2023/6/27

【意外】「AIとはたらく未来」で活躍する人、できない人

NewsPicks コミュニティチーム
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コメントを通じて「新しい視点」を提供するプロピッカーは、自らの持つ専門知識をどう身に付けてきたのか。

オリジナルなキャリアを築くプロピッカーたちの「学びのプロセス」をひも解きながら、ユニークな知恵を仕事人生に生かすヒントを探る。
どんどん賢くなるChatGPT。もはや実写と見分けがつかない画像生成AI。
AIの進化が、世界中の人々を驚かせている。
企業も続々と生成AIの活用を検討し始めているが、あなたの会社はどうだろう。さまざまな懸念を理由に、業務利用に二の足を踏むケースも多いはずだ。
「でも、ここまで高性能になったAIを使わない手はない。どう共存していくか?を真剣に考えるフェーズになったように思います」
そう語るのは、AI活用に詳しいプロピッカーのシバタアキラさんだ。
まだAIが一部の先端企業のものだった時代から、このテクノロジーの可能性を深掘りしてきたシバタさんに、AIと働く未来で活躍する人材像を予想してもらった。
INDEX
  • ここが変だよ日本企業の技術活用
  • AIをうまく使いこなす2つの条件
  • 2020年代の「文武両道」とは
  • 新技術と共存するたった一つの方法

ここが変だよ日本企業の技術活用

── 生成AIのビジネス活用についての議論がさまざまな業界で盛んになっています。
ChatGPTの誕生と普及が、この議論を一気に加速させましたよね。
これまでの機械学習は、大量の情報とパターンを学習することで、人間が相当時間をかけないと解決方法を習得できない問題を解決してきたわけです。
一方、ChatGPTなど生成AIの一種であるLLM(大規模言語モデル)は、パターン学習という概念からは生まれ得ないアウトプットを出してくることもあります。
つまり、AIが新しい知識を創造するようになってきた。
これって、10年近くAI関連ビジネスにかかわってきた私も驚くような進化で、LLMは文字通り世界を一変させると思うんです。
── ただ、ChatGPTの社内利用を禁止する企業がニュースになっているように、生成AIのビジネス活用にはまだまだ壁があるようにも感じます。シバタさんはどう見ていますか?
現在の生成AIは、個人情報や著作権の面でどこまでデータを学習(収集)させるべきか?という議論があるし、そもそも急速な進化に対する恐怖心もあるでしょう。だから慎重になるのは悪いことではありません。
それにLLMの活用に関して、日本は面白い動きをしていると思っています。
個人レベルで見ると、日本はテクノロジー好きな人が多い国だと思うんです。多分、平均を取ったら、アメリカよりも最新のテクノロジーに食いつくミーハーな一般人の数は多いんじゃないですかね、日本って。
だって、iPhoneが広がった早さとか、世界一早かったじゃないですか。
生成AIについても、Microsoftの検索サービス「Bing」がGPTを搭載した当初、1人あたりの検索数は日本がトップでした。
しかし、みんな新しいテクノロジーが好きで、使ってみたいというモチベーションもあるのに、いざ企業での活用となると遅々として進まない。
DX(デジタルトランスフォーメーション)でもAI活用でも、問題の本質は、このギャップにあるんじゃないかと思います。
── なぜだと思いますか?
私は日本の大企業に勤めた経験がないので確証はないのですが、仮説はあります。
一つは、新しい技術の検証や導入に対する予算の出るスピードの遅さ。もう一つは、技術とビジネスをつなげることのできるリーダー人材の不足です。
リスクを取って「まずやってみる」みたいなやり方をする企業が非常に少ないと思います。

AIをうまく使いこなす2つの条件

── 未来は分からないけどやってみるという点で言うと、シバタさん自身は2013年に白ヤギコーポレーションを起業してからずっと、AIにかかわるビジネスをしています。
そうですね。しかも私は、AIモデルそのものを「生み出す仕事」と、AIツールを「広める仕事」の両方を経験しています。
Photo:iStock / girafchik123
ニュースキュレーションアプリの「カメリオ」を作った時は、記事をリコメンドする機械学習モデルのコードを全部自分で書きましたし、DataRobot Japanでは幅広い業種のお客さま企業にAIを使ったデータ分析ツールをご提供していました。
現職の前にCOO(最高執行責任者)をやっていたQosmo, Inc.は、音楽やアート作品を生成するAIモデルを開発するベンチャーで、今年は再び「ツールをご提供する側」に戻っています。
今、日本のカントリーマネージャーをしているWeights & Biasesは、ChatGPTを運営するOpenAIやGoogleなども使っている生成AIモデル開発の「実験管理・MLOpsプラットフォーム」を提供している会社です。
── それらの経験から、最新テクノロジーを積極的に導入する会社の特徴を挙げるなら?
会社単位ではなく、担当者・従業員レベルでの共通項を挙げるなら、
  1. 自分自身がそのテクノロジーを使って感動したことがある
  2. テクノロジーを「改善の手段」ではなく「飛躍の道具」として見ている
という特徴がある気がします。
1つ目の「感動」については、私自身がそうなんです。
「カメリオ」を作り始めた頃は、自分が欲しいと思っていたマニアックなテーマの論文などもAIが自動でリコメンドしてくれて、我ながらすごいな!と思っていました。
DataRobotを導入したお客さまの事例でも、例えばある会社のコールセンターで採用計画を精緻化するために「退職者予測」をやってみたら、遅刻・欠勤などのデータから95%の精度で予測できたんです(下記事参照)。
商品の需要・売り上げ予測などはもっと高精度で行えますが、そもそも「人間の気持ち」に関する行動をAIが95%も予測できるってすごくないですか?
私は常々こういう驚きがあるところで仕事をしたいと思ってキャリアを積んできたし、お客さま企業の社員で「最新テクノロジーのキャッチアップが早い」「ツール導入の決断が早い」人も、似たような感動体験を持っていて、テクノロジーの魔法に病みつきになっているのだと感じます。
── 感動は「投資対効果」や「損得勘定」を超越するということですか?
そうかもしれないですね。そしてこれが、2つ目に挙げた、テクノロジーを「改善より飛躍の道具」として見ることにもつながっているんじゃないでしょうか。
現状、日本企業がテクノロジーをこれまでなかったような価値を生み出すために利用するケースって、あまり多くないように見えます。
社内で業務改善を行うのも大事な「テクノロジー活用」の一つですが、それだけではもったいないというか。
DXだって、本来はテクノロジーを使って新事業やプロダクトを生み出し、従来のビジネスモデルから転換するのが目的なはずです。
経営者やマネージャーが、ツールを触ったこともないのに金額だけを聞いて導入にNGを出す......では何も前に進みません。

2020年代の「文武両道」とは

── この状況を変えるには、何が必要だと思いますか?
経営者も現場の社員も、テクノロジーとビジネス両方の知識を深めていくしかないのではないでしょうか。
新しいテクノロジーを使って何かを変える時って、組織の中での「自分の役割」に固執していると何も起こりません。
文武両道というか、技術の可能性を理解して使いこなすプレーヤーでありながら、ビジネスを作る視点も併せ持たないと、ブレークスルーは生まれないですからね。
Photo:iStock / metamorworks
技術はある程度分かっていて、かつ、ビジネスも分かる・作れる人がいないと始まらない。
少なくとも私自身は、そういう人になりたいと思って働いてきました。
エンジニアではないけれど、ニューヨーク大学の研究員時代から死ぬほどコードを書いてきたし、とはいえ1人でやる限界もあるからチームを作り、会社を作り、資金調達をして......とやってきた。
肩書がCEOやCOOになってからも、常に最新テクノロジーにハンズオンで触れるようにしてきたし、作らない自分になることへの恐怖心も持ち続けています。
── マネージャー以上の役職になると、仕事でコードを書く機会が減ってしまうという悩みもよく聞きますが?
確かに、趣味以外でコードをいじる時間がなくなってしまう時期はあります。
それでも、開発に当事者意識を持ってかかわることはできます。自分自身がコードを書いていなくても、エンジニアたちと一緒にモデルを考えるなど、いつでもプレーヤーの意識でいるようにしてきたつもりです。
日本の一般的な企業だと、「マネージャー=管理職」と思われがちですが、少なくとも私の働いてきた外資企業では、それとはかけ離れた期待値の中で仕事をしていましたしね。
例えばDataRobotには、マネジメント「だけ」をやるマネージャーは1人もいませんでした。自分は何も価値を生んでいないのに、チームをマネージするだけでは評価されない環境だったので。
チームで仕事をする以上、業務上やるべきことが営業だったり開発だったりとさまざまあるでしょうし、役職上かかわる仕事のレイヤーが異なる場合もあります。
それでも、全員が職種や役職に関係なく「目的ドリブン」で考え、動く組織であるべきです。そうじゃないと、新しいことってできないですよね?

新技術と共存するたった一つの方法

── 企業が生成AIを使って何かを始める時も、「全員が目的ドリブンで動く」は大切な条件になりそうです。
個人としても、組織としてもこれができるようになると、応用問題として「テクノロジー活用で不要なツールをつかまされる」ケースも減るでしょう。
ずっとAI関連の仕事をやってきた私が言うのもなんですが、業務でAIを使うようになると、人間の思考力は確実に弱まると思っていて。どんどん馬鹿になっていく。
昔は多くの人が、10桁の固定電話番号や11桁の携帯電話番号を自分の頭で記憶していましたよね?
でも今はどうでしょう。身近な人の電話番号を10人分くらい、そらで言える人って少なくないですか? テクノロジーって、どうしても人間をダメにするんです(笑)。
生成AIがもっと便利になったら、この傾向はさらに強まるでしょう。
だからこそ、何を目的にテクノロジーを使うのか、どんな利があるのかをきちんと判断するための思考力だったり、会社としての判断基準が、これまで以上に重要視されるようになります。
この部分は、人間が、もしくは企業が死守しなければならない部分でしょう。
── それがAIと「共存」していくベースになると?
テクノロジーとの共存については、DataRobotにいた頃に深く考えさせられた出来事もありました。
その時は、大手飲食チェーンを運営するお客さまに向けて、AIを使った在庫調整の予測モデルを作っていました。
ご提案する担当者は、営業企画やリサーチ企画を行う部門の方々で。エリア別・日別に店舗ごとの売り上げを予測できれば、日持ちしない生鮮食品の仕入れ量も最適化できるようになるという内容でした。
ご要望通りに動く予測モデルは作れたので、ご担当者と一緒に店長さんたちへ「このデータ入力システムに売り上げや在庫状況を入力してください」と説明しに行ったんです。
そうしたら、
「店の冷蔵庫の中身も管理できない人に、店長が務まると思いますか?」
みたいに返されて。
Photo:iStock / Yue_
ぐうの音も出ず、最終的に作った予測モデルの導入も見送ることになりました。
── 店長の経験と勘に頼るのは予測の振れ幅が大きそうですし、予測モデルを導入したほうがコスト削減になりそうですが......?
その飲食チェーンは、店長さんの多くを現場経験の豊富な方々から抜擢する運営方針だったんですね。
つまり「最も現場を知る優秀な方々」に店舗を任せる仕組みで成長してきた。
なのに、彼ら・彼女らの存在意義を否定するようなツールを導入したら、その後「良い店長」が生まれなくなるかもしれませんよね?
そう考えたら、会社としてもAI分析ツールを採用するデメリットが大きいと。
── 何でもかんでもAIに置き換えるのはよくないというエピソードですね。
生成AIは便利で優秀だし、これからもっと進化していくのは間違いありません。それでも、企業の競争力の源泉となる部分までAIに置き換えるのは、やっぱり違いますよね。
これからは、AIに置き換えることを選ばないという勇気も必要になるはずです。
そのための“選球眼”であったり思考力を身に付けるためにも、新しいテクノロジーが出てきたら、職種・役職を問わず「まず自分で触ってみる」ことから始めましょう。