東工大など、「温めると縮む」負熱膨張材料の合成に成功 - 過去最大の体積収縮
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追記
まず簡単にまとめると,今回発見されたペロブスカイト型セラミックスの体積減少の理由は,結晶構造の相転移(正方晶から立方晶)にあり,組成をいじくることで,その転移温度を室温に近づけることができましたよ,という研究成果になります。
負の熱膨張特性は,100年以上前から鉄ニッケル系合金において研究されており,特に,熱膨張を一切示さない「インバー合金」と呼ばれる材料で,1920年にノーベル物理学賞が与えられています。既に様々な精密計器や電子通信機器分野で広く使用されているようです。
一方で,これらの材料は体積減少する温度領域が限定的(不安定)であったり機械的強度や切削性が悪いため,構造用部材への適用が難しいのが欠点となります。今回のPb系酸化物もセラミックスなので,力学的な負荷のかからない用途に限られてしまうかと思います。ただ,最近の複合技術の発展や自己治癒性の付与によって,こういった使いにくいけど機能性が高い物質が広範囲で使われるようになってきています。
今回の研究内容に焦点を当てると,材料物性(おもに量子効果や電子相関に基づく学際領域)の分野でよく知られるペロブスカイト型酸化物(ABO3)は,周囲の温度変化に伴って結晶の相転移を示す比較的新しい物質です。
YAMAGISHIさんが説明くださったような多彩で魅力的なマクロ特性に加えて,強相関電子やトポロジーのようなミクロな現象も非常に面白く,多くの物性屋が注目しているのが特徴ですね。
今回発見された鉛バナジウム酸化物では,Pbサイトに価数の異なる金属元素を置換(ドープ)することで,電子状態をいじくった結果,大きな体積変化を伴う相転移を「室温付近」に近づけることができたことが一番の成果です。実際には,Laを入れない材料の方が体積増加は更に数%を大きく示しています。
この最大8.5%の体積変化がどれくらいかというと,圧電材料や磁歪合金で1-2%程度,NiMnIn系の形状記憶合金では6-7%,La系の水素貯蔵合金では1%以下と,比較的大きな体積変化を示すことになりますので,インパクトは非常に大きいかと思います。
加えると,今回の材料では相転移に伴って誘電特性も大幅に変化しているはずなので,個人的にはその特性評価に関する続報も非常に楽しみです。
追記おわり
お酒で頭お花畑なので明日追記します。ご指名、深謝です。※タイムラインに上げたいので再Pick
Yamazakiさん、背景も踏まえた大変詳しいご解説をありがとうございます!!
当方、β版は試用しておらずサンクスポイントを贈れないオールドタイプ故、失われた秘奥義のlike連打100連撃をお見舞させていただきました。
同じ材料屋でも全く異なる世界があることをいつも勉強させていただいております。
やはり物性クラスタ界隈でもインパクトの大きい発見なんですね。
元コメ
Yamazakiさん待ちです。ペロブスカイト構造のセラミックは、構成原子の一部を異なる原子半径の原子と置換することで様々な格子歪を狙って生み出し、電子間の超交換相互作用をコントロールして色んなマクロ物性を生み出すことができる可能性をもつ面白い系です。
これまで、モット絶縁体や高温超伝導、巨大磁気抵抗等、電子スピンと関係する現象が多数発見されています。しかもみんなノーベル賞!熱膨張係数に影響を与えるメカニズムが超交換相互作用から導かれたら、またまたノーベル賞取ってしまうかもしれませんね。
ペロブスカイトの構成原子を狙った比率で置換して、簡単に単結晶を作れる技術が生まれたら物性物理の進歩のスピードは10倍くらいになるかもしれません。