【瀧本哲史・再掲】超一流人材の発掘は、大学からでは遅すぎる

2019/8/16
前回
【瀧本哲史・再掲】「努力が報われること」は絶対にやってはいけない
世の中を変える新発見をしよう
──日本にトップティア(一流)の人材やマジョリティから隔離されるべき人の受け皿はあると思いますか?
瀧本 あまりないのではないでしょうか?例えば、東京のトップ中高一貫校のさらにトップ層だと高1ぐらいで東大に受かりそうなやつがゴロゴロいますが、飛び級がないので死蔵されています。大学受験はある意味、目標として低すぎるわけです。だから多くの人がさまざまな形で、優秀な人材の囲い込みをしようとしているのです。
その点、ソフトバンクの孫正義会長兼社長は非常に賢明で、「高い志と異能を持つ若手人材支援を行う」ことを目的とする孫正義育英財団を作りました。
かつての夢は教師だった、孫正義の「天才づくり」の野望
同財団では、ある中国系の女性がリクルーティングのコーディネーターを務めていますが、私はその女性を大学生の頃から知っていて、彼女は非常に優秀だと感じていて、ずっとトラッキングしていました。
私はこれぞという人物はずっとトラッキングしていて、例えば、私が立ち上げメンバーの「ディベート甲子園」という中高生向けディベート大会で出会った人物は、それこそ高一から追っていて、今では彼はある分野の若手研究者として成功しつつあり、彼の始めた会社は私の投資先候補になりました。
話を戻すと、彼女はコンサルティング会社、留学を経て、次に何をやるのかなと思っていたら、同財団に転職したのですが、「ああ、彼女はやはりわかっているな」と思いましたし、孫さんも本気だなと思いましたよ。
瀧本哲史(たきもと・てつふみ)東京大学法学部卒。東大助手、McK、日本交通再建を経て、現在は京都大客員准教授を勤めながら投資業を営む。著書に、『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての交渉思考』『武器としての決断思考』など。
──今、瀧本さんは『ミライの授業』という本も出し、中高生にもアプローチされていますね。安定志向の若者も増えているといいますが、中学生たちにどんなメッセージを伝えたのですか?
世の中を変える新発見をしよう、ということです。一言で言うと「チェンジ・ザ・ワールド」ということに尽きますね。ある意味、起業もその一つですね。
私は、究極的には、それに反応する人だけをターゲットにしていますが、そういうほんの一握りの人を探し当てるために、本を10万部ぐらい売らなければなりませんでした。
この本を作る時にテストとしてまず読書好きの図書委員だけ集めて授業を行いました。彼らが最初の読者かつ、図書館で選書するキーパーソンですからね(笑)。
イメージ通り、割とおとなしめな生徒さんたちだったのですが、授業が終わった後、中学2年生の女子が私のところに走ってきて、「私も何かいっちょやってやろうと思いました」と言ってくれました。まさしく彼女のような子どもたちが、この本のターゲットだと思います。
実際、私が常任理事を務める全国教室ディベート連盟が運営している「ディベート甲子園」などを見ても、女子中学生は非常に優秀です。だから、実は『ミライの授業』では、見る人が見れば気がついたと思いますが、「偉人もの」としては突出して女性比率を高めているわけです。
例えば同書ではナイチンゲールの話を取り上げましたが、看護師は女子がなりたい職業の上位です。ナイチンゲールはクリミア戦争の際、自ら志願して看護師団を率いて傷ついた兵士の看護にあたった一方、数学や統計学を駆使して、戦闘で命を落とす兵士よりも不衛生な環境で感染症にかかって亡くなる兵士が多いことを明らかにしたのです。
彼女はほかにも、当時イギリスで最も不健康な街とされていたマンチェスター市と戦場での兵士の死亡率との比較などを行い、ヴィクトリア女王が直轄する委員会に報告書を提出しています。彼女のこうした研究成果が、戦場や市民生活における衛生管理の重要性を世に知らしめました。
つまり看護師としてよりむしろ、統計学者としてのナイチンゲールが、戦場の兵士たちや不衛生な環境に暮らす人を救い、イギリスはもとより世界の医療・福祉制度を大きく変えていったのです。
多くの人が「戦場の天使」だと思っているナイチンゲールという看護師も、実は統計学を武器にしたサイエンティストだったということは、古いパラダイムが新しいパラダイムに移り変わるパラダイム・シフトを説明するための好例だと考え、そこから『ミライの授業』が始まったわけです。
近代看護の生みの親と呼ばれたナイチンゲール(写真:traveler1116/istock.com)
大学生ではもう遅すぎる
ところが、そう言ってわかる人と、わからない人がいます。この本を作るために私は日本の各地で授業を行ったわけですが、ある地方の中学で大変興味深いことがありました。
基本、授業はインタラクティブにやるのですが、その中学では、子どもたちがまったく質問、発言をしませんでした。
それは、子どもたちも人の話を黙って聞いていることが立派だと思っているからなのですが、1人だけそうではない女子生徒がいて、彼女ばかりが質問するのです。
ところが、一緒にいたその学校の先生は彼女の質問の意味をまったく理解できず、「ナイチンゲールの話からわかるのは、心の優しさが大事だということですね」という方向に無理矢理まとめようとしていました。悲しいことに、日本では依然として、多くの子どもたちがそういう教育を受けているのです。
私が先生に「あのよく質問する生徒は印象的でしたね」と話すと、先生は「そうなんです。あの子の両親は教員で、お兄さんは東大に行っていて、うちの学校ではかなり変わっている子だと思います」と言いました。
わりと男尊女卑が強そうな地域でもあったのですが、彼女はあらゆる同調圧力をはね除けていました。そういう人物は、「変わった子」とまとめられてしまうわけです。
しかし、まさにそういう人を、私は探しています。
そのために私は本を書いているのであって、本を書くことは大きな意味でのリクルーティングです。ある意味、大学生ではもう遅すぎる、高校生や中学生にまでリクルーティングの範囲を広げているわけです。
ちなみに、中学生まではリーチするためにできそうなことはしたので、いまは小学校教育に興味があります。日本で教育を行う必要はない、小学校の次は海外だという人が確実に存在していて、そうなってくるともはや中学校でも遅すぎるとなってしまいます。
もう1つ興味がある理由は「日本では今後、東京ないし東京から好アクセスの自然に恵まれた場所(わかりやすく言うと軽井沢など)がアジア等の富裕層の教育の候補地として残るのか」ということです。
意外に思われると思いますが、東京は、アジア等の富裕層が子どもに教育を行う際のオプションとして意識されるようになってきています。
なぜかと言うと、東京は治安がよく、世界の名門パブリックスクールのアジア校が日本に開校する計画もあり、中国人の富裕層などがリスクヘッジも含めて、母国ではなく日本のほうが子どもの教育に良いのではないかと思い始めているからです。
かつて中国のトップティアはアメリカで教育を受けていましたが、中国人がアメリカに行きづらくなっているので、今後おそらくそういうトレンドが起きてくると思います。
アメリカは高等教育も圧倒的に強いのですが、初等教育は世界の名門校のアジア校があれば、近所でもいいと考える人もいるわけです。
資本装備率が高い会社に行け
──NewsPicksを読む学生は情報感度が高い人が多いと思います。そういう人たちはどんなキャリアを目指したらいいと思いますか?
就活に関して言うと、コンサルティング会社や投資銀行は今、人手不足で人材を大量に採用しているので、受からなかった人は、「自分は知力だけで勝負することは無理だ」ということを自覚すべきです。
でも、ここはここでハイスペックコモディティの過当競争になりつつあります。
ほとんどの人はそうなのです。そして、実は、給与もその他の待遇も本人のスキルよりも所属している会社がどんな業界構造かによって決まっています。
転職は考えたくない、そういう学生もいるでしょう。そうすると方向性は2つあって、1つは「comfortable niche(独自性あるポジションだが競合が入ってくるには市場が小さすぎるという位置にある企業)」を狙いに行くか、あとは「資本装備率が高い会社に行け」とよく私は言っています。
前者は見つけるのは容易ではないですし、継続性があるかはわかりません。ただ、私のゼミでも、「ホワイト企業で広島カープの試合を沢山見たい」という理由で、瀬戸内海エリアに沢山工場を持つ「comfortable niche」の会社に入社した学生もいます。
商社は資本装備率が高い。写真は三菱商事(Photo by Kakidai -)
社内競争はゆるく、すぐに経営企画に抜擢され、本社のある東京のビジターゲームと工場周りのホームゲームでかなり楽しんでいるように見えます。これはこれで、「戦略的」でしょう。
「資本装備率が高い会社」とは、具体的には商社や不動産会社です。一般に、そういう会社が高給である理由は、何かすごいことをやっているからというわけではなく、社員1人当たりの使用資本が大きいからです。給与=資本装備率×資本収益率×労働分配率となり、一番大きく違うのは実は資本装備率です。
コンサルティング会社もまだ選択肢としてはありです。もちろん、人材市場でもコモディティ化が急速に進んでいるので以前ほどのプレミアムは正直ないですが、コンサルタントとして経験を積んだあとに起業する人は多いですよね。
本質的には、コンサルティング会社は、私が良い組織と考える条件を満たしています。
①みはらしが良く、②ブートキャンプ(アメリカの軍隊の新兵訓練施設)的なトレーニングで鍛えてくれる場所であり、③クラブ的であることを挙げています。要は、世の中を幅広く観察し、徹底的に学ぶ場であり、その苦労をともにした仲間のネットワークが長く続く組織ということです。
お金で買えないものが本当に良いもの
──「技術系の人材はMBAよりもプログラミングやサイエンスを学ぶべきだ」という人も、この2、3年で増えてきていますが、瀧本さんはどう考えますか?
どのレベルの話をしているのかが問題です。プログラミングにしても、少し勉強したぐらいで通用するはずがありません。これもだんだん自動化するパッケージが出てきてコモディティ化が進むと思います。
そもそも、あらゆる分野で上位1%の人ですら生き残れない可能性があるなかで、好きでもないことで勝負したところで、とても勝てません。まずは、そのことが好きで才能があり、努力し続けることが前提で、さらに運にも恵まれなければ勝てません。
それ以外は自動的に負けなんですよ。
その意味で、一般に、自分の好きなことを仕事にできるのは良いことだと思われていますが「好きなことをやらないと最初から負けている」という、ディストピアのような世界が現実です。
プログラミングができればそれでいいわけではない(写真:izusek)
実際のところ、自分の好きなことを仕事にしているフリーランスの世界では、勝ち組は0.1%程度で、残りの99.9%は「安い労働力」としかみなされていません。にもかかわらず、いまはそのわずか0.1%の勝ち組だけを取り上げて、フリーランスは自由な働き方だと言われています。
要するに、株式投資で儲けているのではなく、株で儲けている雰囲気を醸し出してサロンを開いているのと同じような人たちが、フリーランス「業界」にもいるわけです。
──たしかにサロンブームでは、みんな何かを求めて集まっていますが、そこから新しいものが生まれるのかどうかはまた別の話です。
コミュニティについて思うことがあるのですが、大事なことは「質の高いコミュニティは買うことができない」ということです。
お金を持っている人たちでもお金で買えないものが、本当に良いものです。その典型が京都のコミュニティです。茶道にしても、お金がないと続けられないのはもちろんですが、お金があっても入れないコミュニティに価値があるのです。
勧めて起業の時点でダメ
──ちなみに、日本のトップティアの学生には起業を勧めますか?
勧めません。勧めて起業するような人は駄目です。一般論としては、リスクリターンが良いとは言えず、大抵予定通りにはならず、アップダウンがありますから、それに耐えうるぐらいの「狂気」「軽率さ」も必要です。
大学院に進学したほうがいいかどうかで迷っている人は、真剣に迷うぐらいの「理性」が残っているので、大学院への進学をお勧めします(笑)。
なので、起業と院進で、アドバイスの方向性は逆になります。
──スピンオフという手段はいかがですか。
そもそも起業はリスクが高いものではありますが、スピンオフという手段はそれを一部軽減できます。
例えばファナック(旧・富士通ファナック)は富士通の100%出資で設立された企業で、その富士通(旧・富士通信機製造)は富士電機製造(現・富士電機)から独立し、富士電機は古河電工と独ジーメンス社との資本・技術提携によって設立された会社です。
無印食品を展開している良品計画も、西友のプライベートブランドからスタートして独立した歴史を持っているので、そういう会社がもっと出てきたら面白いかもしれません。
【完全解説】日本人が知らない、超高収益企業ファナックの正体
大企業のなかでは動きが悪かった事業も外出しすることで、動き方が変わることも多いですし、サラリーマンから経営メンバーに変われば、サラリーマンでは考えられなかったような裁量を得ることができ、インセンティブ、経済的アップサイドを設計することができますから。
私は、起業論の授業の最初に必ずしていた話があります。
京大生の諸君は、生涯年収3億円ぐらいは保証されている道がある。しかし、実は、その道では、かなり「自由」は制約される。その安定を捨ててまで、追求したいテーマをもち、経済的アップサイドを狙い、究極の自己責任を楽しみたければ、この授業をとるとよいだろう。
つまり、何を目指したいかです。ホワイト企業でプロ野球を観戦するか、ビジネスパーソンとしてプロ野球選手のように生きるのか。私はどっちもありだと思っていて、各人が選択することだと思っています。
(取材:上田裕、森川潤、構成:加賀谷貢樹、撮影:遠藤素子、デザイン:黒田早希)
エンジェル投資家、経営コンサルタントの顔を持ち、多くのベストセラーを執筆した京都大学客員准教授の瀧本哲史さんが、8月10日に東京都内の病院で亡くなりました。

「コモディティになってはいけない」「自分の頭で考え続けなくてはいけない」とビジネスパーソン、学生に訴え続けた瀧本さん。NewsPicksは2019年6月のインタビューを再掲載して瀧本さんの思いを振り返るとともに、ご冥福を心よりお祈りさせていただきます。