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東京から地方へ仕事がシフトしている

小泉進次郎「小さい自治体ほど、ビジネスチャンスがある」

2015/6/3
東京一極集中の是正が叫ばれる中、地方創生に向けたベンチャー企業の動きが加速化している。農業や漁業、観光など、その地域ならではの豊かな資産を活用して、ベンチャー企業がイノベーションを起こし、自治体と連携しながら、新たな価値を創出していく事例が生まれている。“地域”はベンチャー企業にとって、どのような機会となり得るのか。地方創生に向けた動きを加速化していくために、企業と自治体、政府はどのように連携していくべきか。内閣府大臣政務官の小泉進次郎氏、古民家などのシェアビジネスを手掛けるスペースマーケットの重松大輔社長、地域の体験交流を軸とした観光振興を進めるアソビューの山野智久社長をパネリストに迎え、創業特区を推進する福岡市・高島宗一郎市長の進行のもとに議論する。(本記事は、4月29日に開催されたG1ベンチャーのセミナー「ベンチャー×地域の“破壊的”イノベーションが日本を変える」の内容を再編集し、全5回で紹介します)
第1回:地方を変えるには、まず首長を替えよ
第2回:小泉進次郎が語る、地方創生の「2つの目的」

一度見てもらうことで、すべて変わる

小泉:日本は、経済も金融も政治もエンターテインメントも全部、東京に集まっている。その東京には30年以内に70%以上の可能性で大地震が発生すると言われていますね。加えて、感染症の流行のリスクなども考えると、東京一極集中は変えていかざるを得ない。

東京一極集中の現在、東京の人口は約1300万人。埼玉、神奈川、千葉も合わせた1都3県には合計で約3500万人が住んでいます。日本の人口、約1億2000万人のうちの3500万人、つまり人口の3〜4人に1人が、この1都3県に集中しているんですよ。

地方を活性化させたり、重松さんや山野さんのように、地域に眠っている資源を生かしていったりするためには、きっかけづくりがすごく大事。だから、お二人の事業のように、観光で好きになってもらう取り組みや、会議などで古民家を使ってもらう取り組みをして、まずは1回行ってもらうことが非常に重要です。

Sansanの寺田さんには私もお会いしましたが、「徳島県の山奥にある人口6000人の町、神山町になぜサテライトオフィスを進出させるのか」を聞いてみました。

家賃も4万円ぐらいで、オフィスを置くのにコストがかからないから、撤退をする理由がないとおっしゃるんですね。所得レベルでは1都3県が高くても、実は生活コストが安いから、可処分所得は地方のほうが豊かだという部分に注目したのです。

そんな話を聞いてから、経済同友会などの経済団体で代表団を組んで神山町に一度行ってもらったんですが、「サテライトオフィスって、意外にいけるね」といった反響をいただきました。

だから、「一度見てもらう」「地方と都会をつなぐ身近なチャンネルをつくっていく」ということが大事だと思います。

限界集落にもあるビジネスチャンス

小泉:5月18日に丸の内で「丸の内×限界集落〜東京の中心で地方創生を考える」というイベントを開催しました。丸の内は、東京のGDP(国内総生産)が集積する世界の中でもトップクラスのビジネス街。その丸の内と限界集落をつなぐ取り組みでした。

丸の内の博報堂、三菱地所、日清オイリオグループといった企業が、CSR活動(企業の社会貢献活動)として限界集落で活動しているNPOと組み、荒れ果てた耕作放棄地を開墾して、米や大豆といった作物を作ったりしています。三菱地所は「丸の内」という銘柄の日本酒と純米酒を造っていますよ。博報堂も焼酎を造る予定で、イベントを5月に開催する予定だと聞きました。

そうやって、都会の人が地方につながる手段をも増やしていきたい。そうすることで、地方に対して目を向けるチャンネルが増えると思うんですよね。

鈴木:小泉さんに賛成です。資源って、地方にいっぱいありますよね。

浜松市でも、東日本大震災の福島原発事故の直後、東京のIT会社が「落ち着くまで浜松に来たい」と言っていたので、廃業したホテルを紹介した事例がありました。最終的には「居心地がいい」ということで定着してくれたので、やっぱり体験が大事です。

小泉:さらに、僕は小さな人口規模の自治体ほどビジネスチャンスがあると思っているんです。たとえばユズで有名な高知県の馬路村ってありますよね。馬路村は人口が1000人にも満たない。

仮にベンチャーの皆さんが、新しい技術や製品を市場の中に落とし込んでいきたいと思ったときに、東京でリリースしても他の技術や製品の中に埋もれてしまう。

けれども、人口1000人の街で、新しいものを投入したときは、そのニュースが村全体や周辺自治体に波及するんではないかと思うんです。だから、僕は地方の小さいところほどチャンスがあると思っています。

左から、山野氏、重松氏、小泉氏

左から、山野氏、重松氏、小泉氏

「東京から地方への仕事の再分配が、今まさに起こっている」

高島:先ほど、アソビューの山野さんから「熱意のある地方創生ベンチャー連合」という話が出ましたけれども、「そんな連合があるんだったら、俺たちもちょっと入れてよ」と思った人もいらっしゃるかもしれません。この連合について、もう少し話していただけますか。

山野:一応、当面の目標として、年内に一度、地方創生ベンチャー連合のサミットというかたちで、地域の自治体の首長の皆さんとベンチャー企業が交流できるような場を設けて、意見交換をしたいと思っています。

たとえば、雇用や教育、観光、出生率などの課題に対してソリューションを持っているベンチャー企業を集めて、ある自治体の課題をどう解決できるかをディスカッションしていきたいと思っています。

高島:会員資格のようなものはあるんでしょうか。

山野:私とランサーズの秋好陽介代表が理事を務め、7人で幹事会をつくっておりまして、承認制というかたちをとっています。

もう1つ付け加えますと、地域のベンチャー企業ともたくさん交流していきたいと思っています。実際に地域に行くと、一緒に事業ができる可能性のある企業はたくさんあります。

ベンチャー企業として、やる気があって、スピード感の早い企業もたくさんあります。そういった各地域のベンチャー企業も巻き込んで、地方創生の本質的なサポートを、矢面に立ってやっていきたいと思っています。

高島:今、地方でビジネスをすることについての話がありましたが、やはり会社を東京から地方へ移すとなると抵抗感のある企業もまだあると思います。ですから、同じ地方といっても、東京にも近い浜松や、空港が近く、都会と地方のいいところを併せ持つ福岡に目が向けられている、という段階かもしれません。

ランサーズが提供しているようなサービスが広がり、完全にネットで仕事ができる仕組みができあがれば、また別のかたちのソリューションを提案できると思います。

それでは、せっかくクラウドソーシングサービスを提供するランサーズの秋好さんが会場にいらっしゃるので、ランサーズの取り組みと地方創生について思うところをお聞きします。

秋好:ランサーズには60万人ほどの会員がいるのですが、その8割が地方で働く会員です。一方、十数万社のクライアントの多くは東京の企業。つまり、東京から地域への仕事の再分配が、今まさに起こっている状況なんです。

地方創生では創業支援や企業誘致、工場移転、本社移転などが俎上(そじょう)に載せることが多いと思うのですが、物理的には何も動かずとも、インターネットさえあれば仕事が動いていくことが、実際に起きています。

高島:実際にユーザーはどのくらいいるんですか?

秋好:ユーザー数は1年前、20万人とか30万人ぐらいだったのですが、今年は一気に2倍ぐらいに増えています。取扱高も累計でおよそ500億円弱になってきていて、2018年には市場がだいたい1800億円規模になると言われています。

この数字は、地域にそれだけのおカネが流れるということとほぼ同じ意味を持ちます。ランサーズが提案する働き方は、これから間違いなく増えていくと思いますね。(続く)

(構成:ケイヒル・エミ)