日本テニスレボリューション (1)

錦織のフォアハンドは打点が絶対にブレない

プロ選手の技をまねるときに大事なこと

2015/4/18
プロテニスプレイヤーの錦織圭は昨年、日本人として史上初の4大大会決勝に進出し、年間最終ランキングを5位とする快挙を成し遂げた。本連載では、錦織圭の留学時代の元トレーナーで、マリア・シャラポワの現トレーナーである中村豊氏にプロテニス界の現状、スポーツ教育、トレーナーの視点を生かした食生活や健康管理などについて聞く。6回目はテニスの技術について語ってもらった。
第1回:私と錦織圭をつないだ不思議な縁
第2回:錦織圭は、指導者を超える選手だ
第3回:シャラポワが圧倒的に他の選手と違う理由
第4回:ビジネスにも生かせるプロテニス選手の食生活
第5回:ミスをするにもどうミスをするかが大事だ

サーブを速くする要素とは

──今回は、テニスの技術について教えてください。テニスプレイヤーなら誰しも、「今より速いサーブを打てるようになりたい」と思ったことがあるはずです。中村さんなら、「サーブを速くしたい」と聞かれたときに、どうアドバイスをしますか?

中村:サーブを速くする要素にはいろいろありますが、まずはタイミングが合っているかどうかをみます。特に、一般のプレイヤーはサーブを打つタイミングに問題を抱えている人が多いです。

もう少し具体的に説明しますと、サーブにおいてタイミングの取り方は、3つあります。それは、上半身主導でタイミングを取っているか、下半身主導でタイミングを取っているか、そして下半身から上半身にうまくタイミングを連動させて取っているか、という3つです。

理想は、最後にお伝えした、下半身から上半身にうまくタイミングを連動させて取るやり方です。これができると、軽く振っても速いサーブが打てます。

テニスは、ひとことで言えば連動のスポーツです。私はよくファンクショナル(機能的)という言葉を使いますが、体のひねりと各部位の連動がどうできるかがカギです。

まず、下半身をどっしりと構え、そこから体幹を使って上半身にパワーを伝えます。そこからラケット、ボールにパワーが伝わっていくわけです。その連動が上手にできれば、ボールにキレや重さが出てきます。

──タイミングの取り方について、さらに詳しく教えてください。やっぱり個人差はあるものですか?

中村:選手によって、まさに十人十色。ラケット、グリップ、身長、体の柔軟性、筋力などいろいろな要素が重なって、選手ごとに最適なタイミングの取り方が決まります。

それを一般化したものが、教科書に載るような基本となるわけです。タイミングさえ外さなければ、サーブの基本は、どの選手もそこまで変わらないと思います。

──なるほど。では、中村さんが理想と思うフォームの選手はいますか?

中村:女子だとセレナ・ウィリアムズです。女子選手の中では、彼女のサービスの完成度が圧倒的に高い。男子だとサービスがいい選手は多いですが、やはり理想はロジャー・フェデラーでしょう。左利きなら、ラファエル・ナダルを参考にするのもいいと思います。

中村豊(なかむら・ゆたか)アスリート形成をモットーに、主要3項目(トレーニング、栄養、リカバリー)から成るフィジカルプロジェクトを提唱している。米国フロリダ州をベースに活動し、海外で幅広いネットワークを持つフィジカルトレーナー。米チャップマン大学卒業、(スポーツサイエンス専攻)。2001年、米沢徹の推薦でIMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーにて盛田正明テニスファウンド(MMTF)へトレーナーとして参加、錦織圭を担当する。2005年、IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーのトレーニングディレクターに就任。フィジカルトレーニングの総括、300名のフルタイムの生徒、IMG ELITE(IMG契約選手)、マリア・シャラポワ、マリー・ピエルス、トミー・ハース、錦織圭等を担当する。現在はシャラポワのフィジカルトレーナーとして活動。そして今季から女子ゴルファーのジェシカコルダのフィジカルプロジェクトをスタートさせている。アスリートとしてのフィジカル/身体能力向上を主にプログラムを作成し遂行。公式サイト:yutakanakamura.com

中村豊(なかむら・ゆたか)
アスリート形成をモットーに、主要3項目(トレーニング、栄養、リカバリー)から成るフィジカルプロジェクトを提唱している。米国フロリダ州をベースに活動し、海外で幅広いネットワークを持つフィジカルトレーナー。米チャップマン大学卒業、(スポーツサイエンス専攻)。2001年、米沢徹の推薦でIMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーにて盛田正明テニスファウンド(MMTF)へトレーナーとして参加、錦織圭を担当する。2005年、IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーのトレーニングディレクターに就任。フィジカルトレーニングの総括、300名のフルタイムの生徒、IMG ELITE(IMG契約選手)、マリア・シャラポワ、マリー・ピエルス、トミー・ハース、錦織圭等を担当する。現在はシャラポワのフィジカルトレーナーとして活動。そして今季から女子ゴルファーのジェシカコルダのフィジカルプロジェクトをスタートさせている。アスリートとしてのフィジカル/身体能力向上を主にプログラムを作成し遂行。
公式サイト:yutakanakamura.com

錦織圭のフォアハンドから学べる点

──次は、フォアハンドについて聞かせてください。フォアハンドはやはり選手によって違いが大きいものですか?

中村:そうですね。やはりラケットの進化によりボールが飛ぶようになり、ボールによりスピンをかけるためにグリップも厚くなってきています。そして、グリップが厚くなると、フォロースルーの軌道も変わってきます。

──フォアハンドで理想的な打ち方をしている選手は誰ですか?

中村:やはり錦織圭です。彼はフォアハンドでスピン過多でもなく、フラットすぎもせず、本当に厚い当たりで重いボールを打つことができます。

──今、日本でテニスをやっている人は、錦織選手のフォアハンドに憧れている人が多いと思います。いきなりプロの技を身につけるのは難しいと思いますが、どの当たりを参考にするのがよいでしょうか。

中村:錦織選手のフォアハンドで特筆すべき点は、打点が絶対にブレないということです。打点をブラさずにしっかりとボールを捉えるためには、そこまでのボールへの入り方、つまりフットワークが大事なのですが、錦織選手はプロの中でも特に鋭い動き方をしている選手なので、ぜひ学んでほしいところです。

──逆に、ナダルのような体を激しく使った打ち方は、まねするべきでないという声もあります。

中村:そうですね。ナダルのような打ち方は、確かにものすごく強いフィジカルが必要です。ナダルは試合中でも、練習中でも、すごくインテンシティが高い。あれはナダルの育ってきた環境や性格、フィジカルがすべてミックスされた芸術的なものなので、まねするのは相当難しいと思います。

──プロをまねするときに、大事なことを教えてください。

中村:まずは、「自分がこの選手みたいに打てるようになりたい」といった漠然としたイメージからスタートしてもいいと思います。プレースタイルや体型が近いということを参考にしてもいいかもしれません。あとは、自分の動き方や打っている感覚が「こうなりたい」ということにマッチすれば、プロの選手はいい教科書になると思います。

──コメント欄を見ていると、「この連載でテニスの見方を学べた」といった声が聞かれるようになりました。ですので、読者から質問を募り、中村さんに答えてもらって、それを紹介するのはいかがでしょうか。連載の中にそういった回があってもいいと思います。

中村:いいですね。皆さんからの質問をお待ちしております。

*中村氏への質問をコメント欄でお待ちしております。コメントは連載記事に使用させていただく可能性があります。

(聞き手:上田裕、写真提供:中村豊)