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Chapter 2:ライフコース・ライフスタイルの変化

パラサイト、パウチ、生涯独身…。多様化するライフコースの理想と現実

2015/3/5
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第二弾である『 大前研一ビジネスジャーナル No.2 「ユーザーは何を求めるか」』(初版:2014年11月28日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。今回は「ライフコースの変化」について分析する。
大前研一特別インタビュー(上):日本でイノベーションが生まれない理由は何か?(2/19)
大前研一特別インタビュー(下):イオニストは“低欲望社会”の被害者(2/23)
本編第1回:中流以下が8割超。「消費者」は過去10年で激変した(2/26)
本編第2回:正社員と非正社員、格差の拡大が止まらない理由(3/2)

広がるライフコースの選択肢

図-10は、「ライフコースの多様化」を表にしたものです。左側が「かつて一般的だったライフコース選択」、右側が現代の「多様化するライフコース選択」です。
スライド10_R

かつては男性も女性も、学校を卒業して就職し、親から独立して結婚し、女性は寿退職。やがて子供が生まれて、子供が独立したら今度は夫婦2人で生活する、というのが当たり前のライフコースでした。今はあらゆる層で、かつて一般的だったライフコースがバラけてしまいました。大学の頃からバラけ始めて、就職のときにはさらに大きくバラける。正社員になる人も非常に少ないです。

また、パラサイトシングルと呼ばれる親との同居を続ける未婚者が増えています。35歳男性の35%が親と一緒に暮らしているというのは、世界でもまれに見る現象です。

また男女ともに非婚者が増加している。統計的に分析すると、2014年に生まれた女の子で、一生独身で過ごす、死ぬまで結婚しない割合が35%になるだろうと言われています。ですからこれからは、一生結婚しないセグメントが非常に重要になってくるわけです。

「パラサイトシングル」と「パウチ族」

離婚をする人が増えた結果、一度結婚したけれども、親元に戻ってくるという人も増えています。彼らの多くは晩婚なので、子供は1人くらいです。そして離婚をする。昔は娘を嫁に出したら、旦那や姑とちょっと喧嘩しても、「あんた結婚したら帰ってくるんじゃないよ。死ぬまでそこに居るつもりで行ったんだろう」と親が離婚に反対したものです。

ところが今は、親にちょっとでも旦那の悪口を言うと「そんな男だったら、子どもだけ抱いて帰ってきなさい」と言って、親が子供の離婚を奨励するのです。私はこうした人たちを「カンガルーパウチ族」と呼んでいます。パラサイト(parasite)は寄生虫のことでが、パウチ(pouch)というのはカンガルーのお腹の袋のことです。

カンガルーの親のように、子供をお腹の袋の中に入れておきたいのです。35歳のパラサイトシングルもどうかと思いますが、今は40歳以上の子供が親元で暮らすようになっている。晩婚化で、親は長い間子供と生活するようになったため、パウチ状態が非常に心地よくなるわけです。親のほうが財力もあるので金銭面でも問題がありません。

パラサイトとパウチは表裏一体です。長い間パラサイトをやっていると、結婚しても我慢しきれなくて、パウチになってしまうのです。パラサイト、パウチ、引きこもり、ニート、こういった人たちが増えています。このライフコースの多様化というのが、今の消費者のひとつの特徴です。

女性のライフコースの多様化

女性のライフコースにフォーカスして見てみましょう。図-11では、「女性の代表的なセグメントの規模と成長性」を、12のボックスに分けて考えてみました。
スライド11_R

まず左端の「シングル」層ですが、20代・30代のワーキングシングルが577万人。彼女たちが結婚すると「DINKS」(Double Income No Kids)として働くか、専業主婦になる。DINKSは約200万人います。

その後、子供を持った人はそのまま働き続ける「DEWKS」(Double Employed With Kids)になるか、一度仕事から離れても子どもに手がかからなくなったら「リターナー」として復職する。このリターナーが800万人以上もおり、さらに専業主婦が416万人います。右端のボックスです。これは非常に大きなセグメントです。

そのうち子供が独立すると、また真ん中の「夫婦のみ」のエリアに戻ってくる。その時、専業主婦層と共稼ぎ夫婦に分かれますが、彼らが60歳代半ばを超えると、一番上の「プラチナ夫婦」になります。彼女らが日本で一番お金を持っています。300万人以上です。

そして最後は、夫婦が死別して左上の「プラチナシングル」になる。こういう流れです。このプラチナ夫婦、プラチナシングルは時間も非常にたくさんあるので、比較的多くお金を使ってくれます。

この12のボックスに対してどのような商品、サービスを提供していけばいいのかを考えることが重要です。各ボックスの人数に所得額と貯蓄額を掛け算すると、そこで掘り出せる金鉱の深さというのが分かるはずです。

このように、女性のライフコースは出産もあるため、男性のそれより多岐にわたっており、非常に把握しにくくなっています。しかしその反面、彼女たちのニーズをうまく掘り当てると非常に大きな消費が期待できるわけです。

女性のライフコースの“理想と現実”

女性のライフコースの変化を“理想と現実”という視点で見てみましょう。

図-12を見てください。左側のグラフは「男性が期待する女性のライフコース」です。「子育て後に再就職してもらいたい」と思っている男性が一番多いことが分かります。「仕事と家庭を両立してほしい」と思っている男性も年々増えています。
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一方、「専業主婦でいてほしい」と思っている男性は急激に減っています。子育てが終わったら専業主婦は早くやめてもらいたいと多くの男性は思っているわけです。女性自身も、真ん中のグラフのように「子育て後に再就職したい」と考えている人が多いです。

ところが、実際には再就職というのは必ずしもうまくいかず、右側のグラフのように、「子育て後に再就職」する女性はどんどん減っています。また「非婚就業」つまりワーキングシングルが急激に増えている、最近では、約2割の女性が結婚せずに働いています。みんな、ちょっとずつ自分の思っていたライフコースから外れていっているわけです。

【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.4開催)を基にgood.book編集部にて編集】

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。

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