2023/8/13

【教えてプロ】課長がケアするべきは「成果」か「人」か?

NewsPicks コミュニティチーム
うちのチームはいつも何かしら問題が起こる。若手が思うように成長しないetc.。
中間管理職として働いていると、こんな課題に日々頭を悩ませることでしょう。
そこでお盆休みという「小休止」を使って、改めてマネジャーの役割を考えてみませんか?
今週の【#教えてプロピッカー】では、組織運営で永遠の課題とも言える課長=ミドルマネジャーの役割について考察していきます。
INDEX
  • 👀 課長の評価は何で決まる?
  • ✊ 安易に「専門職」に逃げない
  • 📝 構造化できるものは学習できる
  • 「#教えて」シリーズ質問募集中!

👀 課長の評価は何で決まる?

今回取り上げるのは、今年6月27日(月)にNewsPicksが各社の労働組合に所属するピッカー向けに行ったセミナー「社員が納得する評価制度の要素とは?」の一部です。

参加者からの質問が多かった、ミドルマネジャーの悩みと振る舞いについて、組織人事に詳しいプロピッカーの安田雅彦さんと石原直子さんが語った内容を紹介します。
── 日本企業だと、課長はよく「プレーイングマネジャー」と言われます。評価でも、やはり自身の出す業績が大事?
安田:現実はそうなっている企業が多いかもしれませんが、本来はピープルマネジメントのほうが評価対象として重要視されるべきだと思います。
英語だと、課長級の人は「ファーストラインマネジャー」と呼ばれます。まさに、組織運営で経営と現場をつなぐ第一線にいるわけです。
グッチグループジャパン(現ケリングジャパン)やジョンソン・エンド・ジョンソンなど、数多くの外資系企業で人事を担当してきた経験から言うと、課長の最大の役割は「自分もメンバーもハッピーに働けるようにする」こと。
Photo:iStock / aleksey-martynyuk
コンプライアンスの徹底も含めて、課長が正しくマネジメントをしていれば、人事上の問題はほとんど起きないものです。
── 課長が良ければ問題も起きないと?
安田:起きないです。絶対起きない。それくらい、ファーストラインマネジャーのマネジメントって大事なんです。
石原:私も、課長の評価はピープルマネジメントで行うべきだと考えています。
課長の一番の役割は、メンバー1人1人が「今期これをやる」と約束したことをやり切れるように助けること。
Photo:iStock / erhui1979
時にはモチベーションを上げるように鼓舞しなければならないし、仕事のやり方が分からないメンバーがいたならスキル習得をサポートしなければなりません。
それをできるだけポジティブな姿勢でやり続けて、メンバーが退職しないようにケアするのも大事な仕事です。
── 今は四半期の途中で目標が変わることも日常茶飯事です。その時は「今期やること」をどうマネージすればいい?
石原:その都度メンバーと会話して、納得してもらって、目標管理シートを書き直す。その繰り返しです。
そうしないと、期末に評価への不満が出てきますから。
すごく面倒なのは理解していますが、期中に「目標が変わること」も含めてマネジメントすることが求められます。
── それだとなおさら、プレーイングマネジャーとの両立は難しくないでしょうか?
安田:難しいですよ。だから僕は、「チームで成果を上げるのが役割だから、自分の成果よりメンバーマネジメントのほうが大事だ」とよく言っているんです。
Photo:iStock / Erikona
石原:私も、プレーイングマネジャーとピープルマネジャーの両立は難しいと思っている派です。
安田:中途半端に両方やろうとするくらいなら、「プレーイング」のほうをいったん止めてもいい。そのくらい、課長のピープルマネジメントって重要ですよ。

✊ 安易に「専門職」に逃げない

── でも、多くの企業は「プレーヤーとして優秀だった人」を課長に昇進させます。
安田:そうですね。営業だったら、一番アカウント(得意先 / 重要顧客)を持っている人が課長になるケースが多いですよね。
メンバーに対しても「私の背中を見て学んで」となりがちですが、これだとピープルマネジメントは上達しません。
5〜6人メンバーがいたら、もう無理。通用しません。
Photo:iStock / Cecilie_Arcurs
石原:とはいえ、いろんな諸事情で結局自分がプレーイングマネジャーにならせざるを得ないという人も多いでしょう。
事実、課長の評価をプレーヤーとしての実績ベースで行っている会社もたくさんあります。
安田さんはそういう会社を見た時、どうするべきだとアドバイスしますか?
安田:大前提は、ピープルマネジメントのやり方を学ばせること。その上で、課長として評価されたいなら「プレーイングマネジャーもピープルマネジャーも両方やってね」です。
それでもし、チームとして業績が上がらないんだったら、課長の職から外す。それくらいドラスティックにやらないとダメだと思っています。
Photo:iStock / sesame
石原:日本企業だと、そういう人をピープルマネジャーとほぼ同等の年収で「専門職」として処遇しますよね?
私はこのやり方にも問題があると思っているのですが、安田さんはどう考えていますか?
安田:石原さんに同意です。日本の大企業課長は、ピープルマネジメントを真剣にやらなくても降格しないし、給料も減らない。
チームの若手社員が2〜3年連続で退職していても、マネジャー職から外されないような環境にいたら、誰も勉強しないですよね。
しかも、課長を外されたところで、専門職制度があるからこっちのほうが楽にやれる、みたいになってしまう。
Photo:iStock / tudmeak
多くの外資系企業では、あり得ないことです。
── ジョブ型雇用が前提の欧米企業だと、むしろ専門職としてのキャリアパスも整っていそうですが?
安田:外資系企業で言う「スペシャリスト」とは、弁護士のようにその職種特有の高度な専門知識を持っている従業員を指します。
チームで成果を出すのと同等のインパクトを独力で与えられる人じゃないと、専門職としてステップアップしていくのは難しい。
ピープルマネジメントが苦手だから、安易に専門職を選ぶという選択自体が不可能なんです。
Photo:iStock / Rudzhan Nagiev
石原:そのレベルの専門性がないと、ピープルマネジャーと同等かそれ以上の年収を得るのも難しいということですよね。
私も本来はそうあるべきだと思います。
── お2人の考えでは、「専門職課長」などというポジションはあり得ない?
石原:そう思います。ピープルマネジメントができない人は、本質的な意味で「マネジャー」ではないですから。
今日は(セミナー聴講者が)労働組合の方々なのであえて言うと、例えば春闘で行う賃上げや待遇改善要求にしても、マネジャーの昇格・降格だけは別問題として行う必要があると思います。
ピープルマネジャーの怠慢で、疲弊したり不幸になる従業員が10人、50人と出るかもしれないと考えれば、当然の話ですよね。
Photo:iStock / Flash vector
安田:外資勤めが長かった私からすると、マネジャーは全員「人をマネージせよ」で、さもなくば誰かがあなたをマネージするよ、という世界なんです。
これは、どの企業に行っても必ず上司から言われます。
1on1のやり方が分からないなどと言っていたら、その時点で本当にもうアウト。職務放棄と言っていい。
自分が見ているメンバーが、ちゃんと職務を果たしているか。高いモチベーションで、明日も頑張ろうと思っているか。
これらを把握し、導くのがマネジャーの仕事なので、常に心配になって当然なんです。

📝 構造化できるものは学習できる

── ピープルマネジメントを上手に行うには何を重視するべきでしょう?
安田:相手は人間ですから、性格も違いますし、悩みごとも違います。これをやればOKという答えはありません。
ただ、最低限の行動原則みたいなものはあって。僕は直属のメンバーとは週1回程度、30分くらい1on1の時間を取っていましたし、オフィスで会ったら「How are you?」「どんな感じ?」と声をかけるようにしていました。
そういう習慣をやり続けるところからじゃないでしょうか。
Photo:iStock / maroke
石原:今の安田さんのお話には、とても重要な示唆がありますね。1on1もカジュアルな声がけも、「構造化」された活動だということです。
構造化できるということは、踏襲したり、学習できるということ。ピープルマネジメントは学べるんです。
週1でも隔週でも、しっかりメンバーの声を聞きながら「やるべきことが滞りなく進捗している?」「進捗がよくないなら何が障害になっている?」と明らかにしていく。
体調が悪いのかもしれないし、プライベートで心配事があるのかもしれないし、苦手なお客さまや他部署の人がいるとか、さまざまな壁があるでしょう。
そういう障害を取り除くアクションが、ピープルマネジメントのはじめの一歩になります。
Photo:iStock / bananaland
安田:成長曲線が緩やかになっている理由がマンネリだとしたら、担当業務を変えるという手だってありますしね。
石原:そうそう。きちんと原因を把握して、何らかの手を打ちましょうというのが1on1の原理原則です。
その解決手段の一つとして、成果の出し方を教えるために「背中を見せる」ことはあっても、それがメインになってしまうのはやはり間違っています。
安田:結局は、上司として「私にしてほしいことは何?」と聞いているかどうか。僕はいつでもこの質問で1on1を締めるようにしています。
Photo:iStock / emma
── 現状把握と課題解決。それが全てだと。
石原:1on1のたびに、仰々しくキャリアプランなどを聞く必要もないと思うんですね。今週は頑張れている?頑張れていないんだったら理由は何?でいいと。
ちゃんと膝を突き合わせて、逃げないで向き合う。マネジメントの質を高めるには、これしかないと思います。
また、場合によっては各種のサーベイ結果や議事録がメンバー非公開になっているなど、情報の非対称性が不満の種になることもあるでしょう。
こういう場合は、なるべく皆が同じ情報をシェアできるように改善する。マネジャーは情報開示を要求するのも役割の一つだと思います。
安田:最後に一つアドバイスするなら、メンバーとの1on1でも、会社に何かを要求する時でも、言い方が大事ということでしょうか。
── 課長がいつも忙しそうで、話しかけにくいという声も聞いたりします。
安田:だから、なるべくいつも機嫌よく、叱る必要があっても穏やかに。これが鉄則です(笑)。

「#教えて」シリーズ質問募集中!

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