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【たかまつなな×徐東輝】同世代対談「18歳の選挙」がはじまる!

2016/7/8

7月10日、第24回参議院議員通常選挙が行われます。いわゆる「18歳選挙権」が導入されてから、初めての国政選挙としても注目されています。

NewsPicksコミュニティチームでは、18歳選挙権について【椎木里佳×奥田愛基】同世代対談「18歳の選挙」がはじまる!を掲載し、コメント欄に意見を募集する企画を行いました。

ここで、一際熱いコメントを寄せたのが、U25のプロピッカーでもある徐東輝(そぉ とんふぃ)氏たかまつなな氏

今回、NewsPicksコミュニティチームでは、たかまつ氏の「とんふぃくんと私にやらせてください!」というコメントを受けて、2人の対談を実施しました。

私にやらせてください

──お二人のコメントには大きな反響がありました。どんな思いからコメントをしたのか、改めて聞かせください。

とんふぃ:僕は、奥田さん、椎木さんは彼ら彼女なりに発信をしていると思っていて、そのこと自体にはとても敬意をもっています。

ただ、若者と政治というテーマで、18歳選挙権をテーマにするなら、YouthCreateの原田謙介さんのように5年、10年取り組んでいる人もいますし、この切り口なら僕にも入らせて欲しいと思いコメントしました。

そして、奥田さんには「SEALDsの功罪」のようなものを、椎木さんには起業家の視点から、若者が社会を変えていく上での、政治のポジショニングを聞いてみたいと思いました。

たかまつ:私は、とにかく腹立たしかったです。プロピッカーになってから、編集部の方と「18歳選挙権というテーマで企画を一緒にやれたらいいですね」と話していたのに、それが実現する前にこの記事を見て「何だこれは!」と思いました。

読んでみたら内容も薄くて、それもまた腹立たしくなりました。私は普段はお嬢様なのでおしとやかな方なんですが、この時は思いの丈を一気にコメントしました。

奥田さんが若者代表だと思われるのはすごく嫌だと思ったんです。なので、「私にやらせてください」とコメントしました。

──とんふぃさん、たかまつさんは普段から政治に関わってきたからこそのコメントだったと。改めて、お二人の普段の活動について教えてもらえますか。

とんふぃ:僕はivote関西という団体で代表をしています。ivoteは、投票率と投票の質を向上させるために各地域で独自に活動しているのですが、関西では基本的には4つの事業をやっています。

1つ目は主権者教育です。2年間で1万人くらいの中高生を対象に行っています。

2つ目はWebメデイアの運営。これも、若い子たちがスマホなどでスクロールして読みやすいよう、記事のレイアウトを工夫して作っています。

3つ目はバーを1つ京都で運営しています、食べ物から社会問題を知るというコンセプトで運営しています。

そして4つ目は、政治家との接点を持てるようなイベントを運営しています。

この4つが主な事業ですが、いまは5つ目の事業として、若い人たちが中心になりシンクタンクのようなものを作ろうとしています。

僕らがやろうとしているのは、学生が学生に対して、自分の頭で考えて発信をするようなシンクタンクです。

僕たちは、やみくもに「投票に行こう」とは言いません。投票の重要さ、選挙権の偉大さなどを若い人たちに理解してもらった上で、きっちりと投票の質を担保した上で投票率を上げたいという考え方です。

土壌がなければつくればいい

──とんふぃさんは、どのような問題意識から活動を始めたんですか?

とんふぃ:問題意識は3つありました。

まず1つ目は僕のアイデンティティとして、日本にも韓国にも選挙権がなかったことがあります。

2009年に韓国公職選挙法が改正されたことで、ようやく在外国民でも投票ができるようになりましたが、僕も父も母も、どこの国にも政治的な帰属意識を持つことが出来ていなかったんです。

どの国からも「政治的市民」として捉えられないことは、かなり辛いものがありました。

でも、同世代を見渡すと、みんな選挙に行っていない現実があった。国や自分の住む地域の未来を選挙で決めることができるのに、それをサラッと放棄していることがあまりにもショックでした。

2つ目は震災直後に投票率が下がったことです。あれだけの災害が起きて、これからの日本の姿を決めようという選挙だったのに、投票に行こうとしない姿勢に疑問を持ちました。

3つ目は海外を旅したときに、他の国の若者が嬉々として国や政治のことを語る姿を目の当たりにしたことです。

そのとき、「日本の若者は政治を語れないのではなく、語る土壌がないだけだ」と思い、「土壌がなければつくればいい」と感じて、今の活動につながりました。
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バカほど選挙に行くべきだ

──続いて、たかまつさんが活動を始めたきっかけは?

たかまつ:世の中には多くの「政治をわかりやすく解説」とうたっているテレビ番組や本がありますが、それらが難しすぎると思ったことがきっかけです。今あるコンテンツでは届かないんじゃないかと。

そこで、笑下村塾という会社を立ち上げて、全国の高校生や大学生などに、政治教育を広める事業をはじめました。お笑いやゲームを使うことで、政治の難しい問題を感覚的に伝える取り組みです。

今も、お笑いの舞台に立って政治をネタにしていますが、政治に興味がないお客さんも多いので、少しでも難しい単語を使うとすぐ離れてしまいます。どうすれば、そういう人にも届くコンテンツが作れるのか、ずっと考えていました。

若い世代の興味を引くためには苦労しています。以前、18歳選挙がはじまるということで、高校生を対象に「つまらなかったら全額返金」とうたって、読者モデルも呼んだLIVEをやりました。

でも、お客さんは、政治好きのおじさまばかりでした。高校生はあまり来ませんでした。

そこで、政治と若者を繋ぐためには「学生には強制的に聞いてもらう機会を作るしかない」と思って、全国の学校に出張して授業をやることにしました。ほとんどの先生は政治教育の教材を開発する時間はありませんし、面白いコンテンツもないという危機意識があり、だったら私が代わりにやればいいと思いました。

私の活動は、もともと政治に関心がある学生にはあまり響かないかもしれません。そういった人たちは私の活動を見なくても選挙に行くんです。でも、そこよりちょっと下の人、きっかけがあれば選挙に行くかもしれない人に主権者教育をすることが大事です。

あえていうなら、私は「バカほど選挙に行くべきだ」と思います。

そうしないと、賢い人だけが得する社会になってしまう。「選挙に行かないと損をする」ことを、みんなが知るべきだと思います。

だから、とんふぃさんがやっているような「質を上げる」ことも素晴らしいと思いますが、私は「まず選挙にいく」ことを若い人たちに促すべきだと考えてアクションしています。全員が参加してこそ、「民主主義」だと思います。

ivoteの活動を見ていると、やっぱり「頭のいい人向けにやっているんだな」と感じます。

たとえば、私は「民主主義」という概念を全く難しい言葉を使うことなく説明するようなプログラムも行っていますが、これを求めている層も大勢います。やはりレベルごとにステップを踏んでいくことが大事だと思います。

知識と議論する力のバランス

──お二人の考え方には違いもありますが、その点についてとんふぃさんはいかがですか。

とんふぃ:中高生の主権者教育には色々な段階があると思いますが、僕は知識レベルで3つほど区切ることができると思っています。だから、僕らも学校によってアプローチを変えています。

まず第一段階としてあるのは、たかまつさんがやっているような入り口のレベル。伝え方を面白く、わかりやすく工夫して、「まず政治について知ってもらう」という段階です。

第二段階は、僕らメンター側がアジェンダ・セッティングをした後で、「みんなでこの問題を考えてみましょう」と議論するものです。

そして第三段階は、アジェンダ・セッティングから意思決定、意思表示まで全て生徒自身が自発的に行う形式です。これが主権者教育において一番大事なのですが、一部の「エリート校」だけしか出ないのが現状です。

こうやって整理してみると、それぞれのアプローチには向き不向きがあります。僕らがやっているのは主に2つめの段階です。たかまつさんのような第一段階に効果的なやり方は、たかまつさんにしか出来ないので、リスペクトしています。

さきほどエリート校と言いましたけど、ちゃんと議論ができるかどうかは、必ずしも偏差値の高い低いだけでは見ることができません。それは現場で実感することです。

たかまつ:その点は私も同意します。議論ができるかどうかは、偏差値の高さでも、政治の知識量でもなく、コミュニケーション力があるかどうか、また議論に慣れているかによると思います。

進学校でも「議論しましょう」となった瞬間に、ピタッと止まってしまう場合もあります。ですので、知識と議論する力のバランスはとても大事だと日々活動を通して感じます。

とんふぃ:そうですね。そのためには、駐輪場やゴミの出し方、生徒会予算の配分など、身近なところから意思決定を踏むプロセスを経験してもらって、自分たちで問題解決できるようになることが大事だと感じます。

若者は政治に関心がない?

──「若者は政治に関心がない」と世間一般で良く言われますが、その点についてはどう思いますか?

とんふぃ:この問題を一般化して話すのは難しいと思います。たくさんの現場を見てきましたが、それはあくまでミクロな世界でしかありません。SEALDsもまたミクロな存在なので、それをもって「若者はこう考えている」と語ることはできません。

ただ、実感としては学生で政治にしっかりと興味があるのは3割ほどだと考えています。投票率が示すように。

ただ、残りの7割が一切興味を持っていないと考えることは間違いです。タイムリーな話題については関心を持つことが多いからです。最近では舛添さんの問題については注目されていましたし、2009年に民主党が政権をとった時には20代の投票率が上昇しました。

なので、普段はそこまで興味がなくても、「時事性や当事者性が出てくると一気に関心があがる」、これが若者の実態だと思います。つまり、興味の度合いにグラデーションがある。

たかまつ:その意味でも、政治に関心を持ちにくい環境が問題だと思っています。「政治は難しいもの」と多くの人が考えてしまっている。

これは、若い世代にアプローチをする側にも問題があります。たとえば、文科省は「政治を教えるには中立的でないといけない」と言いますが、それによって逆に伝えにくくなってしまっています。
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とんふぃ:ただ、僕は学生に「政治や社会について考えろ」と押し付けるのは無理だと思います。

投票率が20代後半になると上がってくるのは、就職したり結婚したりすることで、所得税や社会保障などにおいて、関心をもたざるを得なくなるからだと思います。

日本よりも若者の投票率が高い国はありますが、それは若年層の失業率が高かったり、就職ができなかったりするなど、社会問題の深刻さが全く違うところにあります。

では、日本の若者にどう関心をもってもらうか。もちろん僕らのように教育をしたり、お金をあげたりするなと、何らかのインセンティブを設計する方法もありますが、無理にでも関心をもってもらうという方法には違和感があります。

いきなりすべての若者が一般意志をもって、社会益のための投票ができるはずもなく、その意味では身近なテーマから「自分たちの理想とする社会とは何か」を自分の頭で考えてから投票に行こうということを伝えることが、ずっと重要だと思います。

たかまつ:私は、それではダメだと思います。もっと多くの人に届けないといけない。とんふぃさんのやり方だと、ミクロにしか響きません。そのために、私は会社を作ったんです。

私はこの1ヶ月で約2000人の若者に会いましたが、どんなにがんばってもそのくらいが限界だと思っています。

でも、芸人さん100人と一緒にやったらどうでしょう。仮に1人で月に1000人に会うとしても、10万人になります。それが1年間になると120万人。18歳、19歳で選挙権を持つことになったのは約240万人と言われていますが、その半分になるわけです。こう考えるとインパクトがあると思いませんか?

なので、私はとんふぃさんがいる前で言うのもどうかと思いますが、NPOや社団法人の活動では限界があると感じます。ちゃんとビジネスにして政治教育が稼げるような仕組みにしないといけないと思います。

株式会社とNPOの可能性

とんふぃ:政治について深く考えていない人たちが選挙に行くと、僕は衆愚が起こると思っています。やっぱり質を上げていかないといけない。

ただ、いま30%の関心がある人がいると言いましたが、これを50%、75%にすることは絶対に可能だと思います。投票率100%の世界が良い世界だとは思いませんが、質を担保しながら、少しずつ投票率を上げていく、こういった活動が大事だと思います。

デンマークやオランダなど他国の先例をみても、やはり10〜20年単位で少しずつ投票率を上げてきた国は、急激な政治体制の変化を起こしていません。

たかまつ:質はもちろん挙げなくては行けません。でも、そのためには興味をもってもらうことも必要です。なので、私はやっぱり、選挙に足を運ぶことが大事だと思います。若者が政治に関心を持っていることを、投票率を上げて世の中に示さないといけない。

そうしないと、いつまでたっても若者向けの政策は生まれないし、世代間格差も広がったままだと思います。とんふぃさんの言っていることは理想論だと思います。

とんふぃ:僕は逆に、芸人さんを使って240万人に主権者教育と言う方が理想論だと思います。選挙に行ったその先に、どういう社会を描くのかというポイントが見えてこない。選挙に行くことに目的意識を置いてしまっているように聞こえる。

2020年には公共という科目ができて、授業として教えられるようになる。そうすると、民間企業が公教育に入る余地がなくなってしまうかもしれません。

ここ数年は、18歳選挙権をはじめとして、主権者教育事業がバブルのような状態ともいえる。そもそも、教育は儲けるものではないと思うので、マスはとれないと思っています。

NPO「僕らの一歩が日本を変える。」は自治体と契約して教育を行う仕組みです。僕はこういったNPOと自治体とのパッケージが理想だと思っています。

株式会社が学校を作るのはありだと思いますが、公教育に株式会社が入り政治教育をしているイメージがわかないんです。教育現場に企業が入ることは実際にもあって理解できるんですが、会社が政治教育を行うというところに現場の違和感とかが出てきそうという意味で。

これは批判的なのではなく、むしろどうやってそこの岩盤を突破していくのだろうかという期待の意味が大きいです。

たかまつ:とんふぃさん始めNPOの活動は、素晴らしいと思いますが限界があります。奇跡でも起きないととんふぃくんみたいな人がたくさん生まれて活動が広がることは難しい。ビジネスとして利益が生まれ、競合他社も参入する方が、政治教育が広がる可能性があると思います。

サイエンス教育は民間企業で成功事例はあるので、政治でもできると思っています。

(後編は、明日掲載予定です)