2023/4/23

【教えてプロ】ChatGPTが「突然の日本重視」狙いは何?

NewsPicks コミュニティチーム
📌 4月10日、ChatGPTを開発するOpenAIのサム・アルトマンCEOが来日し、岸田文雄首相と面会。
📌 続く21日、同社に出資するMicrosoftの副会長も来日して自民党議員と意見交換。
今月は、ChatGPT関連の要人たちによる“日本詣で”が相次いでいます。
首相官邸で記者団の質問に答えるサム・アルトマン(時事)
これらのニュースは、日本の生成系AI市場にどんな影響を与えるのでしょうか。
今週、来週の【#教えてプロピッカー】は、前後編にわたってChatGPTにまつわる話題を深掘りしていきます。
(※コメント欄でピッカーから質問を募る「#教えて」シリーズの詳細はこちら
INDEX
  • ✈️ アルトマンは何しに日本へ?
  • 📝「7つの提案」の狙いは?
  • 💘 日本と相性が良い理由は?
  • 後編は来週4/30(日)掲載予定

✈️ アルトマンは何しに日本へ?

今回取り上げるのは、前述したアルトマン来日のニュース(下の記事)に寄せられた質問です。

世界を震撼させているChatGPTの開発会社トップが、日本政府と会合するためわざわざ来日した理由を、プロピッカーの和田 崇さんが考察します。
今回の日本政府の対応からは、ChatGPTのような先端AIシステムを使って日本経済を盛り上げたいという思いがひしひしと伝わってきました。
もちろん、多忙なアルトマンが日本を訪れたことにも、彼なりの狙いがあったのでしょう。
自民党との会合で話した「7つの提案」を読むと、日本市場に対して大盤振る舞いをしようとしていることがうかがえます。
  1. 日本関連の学習データのウェイト引き上げ
  2. 政府の公開データなどの分析提供
  3. LLM(大規模言語モデル)を用いた学習方法や留意点についてのノウハウ共有
  4. GPT-4の画像解析などの先行機能の提供
  5. 機微データの国内保全のため仕組みの検討
  6. 日本におけるOpenAI社のプレゼンス強化
  7. 日本の若い研究者や学生などへの研修・教育提供
なぜこんなにたくさんの“お土産”を持って来たのか、周辺情報を踏まえて私なりに考察していきます。

📝「7つの提案」の狙いは?

ご質問ありがとうございます。
この話題で前提として押さえておきたいのが、欧米では今、ChatGPTに逆風が吹き始めていることです。
米国時間の3月14日、OpenAIはChatGPTを動かすAIシステムの最新バージョン「GPT-4」をリリースしました。
その高性能さに世界が驚いた一方で、直後の3月下旬、欧米の識者たちがGPTの開発を一時停止するように求める公開書簡を出して話題になりました。
中には
  • ヨシュア・ベンジオ(AI研究の世界的権威)
  • イーロン・マスク(テスラ・Twitter社CEO)
  • ユヴァル・ノア・ハラリ(『サピエンス全史』著者)
  • スティーブ・ウォズニアック(Apple共同創業者)
といった著名人もおり、進化を急ぐ前にリスクを分析・研究する時間を取るべきだという提言に3万弱の署名が集まっています。
公開書簡の冒頭に名を連ねるヨシュア・ベンジオは、「深層学習の父」と呼ばれる著名なAI研究者だ(ZUMA Press / アフロ)
また、個人情報などデータ保護の観点から、デジタル技術に保守的な態度を取ることが多い欧州諸国も、ChatGPTの利用禁止(または制限)を検討し始めています。
OpenAIからしたら、今はChatGPTを普及させる味方がほしい状況なのです。
その第一候補に選ばれたのが日本だったと考えるのが、アルトマン来日の最も有力な仮説でしょう。
(AFP=時事)
ではなぜ日本だったのか。私は4つの理由があると見ています。
  1. 技術面で入り込みやすかったから
  2. 著作権法が「機械学習天国」だから
  3. 今年のG7議長国だから
  4. 文化的に相性が良いから
上から順に、根拠を説明していきましょう(あくまで私の推測であることをご理解ください)。

💘 日本と相性が良い理由は?

1. 技術面で入り込みやすかったから
残念ながら、現在の日本はAI研究の分野で世界に遅れを取っています。
AI関連の論文数で首位を争っているのは中国とアメリカです。他の論文に引用された頻度で上位1%に入る「トップ論文」の数で見ると、日本は10位となっています(参照)。
メーカーの基礎研究にたとえるなら、かろうじて世界のトップ10に入っているような状態です。
AI研究で米中に大きな差をつけられている日本(iStock / Dragon Claws)
だからこそ、今はChatGPTのようなサービスの普及に「乗っかって」AI産業を盛り上げるしかない。そう考えてもおかしくはないでしょう。
日本は、先端技術の普及度合いでは世界と比べても進んでいるほうなので、ChatGPTの利用促進にはうってつけだったのではないかと見ています。
2. 著作権法が「機械学習天国」だから
また、ChatGPTの機能向上面から考えても、日本はとても有望な市場です。
理由は日本の著作権法にあります。
(iStock / y-studio)
2021年に公布された改正著作権法「第30条の4」では、
人工知能の開発を行うために著作物を学習用データとして収集して利用したり、収集した学習用データを人工知能の開発という目的の下で第三者に提供(譲渡や公衆送信等)したりする行為
を許可しています(全文は文化庁のサイトにて)。
AIの学習データとしてなら、ネット上の著作物を商用・非商用に関係なく自由に利用できるという意味です。
「必要と認められる限度において」という制約はついているものの、データの保護にシビアな欧州諸国などに比べたら、規制はだいぶゆるい。
換言すれば、日本は良質かつ大量なデータを利用しやすい環境なのです。
(iStock / mathisworks)
下の記事で、プロピッカーの広木大地さん(日本CTO協会理事)は
「人間にたとえるなら、現時点の大規模言語モデルAIは、まだ10歳児くらいの知能」
と述べています。
ChatGPTも、“大人”になるにはもっとデータを集めて学習していく必要があります。
その点で、日本市場への参入強化は非常に理にかなった戦略なのです。
3. 今年のG7議長国だから
今年のG7サミットは、5月19日から広島で開催されます。
岸田首相は先日、このサミットで生成系AIをめぐる国際的なルールづくりを議題の1つにすると明言しました。
今月29〜30日に先駆けて行われるデジタル・技術相会合でも、「責任あるAI」の実現に向けた行動計画を採択することが決まっています。
岸田首相とG7広島サミットのカウントダウンボード(時事)
そんな中、欧米では前述のように生成系AIに対するネガティブな論調が強まっているわけです。
そう考えると、OpenAIはまず議長国の日本を味方につけたかったのでは?と推測することができます。
実際にロビイングをしたかは分かりませんが、結果として「前向きな議論」を促す効果はありそうです。
4. 文化的に相性が良いから
これは知り合いからの受け売りですが、面白い考察だったので紹介させてください。
その方は、キリスト教やユダヤ教の信者が多い欧米では、AIを「人類の脅威」と捉える人が多いのだと語っていました。
一神教の価値観として、神をも超えるかもしれない知能を持つことは許されないからだと。
(iStock / Devrimb)
言われてみると、欧米では映画『ターミネーター』シリーズのように、人智を超えるAIを悪として描く作品が人気を誇っています。
一方、日本でAIロボットを描いて国民的な人気を得た作品と言えば、『鉄腕アトム』や『ドラえもん』です。
両方とも、AIを「人類と共存する相棒」として描いています。
老若男女に愛される、猫型「AI」ロボットのドラえもん(AP / アフロ)
そんな文化的背景もあって、日本ではAIに対して恐怖感を抱く人が(欧米に比べたら)少ないのかもしれないと思いました。
実際、GPTの利用に関しても、興味深いデータが出ています。
日本マイクロソフトの発表によると、Microsoftの検索サービス「Bing」がGPTを搭載して以降、1人あたりの検索数では日本がトップなのだそうです。
そもそも新技術に興味を示す人が多いお国柄というのもあるのでしょう。
GPTを搭載して「会話型」検索エンジンに進化したBingを使うユーザー(AP / アフロ)
加えて、日本にはキャラ弁やVTuberのように、組み合わせの妙で新しい「生成トレンド」を生み出す文化もあります。
生成系AIに関しても、“基礎研究”では負けたものの、今後の“技術応用”で世界に存在感を発揮できるかもしれない
そう考えると、AIビジネスにかかわる者としても希望が持てます。
続く後編では、これからの「生成系AI×日本のサービス開発」について、私なりに考えている可能性をまとめます。

後編は来週4/30(日)掲載予定

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