「アメフトを広めたい」高橋孝輔さんがコメントに込める情熱

2017/4/8
NewsPicksのピッカーさんをご紹介する本連載、前回から2回にわたって「スポーツ」の分野で活躍する方をご紹介しています。里崎慎さんにつづいてご登場いただくのは、新潟県アメリカンフットボール協会の高橋孝輔さんです。
現在はアメリカンフットボールの普及に力を注ぎながら、新潟の私立大学にも勤務し、博士課程にも在籍中と、「三足のわらじ」で活動されています。
里崎さんが「スポーツ系の記事に鋭い視点で納得のコメントを書かれている」と、おすすめピッカーにも挙げていた高橋さん。多忙な毎日のなかで感じるNewsPicksの価値と、もっとNewsPicksを広めるためのアイディアを聞かせてくださいました。

思考の整理と情報発信

──高橋さんが、NewsPicksを知ったきっかけから聞かせてください。
堀江貴文さんのツイッターで見たのが最初ですね。すぐに登録しました。
ところが、使い方がよく分からず、ツイッターにニュース記事を流すためのツールだと思っていました(笑)。
どうやらコメントができるようだ、と気づいたと同時に、NewsPicks編集部が発信するスポーツ関連のオリジナル記事に目が止まりました。以来、コーチングや選手の育成についての記事を愛読しています。プロスポーツのみならず、アマチュア競技やスポーツ行政に関するニュースに注目しています。
NewsPicksは自分の考えを整理、補強するのに便利です。
記事を読んで、感じたことや考えたことをコメントにまとめ上げる繰り返しで、頭の中を整理できている気がします。
そして、情報発信の手段としても活用しています。
プロフィールにもあるとおり、新潟県アメリカンフットボール協会で理事をしているので、私が毎日コメントすれば、1日1回は皆さんに「アメフト」の文字を見てもらえるんじゃないかと(笑)。
僕が「タックルイノヴェイション!」ってコメントすると、皆さんLikeしてくださるんですよ(笑)。そんなちょっとしたやりとりも楽しいです。
高橋 孝輔(たかはし こうすけ)
新潟県アメリカンフットボール協会理事。開成高校、東京大学工学部を卒業後、大手造船重機メーカーで造船管理に従事したのち、プロスポーツの普及を学ぶために新潟へ。アメリカンフットボールとフラッグフットボールを広めようと、普及促進と学術研究に取り組んでいる。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程に在籍。現役選手としても新潟FIGHTING SHARKSの代表兼主将として活躍中。

アメフトに魅せられて

──そもそも、高橋さんはなぜアメフトを好きになったのですか?
ずっと野球少年だった私が、アメフトに出会ったのは大学時代です。パワーがあって足が速い。身体的にアメフトに向いていたと思いますね。
アメフトをやると、ありのままの自分がさらけ出されます。
さらけ出すといっても、防具をつけていますから、見た目はゴツいですが(笑)。一人ひとりの選手の強みと弱み、できることとできないことを把握できていないと、実行可能な戦略が立てられない競技なんです。
アメフトは「準備のスポーツ」と呼ばれているくらい、想定したとおりのプレーができたチームが勝つスポーツです。試合までの限られた期間に、どれだけ現実的な戦略を考え、実際の練習に落とし込んで準備できたかが問われます。
そして試合はワンプレイごとに区切られ、すべて動画に撮って細かく分析するため、ごまかしが効かないし、隠せません。
本当は誰だって強がりたいし、できないよりできると言いたい。でも、実行する力がなければ強がりだけで終わってしまいます。必然的に、お互いを深く理解し合い、生身の人間性をさらけ出してぶつかり合うことが求められる。そこがすごく好きなんですよね。
「劇的な試合が多いこともアメフトの魅力です。私も何度か劇的な勝利を経験したことあります。最後の最後の1秒で勝敗が決まり、言葉では言い表せないような感情があふれ出す。あんな感動したことってないんですよね(高橋さん)。」
──大学卒業後は、長崎で社会人生活をスタートされていますね。
工学部を卒業して2年間、造船会社で現場管理の仕事をしていました。
職人さんとチームを組んで、スケジュールや材料を調整し、安全と品質を管理するのは、実現可能な計画を立てられるかが問われます。アメフトに通じるものがあると感じました。
たかだか2年ですから、大した成果はありませんでしたが、上司や職場の皆さんに評価いただいて、仕事自体は好きでした。
──長崎でもアメフトは続けていたのでしょうか?
社会人1年目は、アメフトから離れていました。
でもやっぱりやりたくなって、2年目からは福岡のチームに入って再開しました。
そこには学生時代に対戦した相手や、専門誌が毎年発表する優秀選手に選ばれたような人が集まっていて、こんなにいい選手と一緒にやれるのかと、プレーするだけで喜びがありました。
私自身、大学ではトップで通用するプレイヤーとして、実力には自信がありました。ただ、大学3年生の秋に鍛えれば鍛えるほど身体が動かなくなる「オーバートレーニング症候群」になってしまっていました。
普通の疲れなら、休めば疲労が回復し、鍛錬を重ねていくことができます。ところが、この症状をおこすと、長期間休んでもパフォーマンスが上がらなくなってしまうんです。たとえば、ベンチプレスで120キロ上げられていたのが、症状が出始めてからは30キロ程度しかできなくなりました。
それでもなんとかプレーを続けて、学生トップクラスにまで実力を向上させたものの、症状は完全に回復に至らないまま、私の大学生活は終わりました。競技者としてこれ以上のレベルを目指せないならと、アメフトから足を洗ったんです。
──好きなスポーツをやればやるほど、パフォーマンスが上がりにくくなるというのは、辛いご経験ですね。再びアメフトに携わろうとお考えになったのはなぜですか。
一度は離れたアメフトを再開して、純粋に楽しくて、救われたというか。アメフトに恩返しがしたいと思ったんです。選手としてできることは、たかが知れているけれど、何か別のかたちがあるのではないかと、模索し始めました。

アメフトへの恩返し

──アメフトへの恩返し、その一歩は新潟に移られたことですね。「縁もゆかりもない」とコメントされていましたが、なぜ新潟だったのでしょうか。
新潟にはNSGグループという企業があります。以前NewsPicksでも「新潟の虎」として紹介された池田弘が創業者で、学校法人やプロスポーツチームの運営を多角的に手がけています。
Jリーグで観客動員数1位を達成したこともあるアルビレックス新潟をはじめ、「アルビレックス」の名を冠した多競技のプロチームを、どのように運営しているのか。そこから学んだことをアメフトに還元できればという思いで、新潟に赴きました。
最初はその専門学校に籍を置いて、提携するさまざまなプロスポーツチームでインターンしました。サッカー、バスケットボール、野球、陸上競技など、チームの中に入り込んで、事務仕事から試合運営まで現場を体験しました。
1年が過ぎた頃、同じグループが経営する大学で「アメフト部を立ち上げてみないか」という話をいただきました。アメフト部の立ち上げではいくつかの課題がまだ残っており実現には至っていませんが、現在は大学職員として働きながらアメフト部の立ち上げに必要な環境整備や、新潟県アメリカンフットボール協会の理事として活動しています。
また、スポーツの普及を学術的に研究したいと、大学院でMBAを取得し、スポーツ科学研究の博士論文も執筆中です。
さらに最近、同じグループ内の高校にあるアメリカンフットボール部でのコーチのお話もいただいています。
──さらに競技も続けられていますよね。
新潟県の地元大学生と社会人の合同チームで、代表とコーチと主将を兼務しています。
アメフトは、試合に必要な人数が多いスポーツです。攻撃側が陣地を進めるのを、守備側が阻止するのですが、通常は選手が攻撃と守備をそれぞれ専門でやります。今のチームは人数が少ないので、私はフル出場です。攻撃やってパントやって守備やって、点が入ればキックオフと、出ずっぱりですから、きついですよ。
日本では、アメフトの競技人口はおよそ2万人。サッカーや野球がそれぞれ600万人といわれていますから、わずか300分の1しかいません。そのなかでも新潟では百数十人ぐらいと、まだまだマイナースポーツです。
まずは新潟で、ひとつの成功事例を作りたい。アメフトの面白さを広めたいんです。

相手を前にして言える言葉づかい

──NewsPicksでも、アメフトのみならずスポーツカテゴリを盛り上げようとしてくださっています。
1年ほど前に、NewsPicksのスポーツカテゴリで積極的にコメントされている方の一覧を作りました。さまざまな競技を網羅できて、よいアーカイブだと好評だったんですよね。皆さんにも喜んでいただけました。
──そんな高橋さんが、コメントを書くときに気をつけていることは?
はじめは「ちゃんとやろう」と、根拠となるデータを調べるようにしたりしていましたが、だんだん面倒になりまして(笑)。今は気が向いたときだけしっかり書く、という感じです。
ただ、どんな意見でも何かを書くときは、論理構成や誤字脱字がないかを読み直してチェックしています。
もうひとつ気をつけているのは、誰かの意見について言及するときは、その人に面と向かって言うつもりでコメントすること。
大学時代に体育会の研修で「ゴシップは組織を腐らせるコミュニケーションだ」と習ったんです。ゴシップとは、特定の人物について、その人がいない場で言う、いわば陰口ですよね。陰口を言う暇があったら、直接伝えるほうがよっぽど建設的です。
NewsPicksでも、人物にかんしてコメントを書くときは、その人を目の前にしても同じように言えるかと自分に確認する。そんなことを心がけてきました。

「アメフト教」の宣教師

──私もNewsPicksを楽しんでくださる方を増やしたいんです。どんなことを意識していけばよいでしょうか。
私が今取り組んでいるのは、アメフトが楽しい、好きだという人を増やすこと。そしてそのスポーツが、社会にとって何の役に立つのか、やる人や観る人の人生をどう変えるのかを伝えることです。
たとえばスポーツの場合、競技人口の多い野球だと、勝つことを追求するプロ野球があり、競技を楽しみたい方や健康目的でやっている草野球がある。実は日本では草野球人口が多く、それがメーカーの売上を支えています。
年齢と競技レベル(例えば、初心者、レジャー、アマチュアトップレベル、プロ・オリンピックレベルなど)のマトリクスを作ったときに、各セグメントで専用の環境が整えられていると、競技人口が増えると考えられています。そして、各セグメント間の移動がスムーズにできると、競技者の満足につながりやすいです。
──高橋さんも、アメフト初心者や子どもたちが気軽に始められる「フラッグフットボール」の普及に力を入れていますね。
フラッグフットボールは、アメフトの面白さはそのままに、タックルなどの接触をなくした競技です。初心者や身体の小さいお子さんでも安心して気軽に始められて、アメフトの魅力を体感できます。
競技人口を増やすために、フラッグフットボールを広めるのはすごく意味があると考えているんですよね。
フラッグフットボールの練習風景。高橋さんが理事を務める新潟アメリカンフットボール協会では、競技を広めるために、小学生を対象にした体験会を開催している。「アメフトを楽しい要素はそのままに、ぶつかる行為をなくしたスポーツです。アメフト入門者の大人の方にも楽しめますよ(高橋さん)。」
──フラッグフットボールの場合は、どんなかたちで社会の役に立ちますか。
教育的なスポーツだと思います。
最大の特徴は、集団達成感が得られやすいこと、そしてコミュニケーションが必然的に豊富になるということです。
たとえば、足が遅くて体の大きい子がいたら、壁になってボールを持っている人を守ることができます。自分を活かして、点を取ることに貢献できる。みんなが協力し、自分自身も貢献したから成功したんだと喜べる。こうした感覚を集団達成感と呼びます。
また、フラッグフットボールはアメフトと同様に、1プレーごとに直前のプレーのふりかえりと次のプレーの打ち合わせを行う、「ハドル」と呼ばれる作戦会議をやります。プレー間のハドルだけではなく、事前の作戦立案でもお互いの動きの組み合わせについて必ず話し合います。つまり「コミュニケーションをとることによって上手くいく」というよりも、「コミュニケーションをとらないと競技が成立しない」というくらいコミュニケーションが競技の一部になっているのです。
フラッグフットボールを体育の授業に入れたことで、いじめや不登校が解決した、運動が苦手な児童の体力テストが飛躍的に向上した、体育が嫌いだった小6の女の子がフラッグフットボールのお陰で体育が好きになった、などの事例があります。
──NewsPicksも、いろんな楽しみ方を用意したいです。
もちろん、個々それぞれにオーダーメイドの楽しみ方を用意するのは難しいと思いますので、ある程度近い志向同士をまとめた上で、ということになると思います。そしてそれぞれの楽しみ方がどんな役に立つか、ストーリーを描くこと。サービスを広める際にも、スポーツと同じことが言えると思います。
NewsPicksをやられている方は、それぞれがいろんなものを求めて集まっているんだと思うんです。だからこそ、いろんなスタンスで関わることができるように、例えば興味分野などを軸に仲間探しができるようにするといいのではないでしょうか。
私自身も、スポーツのニュースに関心がある人と情報交換したり、以前やったアメフトの試合観戦のオフ会を開いたりして「アメフト教」を布教したい。
NewsPicksで出会う方々と、純粋に一緒に楽しみたいです。

高橋さんのおすすめピッカー

「スポーツ関連のピッカーさんは、以前に競技ごとにご紹介するブログ記事を書いたので、今回はそれ以外の分野でおすすめの方を挙げさせていただきます(高橋さん)。」
ご専門の福祉関係のコメントが素晴らしい。実はアメフト好きで、私がピックした記事にもコメントくださるので感謝しています。非公式に不定期連載されている「NP“コンナモンデッシャロ”」を読むと、NewsPicksのディープな世界に触れられます。ちなみに、誰が名付けたか分かりませんが、kimitoさん、Naoya Satoさんと私で「イノヴェイション三兄弟」と呼ばれているそうで、光栄です!
大学付属校の先生という立場から、教育現場の理想と現実について深いコメントを書かれています。運動部の顧問をなさっているようで、部活動に関するコメントからも学ばせてもらっています。
NewsPicksではラグビー関連の記事で詳しいコメントを書かれています。私が主催したライスボウル観戦オフ会にも来てくださり、それ以来アメフト好きにもなってくださいました。布教成功です(笑)。
素晴らしい写真を撮られる方で、「撮りあるき」を連載されています。とくに新潟の写真がすごくキレイで、住んでいる私でさえ「新潟に行きたい!」と思わせてくれます(笑)。6月に新潟でオフ会を主催されるそうで、私も参加に向けて予定を調整中です。
福島県でフットボールの普及をやられている石田さん。アメフト関係の記事にもコメントをくださるのが嬉しいです。いつか何かご一緒できたらと思っています。
■小野 編集後記
「アメフトの好きなところを挙げていったら、何時間あっても足りないですよ」と苦笑していた高橋さん。ありのままの自分がさらけだされる競技を、続けてきたからなのでしょうか、ビデオ通話ごしなのに、高橋さんのアメフト愛がヒシヒシと伝わってくる取材でした。

そして、高橋さんからいただいたアドバイスどおり、「ピッカーさんの仲間探し」をサポートできるよう、私も挑戦していきます!
その一歩目として、「スポーツ×ビジネス」のテーマでピッカーさまに交流いただく、懇親会の開催を考えています。スポーツ関連のビジネスに従事されている方、研究者や指導者の皆さま、よろしければこちらからメールアドレスをご登録ください。詳細が決まり次第、ご案内させていただきます!