2023/11/25

【解説】世界が熱狂する「やせ薬」とは何なのか

世界中の人が関心を寄せる薬がある。
テスラやX(旧Twitter)の経営者でお馴染みのイーロン・マスクもその一人だ。
以前よりもやせて引き締まったイーロン・マスクは、Xでユーザーに「秘密は?」問われ、「断食」と答え、こう続けた。
「ウゴービ」
ウゴービは、デンマークの製薬会社、ノボノルディスクの肥満症の治療薬。アメリカでは2021年6月に販売が始まった。
日本では2024年2月から肥満症の治療で使われるようになる。肥満症治療で保険適用の薬が登場するのは、実に約30年ぶりのことだ。
ウゴービを含む「GLP-1受容体作動薬」(以下、GLP-1薬)と呼ばれる薬は、糖尿病や肥満症の治療に一石を投じると期待されている。
米国の著名な医師であるスクリプス研究所のエリック・トポル教授も、「歴史上最も重要で大きな医学的ブレークスルーのひとつ」とコラムでGLP-1薬の登場を歓迎する。
トポル教授いわく、重い副作用なしに体重を減らす薬の開発は、失敗の連続だった。その重い扉をこじ開けようとしているのがGLP-1薬だという。
(写真:Michael Siluk/UCG/Universal Images Group via Getty Images)
一方で、この薬は大きな問題も引き起こしている。
体重を減らす「やせ薬」として自由診療の市場に出回ったことで、薬が品薄になり、糖尿病の患者に届かない事態が発生しているのだ。
期待と混乱を生み出す「やせ薬」とは一体何なのか。
特集1日目は、まず、GLP-1薬とはどんな薬なのかの基本を押さえて、次にそれが糖尿病や肥満の治療をどう変えたのかをベテラン医師に解説してもらい、製薬会社をはじめ産業界へのインパクトを見て、最後にこの薬の問題点を確認する。
人類が生み出した新しい薬がもたらす光と影を追ってみよう。
INDEX
  • Part.1 はじまりはトカゲの「毒」
  • Part2. 「胃の手術に近い効果」
  • Part3. 人類vs肥満
  • Part4. 本当に薬が足りない

Part.1 はじまりはトカゲの「毒」

「もう30年近く『趣味はダイエット』と言わんばかり何でも試してきましたが、全くやせなかった。そんな僕がやせたんだから、驚きましたよ」