二極化する映像業界「日本からセッションを生み出す」
CCCが「本気で」映像クリエーター支援を始める理由
2015/7/17
TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が新しい取り組みを始めた。映像事業のつくり手に資金や設備など大幅な支援を行う「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」だ。聞くところによれば、CCCグループはスタートアップとの提携も積極的に進めているという。こうしたCCCグループの動きの背景には何があるのか。ネット事業を統括するT-MEDIAホールディングスCOO、根本浩史氏に話を聞いた。
──つくり手への支援。具体的にはどのような取り組みなのでしょうか。
根本:映画のつくり手に支援金を出します。最大3作品が対象で、一作品あたり最大5000万円が支援されます。
審査員にも映画『超高速!参勤交代』の監督・本木克英氏や映画『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』のプロデューサーを務めた阿部秀司氏、米国アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』のプロデューサーである中沢敏明氏などそうそうたる顔ぶれがそろいました。
しかも、ただ製作資金を出して終わりではありません。製作陣の支援も行います。優れた企画とクリエイターを発掘、サポートすることで映像産業を活性化したい、ということなんです。
ひとつのモデルケースがあります。それが4月に公開された映画『セッション』です。28歳(当時)のデミアン・チャゼル監督の映画がアカデミー賞を席巻しました。ですが、もともとは彼自身、資金に困窮して製作活動に行き詰っていたつくり手のうちのひとりでした。
製作資金はないけれど、自分の作品に自信はある。そこで彼は、セッションの85ページの脚本のうち、15ページ分だけを8分の映像にして売り込みをかけます。その8分を見て、「面白い!」と共感した人たちが増え、製作資金が集まるようになって、映画として成立していった。
私たちの目指すひとつの理想のかたちがこれです。日本から映画『セッション』を送り出す。それくらい本気です。
二極化するクリエイター
──そもそもつくり手はネットに出せばいいのではないでしょうか。
デジタルの時代になってつくり手は二極化していっています。いわゆる映画やテレビなどを舞台に、商業的に成功している有名監督と、そしてもう一方は、YouTuberに代表されるネット向けの個人のつくり手です。
ですが、その間に、実力も経験もある映画のクリエイターはたくさんいます。その長編映画のつくり手は自分でチケットを手売りしたり、ミニシアターに売り込みをかけたり、エンドユーザーに観てもらうために多大な労力をかけているんです。
やっぱり映画とスマホやPCでみるネット動画は違います。いくら電車の中でスマホで動画を見る時代になったとは言え、90分の長編をYouTubeで見ることは少ないと思います。また長編映画のつくり手は映画館やテレビで見てもらえるような作品づくりをしている。
今回のつくり手への最大のインセンティブは、資金や製作陣の支援だけではなくて、完成した作品が、TSUTAYAを通じて多くのエンドユーザーに観てもらえること。1400店以上のレンタル店舗の店頭、宅配レンタルサービスのTSUTAYA DISCAS、映像配信のTSUTAYA TVのすべてを通じて、約5400万人のT会員に向けて、大々的にプロモーションをしていきます。
これは、つくり手にとって何よりも心躍ることだと思います。
──CCCグループがコンテンツづくりにまで手をつけるのは驚きです。
今後、いろいろな他社サービスが増えることで、映像をネットで見るというトレンドは今後も拡大していくでしょう。もともとの強みであるリアル店舗に、ネットサービスを加え、その両方を通じてユーザーに支持される新しいコンテンツを生み出すことが強みになるでしょう。
800本のオリジナル記事、360万通りのビッグデータ
──ネットではどのような戦略を展開していきますか。
「ライフスタイルを提案する」というフレーズがCCCグループを貫く大きなコンセプトです。代官山蔦屋書店や湘南T-SITE、二子玉川の蔦屋家電など、書籍や映画、音楽を起点としてライフスタイルの提案をしていきたいという思いがあります。
このリアルでやってきた世界観を、ネットでも展開しようとしています。そのために、まず、ネット上のサービスを統合しました。以前からネットでのサービスは運営していましたが、サービスはすべてバラバラでIDもサービスごとに違っていました。昨年10月にそれらをすべて「T-SITE」へと統合し、利便性が高く、集客力のあるプラットフォームにしました。
また、それと同時期にメディア事業を立ち上げました。月間800本のオリジナル記事を配信、FIGARO(フィガロ)やNewsweek(ニューズウィーク)の雑誌メディアとも提携し、コンテンツも配信しています。
レコメンデ-ション機能も強化をしています。TSUTAYAの店舗で購入した商品などに基づき商品をレコメンドしたり、年代・地域・興味などの属性を掛け合わせて、合計360万通りのランキングをレコメンドしています。
たとえば、「30代女性」で「神奈川在住」の人で「オーガニックに興味のある人」が選ぶ書籍ベスト10といった具合です。
ただ、メディアをつくって、レコメンデーションを行うだけでは「ライフスタイル」を提案するのには不十分。優秀なネットサービスをスタートアップ企業と積極的に手を組むことで展開していきます。
それが「T-VENTURE PROGRAM」です。優れたアイデアと技術はあるけれど、資金や営業ノウハウがない、そんなスタートアップに最大1億円を出資して、マーケティングのサポートをするという取り組みです。
第1回目の「T-VENTURE PROGRAM」では110社の応募から7社と提携することになりました。6月15日にはその中の1社であるザワットさんと資本・業務提携しました。ザワットさんはネットオークション事業を行っています。オークションで白熱する“最後の5分”に集中したオークションというのは、ユニークで面白いモデルだと思っています。
意外かと思われるでしょうが、最優秀賞を獲ったのは農業のマッチングサービスである「シェア畑」というサービスです。遊休農地と農業をやりたい人とをマッチングさせるサービスです。
6月23日に二子玉川の蔦屋家電で、シェア畑でとれた野菜を使ったレシピの提案や、スープの試飲イベントを行います。また、ネットのTサイトでもサービス告知や情報発信していきます。
このように、今後もリアルとネットの両面から、エンドユーザーに楽しんでもらえるライフスタイルの提案をしていきたいと思っています。
(聞き手・構成:伊藤崇浩、写真:福田俊介)