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【18歳の選挙】“賢い市民”を増やすために必要なこと

2016/7/9

7月10日、第24回参議院議員通常選挙が行われます。いわゆる「18歳選挙権」が導入されてから、初めての国政選挙としても注目されています。

NewsPicksコミュニティチームでは、18歳選挙権について【椎木里佳×奥田愛基】同世代対談「18歳の選挙」がはじまる!を掲載し、コメント欄に意見を募集する企画を行いました。

ここで、一際熱いコメントを寄せたのが、U25のプロピッカーでもある徐東輝(そぉ とんふぃ)氏たかまつなな氏

今回、NewsPicksコミュニティチームでは、たかまつ氏の「とんふぃくんと私にやらせてください!」というコメントを受けて、2人の対談を実施しました。

前編:【たかまつなな×徐東輝】同世代対談「18歳の選挙」がはじまる!

教育における政治的中立性

とんふぃ:さきほど、「教育における政治的中立性」について少し話題が出ましたが、たかまつさんは、活動ではどのように意識していますか?

たかまつ:私は特定のイシューに踏み込むのではなく、その入り口部分のコンテンツを作ることで、中立性を保っています。

慶應義塾大学教授の上山信一さんには「具体的な政党のマニフェストを読めるような能力がないと、結局は賢い市民は生まれない」と言われました。ただ、マニフェストを学校教育で扱うことには難しさがあると感じます。

そこで、私は芸人さんと一緒に「まず興味をもってもらう」という活動をしています。興味さえ持てば、希望的観測かもしれないけど、あとは主体的に個々人が動いて学んでいくと思っているからです。

──イシューを1つとっても、扱いにくいテーマもあると思います。たとえば、安全保障や天皇制などについて、ivoteが取り上げることはありますか。

とんふぃ:僕らはそういったテーマも躊躇せずに扱います。もちろんマニフェストの対比表はしっかり作り、全政党の意見を出してなるべく公平に扱うようにはします。政治家を呼ぶ際も、与野党の議員を集めます。

僕はやっぱり、賢い市民をつくるためには、政治教育をする際に個々の具体的な政策に踏み込むことは避けてはならないと思います。

それに、極論になってしまいますが、僕は「政治的中立」という態度は存在し得ないと思っています。日本は、その言葉を怖がりすぎている気がします。

アメリカやドイツはこの点がしっかりしていて、先生も子供に教えるときは「これは私見です、反対意見もあります」などとはっきりわかるようにすれば、小学生にも政治教育をやっていいことになっています(ドイツのボイテルスバッハ合意など)。

なので、日本は「政治的中立」を恐れた結果、たかまつさんが言うところの入り口までしか連れて来ることができない。

ここで必要なのは、日本の政治家が「この条件を満たすならば政治教育をしていい」というコンセンサスをしっかり与野党間などで取ったうえで、教育現場に伝えること。それがないから、いつまでたっても混乱しています。

文科省の通知でもいいんです。教育現場が政治教育をできるような与野党合意の仕組みなどを作ってほしい。

実は、僕ら「若者の投票率をあげよう」とする人たちって、すごく偏っています。だって「若者向けの政治をしてほしい」と主張すること自体、偏っていると思いませんか? でも、その偏りはなんとなく是とされている。これっておかしいですよね。

日本でいう偏りは、右か左かという点にスポットライトが当たりますが、世代間で対立を生むであろう予算配分や政策実施を求めることも十分「政治的偏り」です。

ならば、中途半端に「政治的中立」と概念だけで胸を張ることは、早くやめて欲しいと思います。
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たかまつ:やっぱり、とんふぃさんの言うことは理想だと思うな。現実的には、そんなに政策やマニフェストの話を学校でできる気がしません。

全国に広げる面だけで考えれば、やはり入り口まででいいと思います。とんふぃさんが言うのは、大事だけど、もっともっと先の話だと思います。

そういう意味で、私はまだテレビやネットの番組に期待しているところがあります。政治に興味を持った子たちが、そういった番組を見ればいい。もっと興味を持ったら自分で調べるようになる。使い分けの問題だと思います。

教育現場でそこまでやる必要があるのか、検討する必要があるかもしれません。

「デモ」をどう考えている?

──若者の政治参加において、SEALDsの奥田さんは「デモ」というやり方をしましたが、「デモ」についてお二人はどう考えていますか?

たかまつ:デモ自体は自分の考えを表明するための手段として有効ですが、SEALDsのデモは嫌いです。居場所を求めたり、いいことをしている気になったりしてデモに参加するのは危険だと思います。

私が奥田さんに怒っているのは、彼に影響力があって、グループを統率する立場だからです。どんな反応を呼び起こすのか、自分の発言にもっと気をつけて欲しいと思います。

とんふぃ:僕はデモを容認できない社会は嫌だなと思います。今はデモすらも否定されている未熟な民主主義社会だと思います。

デモで何かを変えられる社会がほしいのではなく、デモという民主主義の形すら容認できない不寛容な社会は嫌だなと。

橋下徹さんがおっしゃっていたのですが、SEALDsの行動は「怒りの可視化」ということで意味があったと思います。

僕自身は取らないやり方ではありますが、奥田さんが出てきて、叩かれながらも前に出ていった姿勢は本当に尊敬しています。あれによって政治に興味をもった人もいるはずです。もちろん、嫌いになった人もいるはずですが、それは僕やたかまつさんの活動についてもそうです。

こういう活動をすると「本当におまえらうざい」と言われることも、よくあります。でも、それは僕らがいわゆる「意識高い系」なんで仕方ないです。奥田さんたちの行動で響く層もあれば、僕らやたかまつさんの行動で響く層もある。結局は、社会の中での役割分担だと思います。

SEALDsを嫌いな人も多いですけど、あれだけ反応が生まれている。僕らの活動は全然社会からの反応がない。やはり、大人たちが脅威だと感じているからだと思います。その意味では、やっぱりすごいと思います。

ただ、デモは衆愚に陥りやすいのは事実です。集合知を生み出す際に必要な「自己の判断の保留」と「敬意をもった傾聴」ができないから。だからこそ僕たちが頑張らなければいけないとは思います。

二人が政治家になる可能性は?

──今の日本で政治の話をするのは、リスクが大きいと感じますか。

とんふぃ:今の日本では若者は選挙に行かない人が多数派で、選挙に行く人たちは少数派になってしまっているので、そこを変えないといけないと思います。

一方、欧米などでは、政治や経済の話ができないとカッコ悪いという空気があります。そういった空気を作れるといいなと思います。政治の話ができない奴は頭悪いから友達になりたくないという雰囲気があるんですよね、向こうでは。

今の日本で、政治的な発言をすることは割りにあわないですよね。政治のニュースに対するNPのコメント欄を見ていても、独特の空気を感じます。

でも、NPのコメント欄はリテラシー層の意見の反映だとも思っているので、いつも勉強させていただいています。

たかまつ:やっぱり、政治的な話をするのはデメリットの方が大きいと思います。

メリットといえば「自分は政治について知識がある」とアピールできるくらいでしょうか。NPを見ていると、知識をひけらかしている人が多いのかなとは思います。でも、「知識量があるからすごい」となるのはやっぱりおかしいと思います。

私は、色んなイベントも主催しているのですが、参加者の属性や関心に応じて、登壇する人を選び、身近に感じられるようにしています。知識がなくても参加してもいいように。

そういえば、この前は18歳選挙権をテーマに菅直人さんをダメ元で呼んだら本当に来てくれました。

とんふぃ:菅さんを呼んだんですか? その行動力がすごいですね。

たかまつ:はい。菅さんを呼んで「若者の投票率が低いのは、民主党政権時に政治に不信感を持った人が多いからではないのですか?」と聞いてみました。

それに対して納得する答えは1つも返ってこなかったのですが、菅さんが「政治が悪いと思うならば、自分たちで納得できる人を擁立するか、もしくは自分たちが立候補すればいい」と印象的なことを言っていました。

確かにそれは一理あって、私も「政治はサービス業ではないのに、サービスを受けていると思っている人が多すぎる。もっと参加する意識を持たないとダメだし、それが民主主義だ」と思いました。

でも、政治家を見ていると、本当に社会を動かせるのか疑問に思ってしまいます。政治家で社会を動かしている人はごく一部です。だから私は政治家になろうとは思いません。

安倍首相の一言より、ときにビートたけしさんの一言の方が世論を動かすこともあると思います。だから私は芸人として、あるいは民間で働きかけるアプローチを続けていきたいと思います。
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とんふぃ:僕も政治家になろうとは今の段階では思っていません。何をどう動かせば変えられるのかという力学をしっかりと把握した上で、「政治家になったほうがいい」と判断できるまでは、一つの選択肢として考えているくらいです。

おそらく、政治を本当に変えられるのは、橋下徹さんくらい、その力学を把握し、また時代のアイコンになれるくらいの人。そういう人がどんどん出てこないといけないと思っています。

いずれにせよ、僕自身は政治にずっと関わりたいと思っています。今後は政治家の秘書になるのか、シンクタンクのようなところから情報発信をするのかはまだわかりませんが、活動は続けていきたいと思っています。

さきほど、民主主義の話がでましたが、よく「1票で政治は変わらない」という声を聞きますよね。でも、民主主義は1票で変わらないからこその民主主義なんです。

本来は、一人の意見によって左右される政体を防ぐための合意形成プロセスを意味するはずです。そもそも1票で何かを変えるのではなく、構成員による意見の効率的な集約と反映のために生まれた仕組みのはずです。

一方で、いまは多数派が勝ったら、それで終わりのような空気になってしまう。そうではなく、どう少数意見を多数派の中に汲み取っていくかを考えなくてはいけません。

ビスマルクが言うように、政治とは妥協の産物であると同時に、可能性の芸術なんですから。だからこそ、選挙が近づいているからと言って、投票率だけの話ではなく、民主主義に対する理解を深めていくことは絶対に大事だと思います。

「若者バブル」で終わらないために

──今日、お話してみてどうでしたか?

とんふぃ:意見が違う人と話せてよかったです。やっぱり主権者教育をやっても教える側のスタンスや考えもみんな違います。

でも、それがいいと思います。それぞれのアクションで響く層が違うので、お互いを尊重しならがら、それぞれできることをやっていけばいいと思います。

たかまつ:私も本当にそう思います。もっと色々なプレイヤーが政治教育に入ってきて欲しいと思います。

たとえばエイベックスやAKB48だって入っていいわけです。恐らく私の母校のフェリス女学院には私の活動は響きませんが、とんふぃさんの活動だと響くと思ったので、オファーが来た時はとんふぃさんに依頼をすると思います。

私自身も、もっと違った立場の人と話していかないといけないと思いました。

──では、たかまつさん。SEALDsについて「大っ嫌い」とコメントしましたが、奥田さんと対談の依頼が来たらどうですか?

たかまつ:えー……ギャラが高ければ検討します(笑)。普通に取材させて頂きたいのもありますね。まだお会いしたことが無いので……。お会いしたら、徹底的に論破しますので、ぜひお願いします。

とんふぃ:SELADsは解散し、奥田くんはシンクタンクのRe:DEMOSの方に重心を移すのかな。僕らivoteもそうですが、社会問題を解決しようとする組織は、自分たちの存在によって社会が前進した点、同時に社会が後退した点を客観的に、批判的に見ないといけません。

僕らのせいで新しい社会問題が生まれてしまっては元も子もないので。その点は一番奥田くんがよく理解していると思うので、お互いに内省し、次の一歩を踏み出していきたいですね。

──最後に、今回の選挙についてコメントをお願いします。

とんふぃ:何度かNewsPicksでもコメントはしていますが、今回の参院選では、おそらく10代の投票率は45〜55%ほどいったとしても、20代の投票率はそこまであがりません。また実際は、30%前後を推移するのではないでしょうか。

ただ、18歳選挙権が実現したことは若者への影響や変化以上に、政治家・政党の変化が大きかった。つまり、各政党や政治家が「給付型奨学金の創設」や「被選挙権年齢の引下げ」を主要政策に掲げはじめました。

ただし、選挙が終わって蓋を開けてみたら若者の投票率は低く、若者にアプローチしても票にならないことを政治家が理解して、一回限りの「若者バブル」が弾けるおそれもあります。

そうならないために、もちろん今回の選挙で若い人には投票に行ってほしいんですが、たとえ投票率が低くても、10~20代には1000万票の埋蔵票があること、30代も含めると高齢者の票田にも匹敵するほどの大きさがあることを政治家に理解してもらい、全世代に政治を開放してもらうようにアプローチしていきたいです。

たかまつ:10日がいよいよ投票日です。ギリギリまで粘り、若者の投票率を少しでもあげるため頑張ります。200万人を私は選挙に行かせたい。だって、このままでは若者が損をするから!

そして今、クラウドファンディングをして公立であっても、地方であっても全国をまわって主権者教育を行おうとしております。ぜひ、ご支援のほどお願いします。