戦略か実行か。経営は「具体的なこと」ほど難しい

2016/3/22
80年代末に潮目が変わった
──前回、「実行力」というキーワードが出ましたが、実行力にも人によって相当な差がありますよね。
波頭 もう「実行力」はメチャメチャ大事だよね。
南場 むしろ「賢さ」より「実行力」のほうが重要だと思います。
波頭 コンサルタントという仕事を振り返ってみて、つくづく思うことがあるんです。
1980年代は、まだまだコンサルティングという仕事そのものが草創期だったでしょう。今じゃ「戦略の神さま」なんて呼ばれているマイケル・ポーターが戦略のバイブルとも言われる『競争の戦略』(ダイヤモンド社)を書いたのが1980年。僕がマッキンゼーに入ったのが1983年。南場さんが1986年。
その頃はポーターの名前を知っている人もまだ少なかった。だから「ファイブ・フォース分析」だとか、「セグメンテーション」だとか、今なら誰でも知っているような経営分析の手法をただ知っているというだけで結果が出せた。
これはたとえるならば、黒帯の有段者が、柔道をやったことがない人に一本背負いや巴投げをかけるようなものですよ。
柔道をやったことのある人ならピンとくると思うんだけど、柔道って、技を知っているというだけで、自分より図体のでかい大男を嘘みたいに投げ飛ばせる。不遜な言い方だけど、それくらい簡単だった。
だって、それまで日本の企業は戦略なんかちゃんと立てたこともないんだから。「こんな製品、つくったら売れるんじゃないの」程度の思いつきでやってた。
その頃、洗濯機とか冷蔵庫など家電の開発担当者は、どうやって新製品をつくっていたと思う? 家で奥さんに話を聞いて「ほぉ、そうか」と言ってそれをそのまま商品にしていたんだから。これは開発の当事者から聞いた実話なんだけど、今だったらそんなこと、ありえないよね。
だから、マーケットをセグメントして、ターゲットにきちんとインタビューして、求められる要素を抽出して、というプロセスを踏んだら、見違えるほど当たるようになった。
ところが1980年代の終盤ぐらいから、みんながそのテクニックを知るようになり、1990年代になると誰でもそこそこの戦略をつくれるようになった。こうなると単純な情報の非対称性だけではなかなかうまくいかなくなる。
そこで差が出るのが実行力なんだね。実行力が100点なのか、50点なのかで、戦略の有効性があっという間に逆転する。