【村上由美子】なぜ、海外で日本の学校掃除が話題になったのか

2017/4/5
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)を、4月3日からスタートしました。
同番組のコーナーPICK ONEでは、月曜日から木曜日まで、それぞれ「テクノロジー・サイエンス」「ビジネス」「政治・経済」「キャリア」と、日替わりで4つのテーマを扱い、各分野のプロピッカーらが気になるニュースやトピックスを未来へつながる視点で読み解きます。
ナビゲーターはサッシャさん、アシスタントはsugar meの寺岡歩美さんが務めます。
5日は、OECD東京センター所長の村上由美子さんが出演。「日本の学校掃除は教育か、それとも児童労働か」(NewSphere)を題材に、日本と欧米の違いについて解説しました。

小学生の掃除が話題に

サッシャ 未来を歩く羅針盤「PICK ONE」。200万ユーザーが使っている経済ニュースアプリ「NewsPicks」とコラボレーションしまして、未来を読み解くヒントになるような話題をチョイス。
今日は、「日本の学校掃除は教育か、それとも児童労働か」というトピックにフォーカスです。
寺岡 解説してくださるのは、NewsPicksの公式コメンテーター「プロピッカー」である、村上由美子さんです。
村上さんは、大学を卒業後、およそ20年にわたってニューヨークで投資銀行業務に就き、ゴールドマン・サックスなどのマネジング・ディレクターを経て、2013年からOECD東京センター所長に就任されています。よろしくお願いします。
村上 よろしくお願いします。
サッシャ さて、海外メディアが作成した「日本の小学生が学校で掃除や給食の配膳をする風景動画」がYouTubeやSNSで注目を集めるとともに、物議を醸しているとのことですが、これはどういうことなんでしょう。
村上 海外では、小学生が掃除をすることが概念としてないんですよね。
私の子どもはアメリカンスクールに通っていますけれども、子どもたちが自分の教室を掃除するとか、給食の当番で白衣を着て配膳をすることはあり得ません。
そのため、この話題には賛否両論があるわけですが、それ以前に「日本ではこんなことをしているんだ」という感じで、概念自体が驚きなわけです。
サッシャ 特に西洋諸国はそうでしょうね。僕もドイツで生まれ育って、小学校3年生まで教育を受けて、4年生から日本の公立学校に編入したのですけど、その違いにびっくりしました。
「児童虐待だ」「児童労働だ」というネガティブな意見もあるようで……。
寺岡 ええっ。
サッシャ あまりにも日本の実情が分かっていない気もするんですけれど、そういう反応も出ているんですか?
村上 一部には、「子どもたちに掃除をさせるなんて変じゃないか」「ひどいんじゃないか」という意見もあります。
ただ、これに関連するコメントを見たり、周囲に話を聞いたりした感じだと、どちらかというと“日本の美徳”として、「すごい」という反応が多い気がします。
つまり、人間が集団生活を営むうえで、「子どものころから個々の責任感などを植え付けるよい方法だ」と、ポジティブな見方の方が多いと感じますね。
寺岡 うーん。ずっと日本にいるから当たり前だと思っていたので、ちょっとびっくりですね。

教育のとらえ方の違い

サッシャ 僕は両方経験しているので、やっぱり学校のあり方が、いわゆる西洋諸国と日本では根本的に違う部分があると感じます。
日本では、学校は勉強をするだけじゃなくて集団生活やしつけもされる場所という感じですが、僕が育ったドイツでは、学校は勉強をする場所で、しつけは家庭でするもの。しつけができていないと、親が先生に怒られるんですね。
村上 日本の学校では、勉強だけではなく、社会人として知るべき常識や感覚を総合的に学ぶことも、教育の一環としてとらえていると思うんです。
様々な集団生活を送るうえで必要になる「責任感」を育むことも勉強であるとされ、掃除はその一つの例になっているわけです。
ところが、サッシャさんがおっしゃる通り、西洋では「学校は勉強をするところ」という感覚が強いわけです。
サッシャ 今回の話題に派生して言うと、日本代表のサポーターがスタジアムで掃除している姿が、よくニュースになりますよね。
寺岡 ああ、ごみ拾いとかですね。
村上 リオオリンピックの時もありましたよね。日本の応援団が自分たちのごみだけじゃなくて周囲のごみも拾い、きれいに掃除して帰ったことが、海外では絶賛されたわけです。
サッシャ そうした反応もある一方で、西洋では「掃除をする人の仕事を奪っている」という感覚を持つ場合もあるんですよね。
寺岡 へえー。
村上 日本は、どんな人も平等であるという感覚が、西洋と比べて強いと思うんです。
西洋では、特定の仕事に就く人は、特手の社会ランクに位置づけられ、「その人はその人の仕事をするべきだ」という意識があります。
でも、日本はどんな人も平等に扱われ、掃除も含めて同じように仕事をします。子どもも学校教育の中で、家庭の経済状況や勉強の成績にかかわらず、集団生活の中で責任を果たすべきだとされるところは、違う点だと思います。
サッシャ 根本的な成り立ちが違いますよね。テリー(寺岡)は、どっちの学校がいいですか?
寺岡 私は慣れていることもあるので、掃除をするのはいいなと思いますね。
サッシャ 掃除の時間、嫌じゃなかった?
寺岡 私は結構好きでしたね。

日本の特殊性を活かすべき

村上 もう一つ大きなポイントとして議論されているのは、日本は集団生活の中で、あうんの呼吸や暗黙の了解がたくさんあって、それによって物事がスムーズに回る環境があるわけです。
ただ、教育における集団生活でそれが行き過ぎると、個々の個性を殺しかねないので、そこはバランスが難しいんです。
寺岡 なるほど。
サッシャ ドイツはそこが極端で、戦前のナチス教育の反省があるので上から押し付けることがタブーになっています。「先生の言うとおりにやらなければいけない」とするのは、集団主義を生んでしまうと考えるんです。
その点は、他のヨーロッパの国とは違うのかもしれませんけれども。
村上 その意味で、アメリカなどは個人主義的な部分はかなり強いわけですよね。
私は日本の教育の問題の一つとして、個人の力を上手く活かせていないところがあると思いますので、掃除はいいと思うのですが、その延長線上に個性を殺すような環境を生んではいけないと思うんです。
個々で価値観や意見が違うわけですから、集団生活の中でルールと責任を果たすと同時に、違う意見を持ってもいいし、そういう意見も聞く環境も、教育の現場でつくっていかなければいけません。両方やらなければいけないんです。
サッシャ ちょっとクローズアップされた感じの話題ですが、その奥に結構深い問題がありますね。
村上 結構深いですよ。社会全体の問題につながりますので、この10分じゃ足りない、一週間語りつくしても、という感じです(笑)。
サッシャ その中で、村上さんとしては、このニュースを通じて何を感じてほしいですか?
村上 日本人が当たり前だと思っていることが、実は海外から見ると驚きであることが、よくあるんです。今回はその一つの例だと思います。
私としては、海外から特殊に見えることって、ポジティブにもネガティブにも“使える”と思っているんです。
そうした日本の特殊性を企業の競争力にしたり、国民の創造性としてクリエイティブな方向に生かしたりするチャンスは、たくさんありますから。
そういう点に、皆さんが気づいてもらえればいいなと思います。
サッシャ なるほど。村上さん、ありがとうございました。
村上 ありがとうございました。
※本記事は放送をもとに再構成しています。
また、今回のニュースをはじめとした村上さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
6日は、VISITS WORKS代表の松本勝さんが出演予定です。こちらも合わせてお楽しみください。

【番組概要】
放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
番組WEBサイトはこちらをご覧ください。
(構成:菅原聖司)