【番外編】ゴーン社長がQ&Aで答える「自動運転車の真実」

2015/5/28
特集の最後に番外編として、ルノー・日産アライアンスの会長兼CEO、カルロス・ゴーン氏が、自動運転車についての疑問に答えたコラムを掲載する(本稿は、カルロス・ゴーン氏が「リンクトイン」に掲載したコラムを翻訳したものです。原文はこちら

2020年までに自動運転技術を複数モデルに適用

最近、メディアでは自動運転技術と、ドライバーを必要としないクルマの今後の可能性が話題を集めています。
自動運転技術がカーライフの在り方を変えることに疑問の余地はありません。私は、自動運転技術が、モビリティに大きな変革をもたらすと考えています。
しかしながら、これまで耳にしてきた自動運転に関する内容は、多くのドライバーを少々困惑させています。長年にわたり、「前方確認! ハンドルはしっかり握って!」を推進してきた自動車業界が、今では、「運転中でもメール確認や読書ができる」、あるいは「人が運転する必要もなくなるかもしれない」と言っているのです。
良い機会ですので、自動運転が話題になるたびに出てくる質問にお答えしたいと思います。
Q 自動運転とは何か。
A 自動運転とは、ロボット工学、人工知能(AI)、センサー、そしてcar-to-car connectivity(自動車間無線通信)を組み合わせた技術です。自動運転に関連するさまざまな技術が、向こう数年間にクルマに搭載されていきます。
また、自動運転の考え方は、すでに、現行車でも一部採用されています。たとえば、アンチロック・ブレーキシステム、インテリジェントクルーズコントロール、ブラインドスポットワーニング、インテリジェントパーキングアシストなどの技術は、ほとんどドライバーの介入なしに、自動的に機能します。
Q 自動運転技術はいつから使えるようになるのか。
A 私たちはまず、これまでドライバーが行ってきた操作の一部を自動化する、つまり、ドライバーは依然クルマの動作を監視してはいるけれど、ハンドルから手を離すことのできるレベルへ、現行技術を引き上げることから取り組んでいます。そのほとんどが、近い将来商品化するもので、順次採用をしていきます。
ルノーと日産自動車は、2020年までに、自動運転技術のフル・パッケージを、複数のモデルに適用すると公約しています。社内で「トラフィック・ジャム・パイロット」と呼んでいる、渋滞時に安全に自動走行できる装備を2016年の後半から導入する予定で、いずれ、ニッサン、インフィニティ、そしてルノーの商品に幅広く展開していきます。
2018年には、障害物などを避け、複数車線を自動走行できる技術を導入します。そして2020年には、複雑な市街地を含め、ほぼすべての状況で、ドライバーの介入なしに自動走行できる技術を商品化します。
Q ドライバーのいらないクルマはいつできますか。
A いずれは、先ほどご紹介した技術をさらに高い水準で組み合わせることで、ドライバーのいらないクルマができるでしょう。人が誰も乗っていなくても、完全自動走行できるクルマです。クルマだけで子どもの学校の送り迎えや、親を病院に乗せていくこともできるようになります。
しかしながら、そうなるにはまだ時間がかかります。少なくとも、まだ10年はかかるでしょう。技術自体は、実際に市場に登場するはるか以前に完成していると思いますが、実用化にあたっては、安全を含め、数々の法整備が必要です。

自動運転のメリットとは何か

Q 自分が運転することに喜びを感じるのに、なぜわざわざクルマに自動運転させるのかわかりません。
A 私も運転するのが大好きです。自動運転技術の開発にあたっては、「運転の楽しさ」ではなく、「単調で退屈な運転」をなくすことに焦点を当てています。
事実、ほとんどのドライバーは、渋滞時の運転を嫌がります。また、まっすぐで単調な高速道路をひたすら走る長距離運転も楽しいとは言えません。
私たちの考える自動運転車では、ドライバーは好きなときに自動運転を選ぶことができます。選択式です。カリフォルニア州沿岸のパシフィック・コースト・ハイウェイの曲がりくねった道や、アルプスの峠を走る絶景ルートを走り抜ける楽しみを奪うものではありません。
走る楽しみを損なうことではなく、向上させることが、私たちの目標です。私たちは、ドライバーの皆さんに今まで以上の自由、選択肢、そして主導権を提供すると同時に、事故を回避する能力を補いたいと考えています。
Q 主な利点は、安全性の向上ですか。
A その通りです。
ルノー・日産アライアンスのスローガンのひとつは、“Zero Emission, Zero Fatalities”(排気ガスゼロ、交通事故による死亡・重傷者数実質ゼロ)です。ゼロ・エミッションについては、電気自動車(EV)で飛躍的な進歩を遂げました。一方、自動運転技術は、「交通事故による死亡・重傷者数実質ゼロ」の実現に向けて大きな一歩となります。
自動運転技術は将来、避けられる衝突事故を実質的になくすことのできる可能性を秘めています。この半世紀の間に、クルマの安全性は格段に向上しました。しかしながら、米国だけでも、年間600万件の衝突事故が発生しています。交通事故は当事者のみならず、保険加入者全員の保険料に影響し、米国だけで、年間約1600億ドルにのぼる損失を生み出しています。
自動運転の普及は、衝突事故の大幅な減少につながります。クルマは人よりも速く反応できます。これは、アンチロック・ブレーキシステムが、人よりはるかにうまく安全にクルマを止めることができるのと同様です。
Q ほかにどのようなメリットがありますか。
A まずは利便性です。自動運転技術によって、通勤時間の生産性は向上し、ストレスも減ります。欧州では、ドライバーは年間で平均300時間を車内で過ごしています。アメリカ人は750時間です。
つまり、1日あたり2時間以上は、クルマのなかにいる計算になります。ほとんどの人が、その時間を使ってメールを確認したり、電話をしたり、新聞を読んだり、放送を聞いたり、一休みしたいと思うでしょう。
もうひとつのメリットは高齢者にとってのモビリティの向上です。年をとっても、安心してクルマに乗ることができるようになります。さらにドライバーのいらないクルマが登場した暁には、自分では運転できなくても、クルマで移動できるようになります。

今ほど心躍る時期はない

Q 他社との協力関係はありますか。
A 協力しています。どの企業であれ、単独ではできません。たとえば、1月には、カリフォルニア州の日産総合研究所シリコンバレーオフィスは、アメリカ航空宇宙局(NASA)と自動運転技術のさまざまな領域で、パートナーシップを締結したことを発表しました。それ以外にも、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、東京大学をはじめとする複数の大学とも協力しています。
Q 自動車産業というより、ハイテク産業のようですね。
A その通りです。私は世界各地を飛び回っていますが、数カ月に1度は、大学生との対話の場を設けています。学生の皆さんには、今後の新しい技術の可能性を考えると、今ほど、自動車業界にとって心躍る時期はない、と伝えています。
自動運転技術は、モビリティの在り方を大きく変えることになるでしょう。クルマはより賢くなり、人は年を取ってもいろいろな場所へ行くことを諦めずにすみ、何よりも、より安全にクルマの運転ができるようになるのです。
カルロス・ゴーン
ルノー・日産アライアンス会長兼CEO
1954年、ブラジル生まれ。仏ミシュランを経て、1996年に仏ルノーに入社。1999年、日産自動車のCOO(最高執行責任者)に着任して日産リバイバルプランを策定、経営危機にあった同社を立て直した。2000年に日産社長、2001年にCEO(最高経営責任者)就任。ルノーでは2005年に社長兼CEOに就任、2009年から会長兼CEOを務める。