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イノベーターズ・トーク Part 2

【小林×西田(2)】政治にも求められるネットとリアルの融合

2015/1/19
政党と有権者の間では、どのようなコミュニケーションのかたちが望ましいのか。西田氏が自民党の戦略を振り返りながら、「若者をネットで洗脳する」という批判的な声や、ネットとリアルの関係性について議論する。

ネット広報を内製化

西田:自民党のネット戦略の現在について、伺っていきたいと思います。まず運営規模について伺いたいのですが、ネットメディア局専任の党職員の方もいらっしゃるんですか?

小林:現状は3人ですね。ニコニコ動画でカメラを担当しているのも党職員です。放送中や企画のときも議員と職員が一体感を持って和気あいあいとやっています。プロジェクトによっては外注もしますが。

西田:党内に専門組織をつくって、一定のルールをつくってやっていらっしゃるというわけですね。

小林:そうですね。課題としては、もっと外部の知恵を使える予算を持ってきたいという希望はあります。

西田さんも『メディアと自民党』で書いていらっしゃったように、前回の参議院選挙のときにやったツイッター分析のようなことを平時でもできれば、「じゃあ、今週はこのコンテンツを流そう」という緻密な戦略が可能になるわけですから。

西田:しかし、コストがかかりますね。

小林:そうなんです。そこまでできていないのが現状です。

西田:そうはいっても、自民党がネット広報戦略を部門としてしっかり「内製化」している点は注目に値します。

他党ではネット広報だけが、マスメディアなどほかの広報から独立しているケースがほとんどです。自民党の場合はネットのポテンシャルを的確に把握して、早めに手を打ってきたというわけですね。これまでいろいろと取材をしてきた身ですが、改めて驚かされます。
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ネットと若者対策を連動

小林:当事者としてはまだ「遅れている」という意識を持っています。若い人へのアプローチという点では、共産党さんのほうが先進的なことをやっておられる印象があって、われわれとしても危機感を持っているんです。

西田:確かに共産党は2013年ごろから「日本共産党カクサン部」など、若者に訴求するような新しい取り組みを始めています。

小林:ネットとリアルの融合という面では、自民党は始まったばかりです。私のような、ネットと若者対策を連動させて取り組める人間を置く組織戦略については、牧原青年局長の考えも大きいんです。青年世代へのアプローチの取り組みとネットの戦略は融合させて同時に動かさないともったいないと。

西田:こういう議論をしていると、よくあるのが「政治が若者をネットで洗脳するのか」という批判です。でも、それはちょっと違うと思うのですが、小林議員はどのようにお考えになりますか。

そもそも政党は支持層の拡大をミッションとしています。積極的に広報活動をしていくことは正当なアクションでもあるわけです。これまで日本の政治や政党はあまりにクローズドな、つまり、自らの支持者向けのコミュニケーションしかしてこなかったのではないでしょうか。

非合法的手法を使うのはいうまでもなくアウトですが、きちんと内部で統制し、戦略を持ったうえで、適切な手法を開発するというのは、本来の姿なのかもしれません。言い換えれば、「自民党以外の政党が遅れ過ぎている」という見方もあり得るのかな、と。

小林:学生部長として、若年層に対しては、これからさらにネットを通じたコミュニケーションを強化していきます。

その動機は何かと問われれば、もちろん選挙の得票という一つのゴールはありますが、それ以前に一人の政治家として「健全な民主主義の環境をつくりたい」という思いが根本にあります。未来世代の政治に非常に危機感を持っているんです。

正確な一次情報に触れ、健全に判断できる機会の提供も、与党としての使命。このモチベーションのほうが高いかもしれません。

西田:「健全な民主主義の環境」というのは、一次情報のソースにいつでも触れることができて、各自が判断できる環境である、と。

小林:そう考えています。従来のメディアだけでは、伝えきれない部分もありますし、情報全体の中で一部を切り取るかたちでの発信になる。それがメディアの役割でもあったと思います。

ただ、従来のメディアが伝えきれない部分を補完するかたちでの情報提供は必要だと感じています。
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自民党が抱える資産と負債

西田:もう1つ自民党の場合は、政党、さらに与党としての長い歴史の蓄積がものをいう部分があると思います。「従来型メディアとの関係性」という歴史の蓄積です。

たとえば1980年代には中曽根首相が劇団四季の浅利慶太さんをスピーチライターに起用し、1990年代には無党派層の開拓のためにグループインタビューを導入している。

2000年代に入ると小泉首相を中心として新しい手法のメディア戦略が開拓されていって……と連続した試行錯誤の蓄積があると分析しています。その流れの最先端に、小林議員らが今進めている戦略が位置付けられる。こちらについては、いかがお考えですか。

小林:自民党に所属して政治活動をする中で感じるありがたさというのは、先人が積み重ねてきた資産です。過去の知見に加え、人、組織によるネットワークを存分に活用して仕事をすることができる。

一方で、なんとも言えない負の資産も同時に背負うジレンマもあります。

地域の方々と話をすると、「あの1000兆円の借金どうするんだ」と年配の方からお叱りを受けることがあります。「いやいや、それはこっちのセリフですよ」と思うこともあります。

その時代で政治家が選ばれ、その時代の政治情勢や背景もあります。自民党議員として活動するならそれは納得のうえで、先人の政治家がつくった政策を引き継ぎ、場合によっては負の資産も背負いながら改革していかなければいけません。それは当然のことだと思います。

西田:なるほど。まさに統治の知恵のポジティブな側面とネガティブな側面を内包しているということですよね。どこが長所でどこが短所なのか、冷静に見極めながら議論できれば、建設的な政治的緊張感が生まれる。

他方で、現在の政治に関する言説、特にネットでは、そういった冷静な議論抜きにした「安倍内閣は危ない」「戦争法案を許さない」といったステレオタイプな物言いが、かえって政治的緊張感の欠落に寄与しているのではないかと感じます。

小林:「安倍首相の政権運営は強引だ」といった批判があるのは事実です。「政治的緊張感が政府と与党自民党の間であるのか」という不安に対し、それは私たち政治家がしっかりと情報を届けられていないことが要因だと思っています。

実際に、党内でもけんか腰の議論はわんさとあり、軌道修正したものもあります。そういったプロセスをきちんと表に出していかないといけない。それは大きな課題として捉えています。

今回多くの批判をいただいている低所得高齢者向けの3万円の臨時給付金についてはピッカーの皆さんのご期待に応えられなかったので説得力に欠けるかもしれませんが。

ただ、論争の結果、今後の社会保障政策の見直しに向けた議論の場を勝ち取りましたから、そこから打ち出す策で挽回したいと思います。

今のメディアを通して、なぜ表に出にくいのか対談しながら考えたんですが、中選挙区時代は、派閥間の争いをクローズアップすることによって、政権与党と政権の緊張感をメディアが世の中に出してきたのだと思うんです。

政党と政権の間の緊張関係は存在するのですが、今の小選挙区になってからは、どちらかというと「政権交代のための選挙」になってしまっているので、野党と政権与党との争いがクローズアップされるようになった。

ここに「政治的緊張感が表に出ない」という問題の起点があるのではないでしょうか。

(構成:宮本恵理子、撮影:竹井俊晴)

*明日掲載の「変われないメディア、変わろうとする政治」に続きます。

*目次
第1回:自民党のファンを増やすための戦略とは
第2回:政治にも求められるネットとリアルの融合
第3回:変われないメディア、変わろうとする政治
第4回:これからの政治のキーワードは「オープン化」
第5回:自民党のメディア戦略が抱える課題