再来年盛り上げるためにはどうしよう、そういうスパンなんですよね。
ただ、完全に新しいことをやる場合、例えば去年の「ニコキャス」。これに関しては、二手三手先は考えているんだけど、一手先がまだ決まっていない(笑)。
それがどこに行くのか、を考える感じですよね。その点に関して、僕は結構寝かせるんですよ。ニコ動やるときも、1年くらい企画を寝かせましたからね。そこでつぶす企画も多いので、僕は最初の一歩はすごく慎重なんですよ。
(終わり)
(聞き手:佐々木紀彦、構成:菅原聖司、写真:福田俊介)