【瀧本哲史・再掲】「努力が報われること」は絶対にやってはいけない

2019/8/16
エンジェル投資家、経営コンサルタントの顔を持ち、多くのベストセラーを執筆した京都大学客員准教授の瀧本哲史さんが、8月10日に東京都内の病院で亡くなりました。

「コモディティになってはいけない」「自分の頭で考え続けなくてはいけない」とビジネスパーソン、学生に訴え続けた瀧本さん。NewsPicksは2019年6月のインタビューを再掲載して瀧本さんの思いを振り返るとともに、ご冥福を心よりお祈りさせていただきます。
エンジェル投資家、経営コンサルタントの顔を持ち、京都大学客員准教授を務める瀧本哲史氏は、2011年にベストセラーとなった著書『僕は君たちに武器を配りたい』で、今後ビジネス人材の「コモディティ化」が進行すると警鐘を鳴らした。
2020年まであと1年と迫ったいま、瀧本氏に改めて「脱コモディティの人生戦略」を聞いた。(全3回)
「コモディティ」という概念
──瀧本さんが8年前に書かれた著書『僕は君たちに武器を配りたい』のテーマは「脱コモディティ化」でした。同書では「日本人で生き残れる4つのタイプ」としてマーケター、イノベーター、リーダー、インベスターを挙げられていましたが、瀧本さんは当時と現在を比較してどのように感じられていますか?
瀧本 当時と状況はあまり変わっていないと思います。『僕は君たちに武器を配りたい』は大学生くらいを対象に執筆しましたが、そんな彼らに「君たちはこれからどう生きるのか」を考えてほしいと思って書きました。
本を書くなら、数十年単位で価値があるものを書かないと意味がないと思って書いたので、当時と状況が変わっていないのは想定内です。基本的には今後も同じ流れは続くでしょう。
でもこの本をきっかけにして、みんなが「コモディティ」という概念を意識するようになったのかもしれません。
この本には、弁護士などのプロフェッショナル人材も「コモディティ化からは逃れられない」という話を書いたのですが、みんなピンとこないのかなと思っていたところ、実際に本書を読んだ弁護士の多くが、「まさにその通りだ」と同意されました。
企業法務革新基盤という弁護士業界を革新する会社をつくるために沢山の弁護士にインタビューしたのですが、日本の4大法律事務所に行くような人ですら、そのように感じているようです。
弁護士の世界は分業が非常に進んでいます。一見特別なスキルに見えて実際には定型的な作業を数多くこなしている人もいれば、自らマーケットを作り出し、新たなサービスの構築にチャレンジしている人もいます。
後者のタイプの新しい流れとして、スタートアップと関わる戦略があります。スタートアップは常に新しいスキームを開発しますし、ファイナンスも多いので弁護士ニーズが実は高いのです。
株式で支払うエクイティペイメントやストックオプションといった形で報酬を取ることで通常の弁護士キャリアではまず考えられない資産を築くケースも出てきました。こういったケースは弁護士の世界にとどまらず、ありとあらゆる業界で起こっていることです。
瀧本哲史(たきもと・てつふみ)東京大学法学部卒。東大助手、McK、日本交通再建を経て、現在は京都大客員准教授を勤めながら投資業を営む。著書に、『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての交渉思考』『武器としての決断思考』など。
「最も衝撃的」と言われた箇所
本の中で「最も衝撃的」と言われた箇所があるのですが、世間でハイスペックと思われている学歴や資格、TOEICの点数を持っていたとしても、コモディティ化するということでした。つまり、同じようなスペックの人が沢山いれば、それはスペシャリティ(余人をもって代えがたい存在であること)とはいえないわけです。
例えば、日本の自動車部品の品質は非常に高いですが、複数の供給者がいて結局買いたたかれてしまいます。人材もまた同じで、大規模弁護士事務所はエリート集団ですが、顧客やパートナーからして、「お前の代わりはいくらでもいる」となってしまえば、単価が下がるか、長い労働時間でカバーするかになってしまうわけです。
さらに厳しいことに、あらゆる業界、あらゆる商品、あらゆる働き方におけるスペシャリティの地位は決して永続的なものではありません。ある時期にスペシャリティであったとしても、同じ軸で競争をしている限り、時間の経過にともない、その価値は必ず低下し、コモディティへと転落していきます。
逆に言うと、このコモディティ化の圧力がイノベーションの必要性を生み、資本主義のダイナミズムとなっているわけでもあります。
その流れが、この8年で誰にでも分かるぐらい顕著になりましたし、今後もそうであり続けるでしょう。
──本の中で、マーケターについて触れている部分があり、そこではストーリーを作ることの大切さが記されています。現在は「ストーリー」を語ることの重要性が当たり前のように語られるようになりました。
『僕は君たちに武器を配りたい』は、実は新発見がほとんどない本です。この本で、私はある意味では当たり前かつ定番の主張しかしていません。
なので、これを受けて近時「これは、(今言われていることを)まとめてあるだけの本だ」という批判をたまに見かけます(笑)。その一方で「(今言われていることをまとめてあるだけの本だ)と思ったら8年前の本だった。世の中がこの本を真似しているんだ」という書き込みを見たこともあります。この点についてはまさにそのとおりかもしれません。
それくらい長期的に見て正しく、一過性のブームにならない本を私は作ろうと考えたのです。
実際、最近多くの人が「モノ消費からコト消費へ」と言っていますが、この背景には大きなトレンドがあります。商品が実現するスペックが技術革新や日常的な改善により青天井に上昇した結果、現在はユーザーにとってそれらが差別化要素として意味をなさなくなったわけです。ここでもハイスペックコモディティになっているわけです。
そんな中で、単なるハイスペックであることよりも、文脈やストーリーといったものが評価されるようになるのは当たり前の話です。
──ところが今はストーリーだらけになっている印象があります。誰もがSNSなどのメディアを使ってストーリーの発信者になれる世の中になりましたが、そのなかで何か差別化要素はあるのでしょうか?
それはやはり、より本物で、よりターゲットが絞られた、より尖ったものが残っていくのでしょう。競合がその市場に気がついて殺到すれば、それもまた過当競争になっていくわけですが、いずれにせよ、ターゲットを絞ったものしか残らないと思います。
ところがそうなると、より領域が絞られ、より特殊な知識が反映され、よりターゲットが絞られたもののほうが尖ったものになります。すなわち、万人が共感するストーリーを作ることは非常に難しくなってしまったともいえます。
そういうなかで、今どんなものが万人が共感するストーリーになっているかというと、例えば「日本人であること」はそうかもしれません。
──「日本すごい」的なテレビ番組も増えていますね。
わずか1%の視聴率が数十万世帯になってしまう世界で、テレビの視聴率を取るためには、みんなの共通な欲求を当てなければなりませんが、今は私たちは「日本人である」ということぐらいしか共通項がありません。だから「日本人もの」の番組が多くなるのです。
その意味で、今高校ドラマが復活しているのは「高校生であること」が共通体験だからです。同様に「大学受験もの」が流行っているのも大学受験が共通体験だから。今はそれぐらいしか共通体験がなくなっているということです。
──共通体験がどんどんなくなっている今、オールドメディアの新聞やテレビを典型に、規模を追い求めるビジネスモデルは今後ますます厳しくなっていきそうです。それでもやはりメディアにとって影響力は重要です。瀧本さんはこれからのメディアについてどう考えていますか?
かつてアメリカの投資会社コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が手がけたKIIIという業界ビルドアップ・プロジェクトでは、ありとあらゆる雑誌を買収し裏側のシステム、といってもアナログですが、を共通化したことがありました。
ひとつひとつのメディアはバラバラに見えても、システムは共通ですから、そういう形のメディアコングロマリットはありだと思います。
日経新聞社(写真:J o.)
メディアは公開企業になじまない
──日本には今そういうメディアコングロマリットはないと思いますが、例えば日経グループは「日本経済新聞」を中心に、「日経ビジネス」、「日経コンピュータ」、「日経サイエンス」といった専門ジャンルを深掘りするメディアを持っています。
そちらのほうが、まだいいと思います。昔は流通の共通性があったので、講談社のビジネスモデルが良かったのです。要するに、漫画雑誌・単行本と週刊誌と書籍という、一見シナジーがない媒体をすべて持っていることの価値がありました。逆に言うと、現在進行中ですが、雑誌流通が細るとこのモデルは厳しくなるでしょう。
その意味で言うと、多くの人が気付いていませんが、僕が良い会社だと思っているのは、実はisMedia(イズメディア)です。
同社は、複数のメディア企業がITインフラを共有し、独自のコンテンツを提供するメディア運営プラットフォームを構築しており、例えば『現代ビジネス』や『‎JBpress』などの多数のネットメディアが同社のプラットフォームを利用しているのです。
例えば、さまざまな機能をバンドリングする余地もありますし、プラットフォームの利用料金を値上げしても、まだいけるのではないでしょうか。
ちなみに、isMediaに出資した一人の中にゼンショー創業者の小川賢太郎さんがいると言われています。彼とは1度話したことがありますが、とても頭のいい方です。
小川さんは東大中退者の中では(リクルート創業者の)江副浩正さんと並んで最も成功した起業家と言っていいでしょう。東大中退起業家というと「ホリエモン」というイメージが強いですが、実は結構います。
そういう意味だと、NewsPicksも過渡期かもしれませんね。私も前から好きなんですけどQuartzというかなり尖ったメディアも買収しました。
ところが、尖ったままマスを狙うのはなかなか難しい。一方、公開企業である以上、成長をし続けなければいけない。メディアは究極的には公開企業に馴染まないものだとも思います。
一流にしか投資を行わない
──瀧本さんはエンジェル投資家としても活動されています。例えば、京都大学発の化学ベンチャーAtomisでは、事業計画書がない段階で出資を決めたと聞きました。なぜ、決められるのでしょうか。
一般には知られてないだけですが、Atomisが手がけるPCP/MOF(多孔性配位高分子)はケミカル分野の専門家の間では非常にホットかつメジャーになろうとしている分野です。
ここで重要なことは「日本人全員が知りたい情報」をターゲットにする情報をフィルターにして世の中を見るとAtomisという会社は対象外になってしまうのですが、一方素材メーカーで未来を見ている人ならば知っているべき情報になります。そういう情報に価値があるわけです。
私は同社への出資を、何の事業計画もない段階で決めましたが、もっと正確に言うと、会社すらなくてPCPの研究者でとても優秀で、センスが良い人にたまたま出会っただけです。事業計画などが定まっていたら、さらには会社があるだけでも、その時点で同社に投資したいと思う人が数多く出てきたかも知れません。
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でも私が投資する時は、漠然としたプランしか決まっていないことがほとんどです。面白いと思う人とホワイトボードの前で議論して、それで決める。その人は起業なんて全く考えてなかった、そういうケースが一番好みです。
私は、自己資金でエンジェル投資を行っているから、15年でも20年でも待てます。私自身は、日銭を稼ぐ必要がないですから、長期的に見て事業のテーマが正しく、良いメンバーが集まっており、彼らが成功するまでしつこくやるという案件にお付き合いできます。
基本的に私は、一流のテーマ、一流のメンバーにしか投資をしていません。その市場の立ち上がりに時間がかかるリスクは取りますが、その会社が業界の2番手、3番手になってしまうリスクは取りたくないです。
あらゆるものはpivotできますが、メンバーのpivotは困難ですし、初期メンバーのレベルがその後入ってくるメンバーの質も決定します。非常にシンプルな話ですが、投資先の創業者の学歴も非常に重要だと思います。
──それはなぜですか。
つまり先に述べたスペシャリティ(ほかの物では代替することができない、唯一の物)がないと勝てないと思うからです。
簡単に真似できるようなビジネスモデルには多数の模倣が生まれ、最後は資本力勝負になり、勝ち負けはギャンブルとなり、勝ったとしても私の持ち株はとてつもなく希薄化するでしょう。スペシャリティは競合他社の参入障壁になり得ます。そのためには、ベースとなる専門性や競合を圧倒する、変化する環境に対する学習速度が重要だと考えています。
学歴という意味では、別に東大だからそれだけで十分なわけでもありません。あえて言うと、少子化や受験戦略の一般化により、東大ですら、今や一定の時間を費やせば合格が容易になっている大学です。
さらに言えば、海外の名門大学ですら、受験戦略が立てやすくなってしまった結果、一流大学だから優秀とはいえなくなってしまいました。なので、本当にできるトップ・オブ・トップ、圧倒的に秀でているかどうかだけを見ています。この人を真似るのは不可能だというぐらいの逸材ですね。
逆に言うと、他のことをやっていて、全く受験勉強をしないでそれなりの大学に受かってしまったみたいな人にも、ごくたまに「化け物」がいます。
──日本はアカデミズムからのベンチャーのスタートアップが少ないですね。
一般に、研究として優れているものは、ビジネスとしてはなかなか芽が出ません。学術論文になるようなテーマは先端的すぎて、再現性が十分ではありませんから。
ですから、研究者の目から見て面白いテーマはビジネスとしては早すぎます。
ところが最近、東大なども含む大学発のベンチャー企業が増えていますが、非常に先端的なテーマにも値段がつくようになってきました。
実際、東大発の二足歩行ロボットの研究開発企業であるSchaft(後述の通り、同社が米Googleに買収されたのち、2018年11月にGoogleの持株会社であるAlphabetがSchaftの事業を終了すると報じられた)から、最初、私のところに出資依頼が来ました。
ロボットは必ずしも二足歩行である必要はないことと、彼らの必要とする資金額が、私自身が設定している投資額の上限を超えていることから投資は断念しましたが、彼らが「どうしてもファイナンスしたいので、誰かいい人を探してほしい」と言うので、いろいろ考えました。
ある意味、こういう新しすぎる分野にも投資を行い、資金も豊富で、その事業が持つ可能性が一瞬でわかる頭のいい人が日本にいるのか…と考えたわけです。
そこで、まさしく日本に1人だけいた人物が、当時、ACCESSの一線を退きつつあった鎌田富久さんでした(現在は、技術系ベンチャーの起業支援を行っているTomyK代表)。彼も東大卒技術ベンチャーの草分けで、iモードブラウザがブレークするまではかなり時間が掛かっています。
その支援をしていたエンジェル投資家がいて、その人は絶対に表に出ないのでここではお名前を出しませんが、私がベンチマークにしている方です。その意味では、鎌田さんはエンジェル投資家の意義も深く理解されているので可能性があると思いました。最終的に、鎌田さんは「これは面白い」と投資されました。
私はとても臆病な投資家なので、「鎌田さん、すごいな。とても私にはできない。でも、やはり鎌田さんならやるな」と当時思いました。結局Schaftは確たる成果を上げないうちに、Googleが買収しました。
でも、時代は変わったな、と私は思いましたね。メディカルの世界ではある戦略ですが、「競合しそうな特許、技術者を持っている会社をともかく全部買ってしまう」という戦略だったのかもしれません。基礎技術と研究者がグローバル市場で価値を持つようになった、日本の大企業相手に共同研究ばかりしている時代ではなくなった、そう痛感したわけです。
「瀧本ゼミ」を始めた理由
──巨大資本が、ベンチャー投資も総取りしていく時代になってきていますね。
みんなお金の大事さが分かっていません。ほとんどの場合最後は「資本がすべて」なのですが、それを多くの人が忘れていると思います。
であるからこそ、私は学生たちにもよく話しているのですが、「努力が報われること」はコモデティ化するので絶対にやってはいけません。これは「資本がすべて」のゲームになってしまいます。逆に言うと、「努力が報われるかどうかがわからないこと」をやらなければいけないのです。
ところが東大生も「僕はあまり賢くないのですが、人の何倍も努力しました」という人がほとんどです。そういう人はスペシャリティにはなれません。
私はかつて京大で、全学部、全学年を対象とした「起業論」の授業を担当し、京大で一番大きい教室を満杯にしていましたが、もうそんなことはやりません。なぜなら、今やそこには優れた学生はいないから。
かつては、この授業をきっかけに事業作りに興味を持ち、「当時、京大生が行かなそうなサイバーエージェントに行って、最年少取締役になった」、そんな尖った学生がそこにはゴロゴロいました。今では、「起業したいです」学生がコモディティ化しています(笑)。
ここ10年間で、人口減少の影響が非常に大きく、学生のレベルが間違いなく落ちました。そこで、なんとかして一番良い学生を集めようと思い、選抜制の少人数自主ゼミ「瀧本ゼミ」を始めたのです。
東京大学(写真:ranmaru_/iStock)
──「瀧本ゼミ」の卒業生で活躍している人には、どんな方がいますか?
例えば新卒でヘッジファンドに採用された人は、1年でそのカテゴリーの世界トップのパフォーマンスを出したのですが、ボーナスが安いという理由で辞めてしまい、今は他のファンドで活躍しています。
コンサルティングファームに行く人も多かったのですが、何年かでほとんどがコンサルタントを辞めて起業しました。
私は、世界で一番安く雇うことができる最高の人材は東大や京大の理系の1年生だと思います。彼らは非常に大きなポテンシャルを持っているのに、とてもつまらないことをやらされています。実は、私が大学の教員になろうと考えたのは、ここから良い人材を集めれば成功すると思ったのもあります。
──アメリカでは大体の起業家が大学を卒業してないという時代になり、大学も要らないのではないかと言う人もいます。日本でも、そういう流れが進んでいくと思いますか?
マジョリティ(世間の大多数)は変わらないと思いますが、マジョリティからは新しいものが何も生まれません。だから、マジョリティではないところから優れた人材をいち早く発見し、マジョリティから隔離するという世の中に変化していくと思います。
そういう意味では、東大、京大はもとより世界の名門大学といえども「マス化」してしまっているのかもしれません。ただ、私は大学という仕組みは、優秀な人物を選抜し、育成する仕組みとして引き続き優れているとは思います。
(取材:上田裕、森川潤、構成:加賀谷貢樹、撮影:遠藤素子、デザイン:黒田早希)