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イノベーターズ・トーク Part 5

【小林×西田(5)】自民党のメディア戦略が抱える課題

2015/1/22
小林氏は、自民党が若年層にアプローチするためには「スマホ対応」が不可欠だと語り、対応を急いでいると語る。西田氏は、政党側の情報発信が変わりつつある中で、受け手も情報を受け取る感度を高めなければいけないと指摘。最終回は、今後の政治をめぐるコミュニケーションの在り方について議論する。

スマホ対応とコンテンツが課題

西田:いよいよ、対談も最終回になりました。現在、小林議員が、自民党のメディア戦略、メディアへの対応に関して、課題として感じていらっしゃるのはどんなところですか。

小林:メディア戦略としては、実はお恥ずかしい話、若年層へ向けた戦略と言いながら「スマホ対応」が遅れているんです。

実は青年局のホームページもつい最近までスマートフォン対応ができていなかったことがわかって、対応したところです。

インターネット放送の「カフェスタ」は30分番組ですが、スマホで30分間も動画を見続けることはまずしないですから、短いバージョンの動画制作を検討しています。従来の動画については放送内容をテキスト化し、バイラルメディアで拡散しやすいように整えていく予定です。

西田:若年層に訴求するためには、スマホシフトは欠かせませんよね。

小林:はい。あと、メディアへの対応という意味では、先ほど(第3回)おっしゃった「整理・分析・啓蒙」を促進するためのコンテンツ提供をもっと充実させなければという課題感があります。

これからやる政策についての情報もそうですが、「これまでやってきた政策の実績」が非常に重要だと感じています。若年層にアンケートを取ったときに強く表出するのが「私が1票入れてもどうせ変わらないでしょ」という感覚ですが、これを変えたいと思っています。

西田:いわゆる、「政治的有効性感覚」のことですね。日本は、他国と比べて低いとされています。

小林:そう感じてしまう理由はいろいろあるかもしれませんが、一つには「政治が民意で変わってきた事実を知らない」という点があるんじゃないかなと。

そこで、「歴史が動いた瞬間」を伝えるコンテンツをこれから出していこうと思っているんです。民意の反映として、法律や制度がこう変わり、実際の生活がこんなふうに変わったという因果関係をきちんと見せることで「あ、本当に政治って変わるんだ」という理解につなげていく。
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過去の実績と評価をコンテンツ化

西田:たとえばどんなケースを想定していますか。

小林:まだ検討段階なので明確には言えませんが、たとえばIT基本法は森内閣のときに成立しているんですよね。IT革命を「イット革命」と発言してしまった点だけが注目されたイメージもあるので。ギャップがあって面白いかなと。その後のIT政策の流れなども含めて、NewsPicksで感化されたインフォグラフィックで描いてみたいなと企んでいます。

西田:確かに、「そうだったのか」という印象を受けるかもしれませんね。

小林:より生活に密着した福祉関係の法律についても発信していきたいですし、PKO法案が成立するまでの過程や現在の評価も出していきたいです。

西田:PKO法案は、非難ごうごうで船出した法案ですが、今や世界が評価する日本の対外政策の一つになっていますね。

小林:この「過去の実績と評価を見せる」というアイデアは、100人の学生さんたちとの意見交換会の場で提案したときに「いいですね」という反応を得られて、やる価値があると確信できました。

西田:池上彰氏がいつもおっしゃっているのは、「私たちが政治や社会を理解できないのは、現代の歴史を知らないからだ」ということです。だから池上さんは現代史の解説本をたくさん書かれています。たとえば小林議員の今のお話は、具体化すると自民党としても自前の“池上彰”を用意していくということになるのでしょうか。

小林:そうですね。「整理・分析・啓蒙」を自民党としてきちんとやっていきたいですね。

西田:その中で、マスメディアへの対応はどうなっていくのでしょうか。

小林:難しいですね。まだ明確な回答を持っていません。どちらかというと、マスメディアがより伝えやすいような情報提供をするということになるんでしょうか。

われわれのオウンドメディアには、当然、自民党の意図が入ってしまいますので、従来のメディアのようにはならない。ある意味で、われわれからメディアに歩み寄るかたちではないでしょうか。昔は飲んで語って伝えていたことを、よりわかりやすいかたちにして提供するという方向です。

政府と党の関係性

西田:政党間の競争も進んでいくことが予想されます。そして、ジャーナリズム側はジャーナリズムとして洗練されたコンテンツをつくっていくミッションをより切実に背負うことになることを意味しそうです。

政党側が有権者にダイレクトに発信する情報と、それを受けてメディアがさらに加工した情報と、どっちがわかりやすいかを、視聴者や読者がシビアに判断していく、そういう時代に突入していくということですね。

ところで、政府の広報予算は金額も増えて充実してきていますが、それに対応するかたちで自民党の戦略も連動しているということはありますか。たとえば、政府広報と、人的交流や連動強化を促進するとか。

小林:基本的には独立して動いていますが、有事のときには柔軟に連動しますね。たとえば、安保法案の時には総理が積極的にネットに出演して広報活動をしていくとか。リアルタイムでフォローできるというネットの強みを、状況に応じて活用しています。計画的にというより、お互いに察しながらという感覚じゃないですかね。

西田:「あ・うんの呼吸」で進んでいる感じでしょうか。

小林:そうですね。党がプレゼンスを高めるための基本的姿勢として政府の「足りないところを指摘し補い、場合によっては修正する」というものがあると思いますから、必要なときにフォローし合う。政府と与党の連携としては、健全な関係なのかなと思います。

西田:まさにご指摘の通りだと思います。今の質問はちょっとひっかけで伺ってみたわけですが、政府と党の広報の形式的な連動といったグレーゾーンには足を踏み入れていらっしゃらないというわけですね。
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もう一つ、ネット戦略を推進するにあたって、各議員へのオーダーをする際の反応はいかがですか。皆さん、協力的なのでしょうか。それとも聞く耳を持たない人が結構多くて、リーダーとして徒労感が募るといったこともあるのでしょうか。

小林:リテラシーの個人差はありますが、比較的、一体感はあるほうだと思いますよ。冷静に見ると、45歳以下の議員の数が一番多いのは自民党です。そういう意味で、ネット戦略に対しても感度が高い議員が増えているのだと思います。

西田:最近は、服装や話し方に関しても専門家のアドバイスを受けて、イメージ戦略をする政治家も少しずつ増えているようですね。

小林:日本の政治家もイメージコンサルタントやスピーチライターの力を借りたほうがいいと思います。そのほうが幅広い年齢層の方に政策や国政に対する思いを伝えられる可能性があると思います。

西田:確かに、効率的に伝わるかもしれませんね。

小林:要は、いかにコミュニケーションの質を高めるかなのだと思います。政治家のコミュニケーションは、“量”ではなく“質”を高める時代に来たのだと強く感じています。政策のコンセプトも同じだと思いますが。

西田:なるほど。今回のお話、すべてに通じるキーワードですね。政治の情報発信が変わりつつある今、私たち受け手も、また発信する政治の側も、そしてメディアもそれぞれ感度を高めないといけないのだと改めて思いました。

NewsPicksは経済を中心とするメディアですが、こうして小林議員と政治の内幕をお話しし、日常的には政治にあまり関心がない人たちにも、政治の一側面をお伝えする機会になった気がします。僕自身も大変勉強になりました。ありがとうございました。

小林:こちらこそ、ありがとうございました。

(構成:宮本恵理子、撮影:竹井俊晴)

*目次
第1回:自民党のファンを増やすための戦略とは
第2回:政治にも求められるネットとリアルの融合
第3回:変われないメディア、変わろうとする政治
第4回:これからの政治のキーワードは「オープン化」
第5回:自民党のメディア戦略が抱える課題