2023/11/26

【座談会】「やせ薬」ダイエットと薬争奪戦のリアル

21時すぎ、スマホに見覚えのない番号から電話がかかってきた。
電話の主は、自由診療クリニックの医師。ネットで予約しておいた「GLP-1ダイエット」のオンライン診療の時間だった。
「診察」といっても音声通話のみなので、堅苦しさはない。医師は慣れた様子で、GLP-1の薬について説明し、副作用に関する私の質問に答える。
「在庫がなくなるかもしれないので、最初から2カ月分買った方がいいと思う」
医師が勧めるのはGLP-1受動態作動薬(GLP-1薬)の1つの「マンジャロ」。このクリニックで2カ月分買うとゆうに10万円を超える。「これでも、先日仕入れられたので少し価格が下がった」そうだ。
診療は20分もかからずに終わった。申し込みをすれば、自宅に薬が配送されるという。「やせ薬」はあまりにも身近だった(記者は購入していない)。
(写真:Ricardo Rubio/Europa Press via Getty Image)
糖尿病の治療薬であるGLP-1薬が全国的に不足し、治療に必要な患者が使えない事態が起きている。
薬が品薄になるのは、自由診療の「やせ薬」ブームの影響もあると考えられている。
厚生労働省、日本医師会、糖尿病学会など、あらゆる組織が薬の適正使用、つまり糖尿病の治療薬として使うように呼びかけているが、今も薬不足が続いている。
GLP-1薬をめぐってどんな問題が起きているのか、その実態を医師や業界関係者に語ってもらった。
座談会参加者
筒井医師 内科医
坂口医師 美容クリニック経営
斎藤医師 内科医
山田さん 医薬品卸勤務
INDEX
  • GLP-1ダイエットするのはどんな人?
  • なぜ、自由診療に薬が流れるの?
  • 「やせ薬」の副作用は誰が診る?

GLP-1ダイエットするのはどんな人?

──糖尿病の治療であるGLP-1受動態作動薬(GLP-1薬)がダイエットにも使われるようになったのはいつ頃からですか。
筒井 GLP-1薬は5年ぐらい前から一部の美容クリニックが取り扱っていましたが、盛り上がっているのはこの2、3年ですね。
GLP-1の薬はほとんどが皮下注射ですが、やっぱり、注射に抵抗感がある人は多い。2年前に経口薬(リベルサス)が発売されたのを機に、カジュアルに使われるようになりました。
坂口  うちは美容クリニックですが、糖尿病の治療のために必要な人が薬を使うべきだと思っているので、GLP-1ダイエットには手を出していません。
もっとも、そもそもうちではGLP-1薬を確保できないと思うんですよね。
今は医薬品不足で、薬を入手するのが大変。開業から日が浅いクリニックは、薬を卸してもらえなかったり、後回しにされたりします。GLP-1はなおさら難しいんじゃないかな。
──ダイエット目的でGLP-1薬を使っているのはどんな人なのでしょうか。
斎藤 やはり若い女性が多いと思います。精神科医の友人は、女性の患者さんでGLP-1薬を使っている人が何人かいると話していました。
精神科の薬との飲み合わせとか、副作用について質問攻めにされることもあるとか。日本未承認の薬もあって、データもないから返答に困ったそうです。
坂口 意外と中年も多いんですよ。先日、美容医療の医師5人で食事会をしたら、自分以外全員、GLP-1薬を使っていました。衝撃を受けました。