山崎貴大さんの「材料工学のメガネで見た世界」

2019/2/10
NewsPicksで活躍するピッカーさんをご紹介するこの連載、39人目にご登場いただくのはYamazaki Takahiroこと山崎貴大さんです。
大学院の博士課程を間もなく修了し、さらに材料工学の道を極めようとしている山崎さんが、NewsPicksのコメント欄に感じる楽しさとは? 
「磁石」への愛や、科学的根拠に基づくコメントを心がける理由も伺いました。

きっかけはエネルギーアナリスト

──山崎さんのNewsPicks登録日を見てビックリしました。2013年9月15日と、かなり初期からご利用いただいていますね。
大学3年生の秋、カナダに短期留学中にダウンロードしたような気がします。当時、堀江貴文さんなど起業家の本にハマって読破していたので、堀江さんのツイッターでNewsPicksを知ったのではないかなと。
その頃のNewsPicksはまだ、オリジナル記事の編集部も発足前で、コメント機能すらなくて、記事をピックすることしかできなかったんですよね。
ちょこちょこいじって「ふーん」と思って、しばらくほったらかしにしていました。
博士課程に入った頃からときどき閲覧するようになり、そこでエネルギーアナリストの大場紀章さんのコメントを読むようになりました。サイエンス系の記事に書かれるコメントが、めちゃくちゃ面白かったからです。その大場さんを、この連載で紹介されましたよね。それを読んで、自分もコメントしてみようと思ったんです。
──2017年の2月のことですね。
手ごたえらしきものを実感したのは、私自身の研究領域に近い分野の研究について、東京工業大学が発表したときのことです。そのプレスリリースを読まれた方が、「Yamazakiさんのコメント待ち」と書いてくれたのに気づいて、半日がかりで長文コメントを書いたんですよ。
マニアックな記事だったにもかかわらず、想像以上に反響があり、たくさんの方が「いいね」してくださいました。
そこでNewsPicksの面白さに目覚めて、毎日のようにコメントするようになったのを覚えています。
山崎貴大(やまざき・たかひろ)
1990年生まれ。せともの(陶磁器)の街である愛知県瀬戸市出身。横浜国立大学工学部卒業後、同大学院工学府博士後期課程に在籍し、先端材料工学研究室に所属。専門は物性物理学とマテリアル工学。これまでに新しい超伝導磁石の探索(学士)、がん温熱療法への応用に向けたナノ磁石(修士)、外部磁場変化で伸び縮みする磁石(博士)に関する研究に従事。好きな元素はコバルト(Co)とビスマス(Bi)。2016年度には文科省主催グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)に参加。その一環として米国UCサンディエゴに短期滞在し、大学等の研究開発成果を元にした新事業の創出に必要なマインドと方法を学んだ。

ニュースの価値を言語化する

──Yamazakiさんのコメントは、記事に関連する論文も読み込んでから書かれていて、手間をかけてくださっている印象です。
たしかに手間はかかっているかもしれません。
ただ、誰かに読んでほしいからというよりも、備忘録を兼ねて使っています。
記事を読んで、そこに描かれている内容をしっかり理解しようと思うと、周辺領域にも範囲を広げて、研究事例を調べることが欠かせません。そうやって全体像を把握するプロセスを経ると、理解がより深まるんですよね。
そこからさらに、頭の中を整理しながら、記事の内容を自分なりに要約して、感想を書き添えたり、その研究がここからどう発展するかを想像したりします。こうしてニュースに感じた価値を言語化できると、なんとなく達成感も得られますし、後で思い出しやすくなるんです。

材料工学に魅せられて

──Yamazakiさんの好きな素材は「磁石」だそうですね。どんな研究をなさっているか教えてください。
専門は材料工学ですが、金属材料の磁気特性を中心に研究しています。
もう少し具体的にお話すると、「磁石を近づけると、伸び縮みする」という特性を持った材料があって、その材料の応用方法を考えています。
その材料は、押したり振動を与えたりすると材料内の磁力が変化するんですが、その微小な磁気エネルギーを取り出すことができるんですね。
小野さんは、ファラデーの法則とか、聞いたことがありますか?
──生粋の文系なので、小学生に説明するつもりでお願いできたらと…!
わかりました(笑)。では、例え話にしてみますね。
スポンジに磁気エネルギーが入っているとします。ぎゅっと押しつぶすとそれが漏れ出て、手を離すと元の形に戻るようなイメージです。
そんな特性のある素材を、どう活かせるか?
例えばそれを、駅の自動改札機の床に敷くと、その上を人が通るたびに発電して、その電気エネルギーを改札機の駆動に使えたりします。あるいは、リモコンの中にこの材料を入れて、ボタンを押すと、その押した力が電力に変換されるので、電池で動くタイプのものよりも薄いリモコンが作れるかもしれません。
──なるほど、面白いですね。
この材料から生まれるエネルギーはごく微小なので、それを直接活かす以外の活用法も研究され始めています。
その一例が「センシング」と呼ばれている技術。
先ほどのスポンジの例に戻ると、押したときに漏れ出るエネルギーの量をモニタリングすることで、どれぐらいの力で押されたかが把握できます。
この特性を応用して、トンネルや橋などの建造物に埋め込んでおけたら、車が通る時の振動具合をモニタリングし、修理が必要になったら知らせてくれるシステムを作れるかもしれません。
そんな風に、今まで活用しきれていなかったエネルギーを、何かに活かせるんじゃないかと考えるのが私の研究分野で、それを磁石で実現するのが私の研究になります。
実験室の風景。「左に見える2つの丸く大きな電磁石によって発生した磁場(磁力の作用する空間)を利用して、赤いコードの先に設置した磁石の伸びや縮みを計測します。(山崎さん)」
──同じ素材でも、いろんな可能性があるんですね。
材料の応用方法を考える以外にも「材料そのものの構造を深く知る」といった研究も面白いです。
私が磁石として使っている金属材料って、うんと拡大してみてみると、六角形の形をした小さな結晶の粒が集まって、その組織が作られてるんですよ。
今までは発電性能に影響する要因が複雑すぎてわからなかったのですが、実験条件を色々振ってあげることで、「結晶粒の大きさや向き」が材料の特性を変える一因だと分かりはじめてきました。
分野としては「材料組織」と呼ばれています。
複合材料や永久磁石などのミクロなスケールでの構造を制御することで、どのように特性が変わっていくのか。古くて新しい研究領域として研究が盛んに行われています。
──世の中をどんなスケールで見るかによって、気づくことが違うのが面白いですね。
NewsPicksの面白さにも通じるところがあります。
世の中を見るスケールが違うと、得られる気づきが全然違います。
様々な人の、視点が異なることで気づきを得られる。そんなスケールや視点の違いを意識して、皆さんのコメントを並べて読むと面白い。
そこがNewsPicksの醍醐味ですよね。
科学の眼鏡で世界を見れば」 
(ヨビノリたくみさんのnote 2018/10/17)

サイエンスの誠実さを大事にしたい

──NewsPicksでコメントする時に、気をつけていることがあったら教えてください。
ひとつには、「中立性を保つ」ということです。
私は技術をビジネスとしてではなく、学問の方向から見ているので、その立場を活かしてなるべくフラットな視点でコメントしたいと思っています。ある素材を活用した場合に、メリットだけでなくデメリットもちゃんと書きたい。アカデミアの世界に進んでいく人間として、皆さんにとって理解が深まるコメントを心がけたいです。
それから、「誠実であること」も大切にしたい観点です。
自分の書いている文章が、事実を説明しているのか、私の感想なのか。誤解を招くことがないようにちょっとした語尾の言い回しも気をつけて書き分けたい。
記事の背景を自分なりに調べて、きちんと理解してから書く、というのも、誠実でありたいからです。特に自分の研究領域に近い分野の記事は、“ここがこの研究のポイントなんですよ”と、分かるように書くことを意識しています。
そして3つ目は「付加価値をつける」です。
せっかくコメントを書けるのだから、記事を読んだだけでは分からないことを付け加えたい。関連する研究をつなげたり、理解を深めるのに役立ちそうな他の記事を紹介したりしておくと、自分自身の備忘録としても後で読み返しやすくなります。
あとは、NewsPicksのコメントは最大で1000文字書けるので、段落ごとに整理して書くのを心がけています。
最初に、自分なりに解釈したその記事の要約を書いて、そこで紹介されている技術のメカニズムや原理を分かる範囲でまとめます。そして今の性能だったりインパクトについて紹介して、最後に自分の考える今後の展開、“こうなるんじゃないか?”という予想など、ちょっとした感想を書き添えられたらいいかな、と思っています。
毎回ここまできっちり書ける時ばかりではありませんが、せっかく他の方に読んでもらう機会があるのなら、皆さんと一緒にニュースの理解が深められるように、私なりに貢献できたら、そんな思いでいます。
水の持つ特別な性質について、東京大学が従来の通説を覆す発見
(大学ジャーナルオンライン 2018/9/16)
A new player hits the scene in materials science
(Physics World 2018年/9/27)

アカデミックの道を進む

──これからの話を聞かせてください。
春には大学院の博士課程を終えて、今とは別の大学でポスドク(注:博士研究員)になって、自分で見つけた課題ややりたいテーマに取り組んでいきます。
一般に、大学のポスドクの研究テーマは、研究費を出してくれる企業との共同研究で決まっていたり、師事する先生がすでに取り組まれている大きなテーマの延長だったりするので、実はこうした「自分のテーマ」を追求できるのってあまりないことなんです。公募の時点で既にテーマが決まっていたりするので。
期間は3年間の予定です。どこまでやりきれるか、成果を残せるか。自分を試したいです。
小さな頃から「なぜ磁石はくっつくのか? 引き合ったり離れたりする力があるのか?」と疑問に思い続けてきました。
これまでの研究でその理由を理解はできても、今度はもっともっと分からない側面が見えてくる。ミステリアスで、エネルギッシュで、可能性を秘めた素材なんです。
その可能性を、私なりに追求したい。
まだまだ私はただの学生ですし、NewsPicksのピッカーさんたちに比べたら視野も世界も狭いと思います。それでも、自分自身の専門性を基盤に、サイエンスの分野で少しでも貢献できたらと、そんな思いでアカデミックの道を進んでいきます。

山崎さんのおすすめピッカー

「お人柄を感じさせるような親しみのある文体の中に、鋭い視点と遊び心が含まれていて、そのバランスが大好きです。マーケターとしての実体験に基づくコメントは私の狭い視野をグッと拡げてくれます。」
Misumi Tさん
「理路整然としたストレートな表現で、エビデンスに基づいた金融経済の視点から新しい知識と刺激をくれる同世代の素敵なピッカーさん。何よりコメントセンスがピカ一。」
「優しさの中に芯の強さを感じるコメントが多く、まさに釈迦の教えを体現したようなピッカーさん。特に、教育的な視点からの鋭い指摘には多くの示唆に富んでおり、いつも考えさせられます。」
「サイエンス系記事にいつも丁寧なコメントを残してくださる大好きなサイエンスピッカーさん。私の不得手とする化学的な考察やその視点の違いなどから多くのことを学ばせていただいております。」