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DeNA自動車担当トップに直撃インタビュー

自動車にイノベーションを起こすため、DeNAがモルモットになる

2015/5/29
突如発表となった、DeNAの自動車領域の参入。5月12日の自動運転を手がけるZMPとの合弁会社ロボットタクシーの設立に加え、5月28日にはカーナビ事業への参入も明らかになった。オートモーティブ事業を率いるのは中島宏執行役員。自らロボットタクシーの社長も務める。中島氏が語るディー・エヌ・エー(DeNA)の自動車事業の狙いとは?

DeNAが自動車業界で手がける3つの事業

──DeNAとZMPの合弁会社設立が発表されました。

まだまだ始まっただけです。でも確実な一歩になると信じています。ZMPは完全自動運転を志向しています。すでに愛知県の3車線の公道で時速60kmでの実証実験も成功させてきました。これから、技術面はZMPが担ってコンシューマー事業はDeNAに集中します。

現在は基本的な実証実験段階ですが、これからは複雑なシチュエーションを想定した実験も展開します。われわれとしては、2020年をひとつの目標として実現に向けた動きを取っていきたいと思っています。まずは愛知での実証実験を足がかりに、完全自動運転を国内で当たり前にしていきたいと考えています。

そして2つ目がカーナビ事業。「ナビロー」というスマホのナビアプリを子会社であるDeNAロケーションズが運営します。

──なぜカーナビなのでしょうか。すでにグーグルが手をつけています。

まずカーナビに関する技術や移動に関するビッグデータは、3年後に非常に価値を高める領域だろう、という考えが背景にあります。カーナビは一定のシェアを獲得してしまえば、リアルタイムで各道路の運行状況まで把握できます。

そうすれば渋滞の有無などを単一のサービスだけで測定できるようになります。そうしたデータを個人が特定されない範囲でビジネス使用、すなわちBtoBで販売することも可能です。

もちろん、グーグルがマップを軸に一定のシェアを持っているのも知っていますが、アジア圏、特に日本ではカーナビは特殊な進化をしてきました。グーグルのカーナビは欧米仕様でざっくりしている。

ですが、車載ナビでもそうであるように、日本のカーナビはしっかりつくりこまれて細部までナビゲートされるものが当たり前。日本型の細かくつくりこまれたカーナビをスマホに対応して進めていく。このスピードを上げていけば十分勝っていけると思っています。当初は無料公開ですが、広告モデルは確実に展開します。ゆくゆくは個別課金もありえるでしょうね。

3つ目が駐車場のオンデマンド予約サービスである「アキッパ」です。自動車のIoT化の進化という切り口で見た場合、駐車場の予約サービスは確実に伸びると思っていますので非常に期待しています。

それにアキッパは“実行力”が強い。駐車場のオーナーに一件一件電話をして、サービスを説明して、駐車場を掲載させてもらう、そこまで「泥臭く」やり遂げる力は、成長の源になります。DeNAとしては単なる出資者という範囲にとどまらず、現場のエンジニアやプランナーを出向させたりプロダクト戦略を一緒に考えたりと、サービスの運営面を中心に、強くコミットして協力しています。

相次いで3つの自動車にまつわるサービスに参入することを発表しましたが、すべての“軸”は「自動車産業にIT企業という立場から参加して、既存業界の方々と協力をしながらモータリゼーションを推進する」ということです。

──どうしてDeNAがこうした一手を打つことができたのでしょうか。

これほどIoTが叫ばれるようになっても、自動車とデジタルの融合はほとんど進んでいない。産業レベルでこれからの自動車業界を予測するのは困難ですが、トレンドや大きな構造はつかめる。それはたとえば、自動運転が当たり前になって、車のデジタルデバイス化が進むということ。

そうした大きなマクロトレンドの先に付加価値の高まる新しい領域は、確実にある。それをIT企業でも獲得できると確信できたからこそ、まだ主だった日本のIT企業が参入に舵を切る前であっても先んじて参入の意思決定ができたのだと思っています。

イノベーションは「誰かの権益を毀損する」ということ

──グーグルやアップルにも注目していますか。

1つ100万円以上もするものにもかかわらずこれほど一般消費者が買うハードウェアは他にはちょっと考えられないので、グーグルやアップルのような企業も当然のように目を付けてくる。そういう意味ではグーグルなどが参入したことそのものに関して特段驚くことはありません。

また注目という意味では、グーグルやアップルなどの動きは自動車メーカーの方々も含めて注視しているのは間違いないと思いますし、当然われわれも注目している。日本の大企業の人たちに直接話しを聞くと、危機感を抱いている人も多いのも事実です。でも大企業である自動車メーカーは、いくら危機感を抱いてもそうそう機動的に事業の舵を切ることはできない。

また、イノベーションは素晴らしいと単純に礼賛されがちですが、既得権益をすでにもっている企業からすれば、イノベーションの推進そのものが自分たちの価値を毀損(きそん)するということにもなり得るわけで、当然大きな変化に対しては慎重に判断せざるを得ない。しかし、これからの変化のスピードを考えると、判断の遅れが命取りになるということも十分に考えられます。

そういう状況だからこそ、われわれがモルモットとなって、このタイミングでトライアル的な取組みを加速しておくことに意味があるのだと思います。

そうして市場ができあがってきた頃に、いよいよ一緒にやりませんか、と持ちかけてもらえればいい。そこからわれわれにはない大きなアセットを投じてもらって、一気にブーストをかける。そうすれば、「モータリゼーション2.0」以降の世界でも日本は確固たる地位を築けるのではないかと勝手ながら思っています。

──「市場ができあがる」と言ってもそう簡単ではありません。

確かに、長い時間がかかるでしょう。何より、おカネがかかります。自動車産業だとシード段階ですら10億単位のカネがかかる。それがネット産業との違いですね。

でも、そのレベルならDeNAから何とか捻出できる。だけど、いずれ、100億円以上を投じないといけなくなる。そのタイミングではメーカーを含む大企業に協力してもらう必要も出てくるかもしれません。

──VC(ベンチャーキャピタル)の活用も視野に入れていますか。

自動運転をはじめとするモータリゼーション2.0の世界はまだ存在しない市場だし、成立までにどの程度の期間を要するのかはっきりしないものも多い。だから償還期限を意識せざるを得ないVCの場合、資金を投じにくいこともあるかもしれません。

ただ、技術的には見えてきている部分も多いし、成功した際の事業価値の大きさは計り知れないという側面もあり、逆にリスクを取って投資をしてくれるVCもいるかもしれない

守安(功・DeNA社長兼CEO)も僕も長期戦は覚悟しているので、長期目線でも投資を検討したいという会社であれば、オープンに話をしたい。資金調達に関しては柔軟に考えているので、すでに具体的な話もありますが、今後も含めて思いをひとつにできる会社からの出資は前向きに検討していきたい。

自動車メーカーの50〜60代のフロンティアスピリッツ

──DeNAが自動車メーカーと組むというと不思議な感じがします。

自動車メーカーの方々と話していて感じるのは、今、主に話をしている50〜60代の人たちは非常にベンチャースピリットにあふれている。

やはり「切り拓いてきた」世代だからタフだし、フロンティアスピリッツがある。また、30〜40代には非常に優秀な人が多い。総じてどの年代の人たちも、一緒に仕事ができたら楽しいだろうなと感じる人たちばかりです。

──仮に事業が立ち上がったとして、既存のDeNAの事業とのシナジーはあるのでしょうか。

この際、既存事業とのシナジーは一切考えないことにしています。無視です。シナジーを生み出そうとすると、余計なバイアスもかかるしスピード感も落ちる。

ただ、アセットとしてプランナーやUXデザイナー、サーバーサイドの技術者など人と技術のアセットは思いっきり生かしていこうと思っています。こういった人にひも付くアセットは、自動車産業に参入するに当たってDeNAの強力な武器になると思っています。

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