2023/12/16

【実践】噛み合わない議論を好転させる「伝え方」3つの要点

NewsPicks コミュニティーチーム インターン
きちんと伝わっているか不安、細かなニュアンスがなかなか伝わらない──。
コロナ禍を機に、コミュニケーションのベースは一気にオンラインへと移り変わった。
これが業務の効率化やワークライフバランスの向上を促す一方で、「チームで働く」難しさを感じる人が劇的に増えている。
オンラインコミュニケーション協会が、週に5回以上オンライン会議をしているビジネスパーソンに行った調査によると、回答者の7割以上が「コミュニケーションの質が低下した」と答えている(参照記事)。
どうしたらこの“副作用”を払拭し、ワンチームで価値を最大化するコミュニケーションを実現できるのか。
「コメント上手の頭の中」特集の後編は、前編と同じくNewsPicksコメントアワードの受賞者取材を通じて、チーム内や取引先とのコミュニケーションを円滑にするコツをひも解いていく。

✔️ 記事に登場する人

INDEX
  • ✔️ 記事に登場する人
  • 1️⃣ タスクより「価値観」を伝えよう
  • 2️⃣ その言葉は高校生にも伝わるか
  • 3️⃣ Whyから始めよう
  • 👍 明日からあなたも「伝え上手」に

1️⃣ タスクより「価値観」を伝えよう

チームで何かを伝え合う上でまず大事なのは、伝えやすい環境があるかどうかだ。
リーダーがフラットさを重視していても、「上司には本音を話しにくい」「周囲の対応が変わるのが怖い」と、話すのを躊躇してしまう人は少なくないだろう。
2021年7月からEY JapanのCEOを務める貴田守亮さんも、管理職になったばかりのころ、メンバーとの「話しづらさ」に悩んでいたという。
コメントアワードに選ばれたコメント(記事「岸田首相が荒井秘書官を更迭 性的少数者への差別発言」への投稿)にもあるように、貴田さんは米国でアジア系としての人種差別や自身の性的指向で長く悩みを抱えていた一人だ。
そんな背景もあり、勤め先でカミングアウトをする前は、「理解し合う難しさ」を感じていたそうだ。
この経験は、貴田さんがカミングアウトをする動機となり、さまざまな境遇のマイノリティに寄り添う上でも重要だと気付く機会になったそうだ。
これは何も性的指向に限った話ではない。
リーダーとしてのあるべき論より、信念や倫理観といった「自分らしさ」に基づいてマネジメントを行うオーセンティックリーダーシップが重視される今、生きる上・働く上での価値観を伝える行為は関係構築の鍵を握る。
組織にDE&I(多様性のある公正な組織づくり)を広める活動でも、貴田さんのみならず、みんなで価値観を共有し合う場づくりが必要不可欠だったと語る。
EYでは、一人一人がEYで働く意義や人生で成し遂げたいことなどの「マイパーパス」を設定し、周りと共有するようにしています。

特に入社間もない若手社員は、働く上で大事にしている価値観をしっかり考えたことがないケースが多いものです。

それだと、仮に任された業務に没頭できない時、自分もチームも不幸になってしまいます。

マイパーパスを考え、共有し合うことは、組織全体で心理的安全性をつくり上げるきっかけになると考えています。

ダイバーシティ(多様性)の強みを組織にインクルージョン(包括)するには、互いの考えを理解し合う「文化の醸成」が欠かせないということだろう。
しかもこの文化醸成は、一人一人の役割の変化や、ライフイベントによる働き方の変化に柔軟に対応するチーム力も育んでくれる。
貴田さんはDE&Iを進めてきた日本において、ある日、仕事上あまり接点のなかったベテラン社員から突然こんなメールをもらったそうだ。
少し前にがんの宣告を受けたものの、チームの協力もあって治療しながら働くことができた。結果、無事に治療を終えて職場復帰できたという内容でした。

私には「DE&Iを大切にし、自分の悩みを共有できるカルチャーが醸成されたことで、触れにくい事柄についても相談できるカルチャーになり感謝している」と、わざわざメールをくれたのです。

組織文化は、私一人の力でどうにかできるものではありません。社員全員の努力のおかげと、私のほうが感謝の念で一杯になりました。

と同時に、DE&Iを推進していくと、悩みを打ち明けて一人一人が前に進んでいけるのだと実感しました。

ほかに、多様性をチームの強みに昇華するには、「健全に衝突し、議論を行える環境づくり」も大切だと貴田さんは話す。
海外だと、異なる意見をぶつけ合っても、会議が終わればみんなで仲良く食事に行くのが日常茶飯事です。

一方で、日本では反論を個人攻撃と捉えてしまう傾向があるせいか、白熱した議論が起こりにくい。その後の関係性に影響してしまうこともあります。
そんな時は、あなたと私は同じ目標に向かっているという共通認識になるパーパスが重要になってくる。
この「健全な議論」を生むコミュニケーションについては、コンサルとして顧客企業の経営層や上位職に提案することの多い山田陽一さんが、次のような経験則を語っている。
ポイントは「自分のスタンスを決めて話す」ことだ。
客観的に考えるとこうなのに、何でそうなっていないのだろう。そんな疑問をそのまま伝えるようにしている山田さんは、理由をこう説明する。
先方の考えに素直に賛同したほうが議論は円滑に進むし、先方の主張が正しいこともあります。

ただ、そのまま進めていけば、解決するべき課題の本質を逃してしまうかもしれない。

そのリスクを考えると、意見の違いを拾い上げるプロセスを入れたほうが相互理解につながりやすいと思っています。
立場によって状況の見え方が異なるからこそ、相手の意見に対する率直な疑問や意見の相違を客観的に伝えることで、本質的な議論を生み出せる
これも、ワンチームで事に向かう環境づくりに一役買うのだ。

2️⃣ その言葉は高校生にも伝わるか

とはいえ、商習慣や立場の違いで、自分の主張が正しく理解されないことはよくあること。
特に他部署や社外の人と行うプロジェクトの場合、意思疎通は一筋縄では行かない。
米の世界的メガベンチャーと、日本の大手メーカーが協業した時、メーカーの社員が会議で「(社に持ち帰って)検討します」と発言したら、相手は「(合意したのでやり方を)検討します」と捉えたため、のちに大きなトラブルとなった......という笑い話もある。
解釈の違いは、時として“致命傷”になってしまう。
航空会社で天候などを予想しながらフライト計画を作る「ディスパッチャー」職に就く谷村研人さんは、伝える相手となるパイロットの解釈が変わらないように日々工夫しているそうだ。
なるべく業界標準で使われる言葉を選びつつ、相手に合わせて平易な表現に言い換えることもよくあります。
この配慮は、コメントアワードを受賞したコメントにも表れている。
今年5月5日、石川県能登地方で起きた地震について、政府の地震調査委員会が「なぜこれほど大きな地震が起きたかは分からない」と述べたという記事に谷村さんが残したコメントは、「高校レベルの理科が分かれば理解できる書き方」になっているのが分かるだろう。
天候や地震に関する谷村さんの解説はNewsPicksの名物になっているが、できるだけ専門用語を使わずに書くことを心掛けているそうだ。
ちなみにその背景には、学生時代にやっていた塾講師のアルバイト経験がある。
相手の予備知識に期待せず、学校で習うレベルの知識を想定しながら説明するようにしています。
そうすることで、さまざまな立場の人に伝わる内容になるわけだ。
加えて、谷村さんが日々工夫している点がもう一つある。
塾で授業をしてみると、生徒の集中力は90分ずっとは持たないんですね(笑)。

なので、やっぱり面白い話題や本来の内容から脱線したりしながら授業することが必要だったんです。
ちょっとした工夫で、聞き手の心をつかむ。日頃のチームミーティングでも使えそうなTIPSだ。

3️⃣ Whyから始めよう

伝えたい内容を正しく伝える努力をしても、その内容に納得してもらえるかは別問題だ。
チームメンバーが「腹落ち」しなければ、行動変容も、目指す成果も生み出せない。伝え方によっては、違和感として相手に負の感情を与えてしまうことすらある。
リーダーには、業務の指示を出したり新たに何かを始める時ほど、なぜ今その施策が必要なのかをきちんと説明しながら巻き込むコミュニケーションが求められる。
では、この巻き込み力はどうすれば身に付くのか。
前出の貴田さんは、EYのサンフランシスコ事務所で働いていた時、とあるプロジェクトでこの問いと真剣に向き合うことになった。
この状況を打破するきっかけとなったのが、偶然見つけた社内セミナーの情報。リーダーシップ理論で有名なサイモン・シネックが、EYで講演を行うという内容だった。
彼の有名なTED動画「優れたリーダーはどうやって行動を促すか(原題:How great leaders inspire action)」では、多くの人を動かした人物や企業に共通するのは、まずWhy(なぜそれをするのか)から伝えている点だと説明している。
※画像をタップするとTEDの動画に飛びます
そして、人々はリーダーの話すWhyに共感すると、行動変容を起こしやすくなるという。
シネックの講演を直接聞いた貴田さんは、プロジェクトの「What(何をやるか)」や「How(どうやるか)」を語る前に、「Why(なぜやるのか)」という動機から説明することが大切だと再認識した。
さらに、その伝え方の一つとして、「ストーリーを語る」やり方にも気が付いた。
例えば管理職比率で男性が圧倒的に多い顧客企業に対して、女性管理職の比率を上げるための提案をするとしよう。
このシチュエーションで、なぜ女性比率を上げる必要があるのかを説明するのはなかなか難しいものです。

抽象的な話で「女性登用が必要だ!」と訴えても、自分事にできず、距離を感じてしまう人が多いからでしょう。

しかしご自身の奥さまや娘さま、お付き合いしている方など、近しい女性を連想させながら「女性にも選択肢の多い職場にしましょう」と提案すると、途端に当事者意識が芽生えることがあります。
一見他人事に思える話でも、体験談や相手が身近に感じやすい事例を取り入れることで、グッと説得力が高まる。
「自分事化」できるストーリーに、人は心を揺さぶられるのだ。

👍 明日からあなたも「伝え上手」に

今回は2回にわたり、NewsPicksコメントアワード受賞者が行っている「伝わる発信」をするコツを紹介してきた。
一人一人が明日から実践できるものも多いため、ぜひ実行に移してほしい。
《特集前編はこちら》