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【5日連続特集】過熱する市場の中、急伸する3つのアプリ

IT企業と出版社が火花。マンガアプリを制するのは誰だ

2015/2/9

出版不況と言われて久しい。その波はマンガ市場にも及んでいる。出版科学研究所の統計によれば、1998年に3207億円だったコミック誌の売上は2013年に1438億円にまで縮小。15年間で半分以下にまで落ち込んだ。

一方、活況を呈するのが電子書籍市場だ。電子コミックに限って見ると、2005年に34億円だった市場が、2012年には574億円にまで急拡大。今や紙ではなく、デジタルでマンガを読むのは当たり前になりつつある。
 漫特_図_コミック市場推移

すでにデジタルマンガサービスは乱立状態にある。国内の主要プレイヤーを見ても、21社、35のサービスが存在している(下表参照)。2月2日にはフジテレビも「フジテレビオンデマンド」でマンガ配信に乗り出すことを明らかにした。
 漫特1回_図_webコミックサービス

乱立するマンガアプリの中で、最大規模をほこるのが『LINEマンガ』だ。サービス開始から1年10カ月で1000万ダウンロード、売上高49億円を突破。出版社の枠にとらわれず、数々のコンテンツを集め、デジタルマンガの「プラットフォーム」になっている。

LINEマンガが「プラットフォーム」としての地位を築きつつある一方で、自前でオリジナル作品を制作し、新しい漫画のあり方を模索している「アプリ」もある。その中で特に成長著しいのが『comico』『マンガボックス』『少年ジャンプ+(プラス)』だ。

この3アプリが人気になった一因は、「オリジナル作品」を「すべて無料で」公開している点にある。この点において、プラットフォームとして既存作品の配信に徹するLINEマンガとは異なる「マンガアプリ」を目指している。

各アプリにはどのような特徴があるのだろうか。まずはサービス概要を見ていこう。
 漫特_図_3社比較

カギをにぎるIT企業、運営責任者の顔ぶれは?

上の表を見ればわかるように共通点は「無料」という点だけだ。読者層やビジネスモデルもすべて異なる。

3つのアプリのうち、出版社を運営母体にもつのがジャンププラス(集英社)だ。コミック誌で最強のブランドを誇る「少年ジャンプ」だが、アプリの世界では3位に甘んじている。そして、ジャンププラスを抑えて、ダウンロード数トップを競い合うのはcomico(運営母体:NHN PlayArt)とマンガボックス(運営母体:DeNA)、いずれもIT企業だ。

だがここで疑問が湧いてくる、そもそもIT企業にマンガが作れるのだろうか?

“ハイブリッド”のマンガボックス・“IT特化”のcomico

IT企業が母体となるマンガボックスとcomicoだが、両社はまったく異なるアプローチで、マンガ制作に挑んでいる。大きな違いは、プロ編集者の有無だ。

マンガボックスの編集者を務めるのは、樹林伸氏。かつては講談社で数々のヒット作を手がけてきたベテラン編集者だ。樹林氏の元には編集経験者が続々と集結、約10名の編集部となっている。ベテラン編集者とIT企業のノウハウを掛けあわせた“ハイブリッド型”の組織だ。

それに対して「IT特化型」なのがcomico編集部。編集部員はマンガ編集の未経験者ばかりだ。運営母体であるNHN PlayArtは、NHN Japan(現:LINE株式会社)から会社分割によって生まれたIT企業。しかし「IT企業にマンガアプリは作れない」という大方の予想を覆し、サービス開始から1年4カ月で800万ダウンロードを記録。台風の目としてトップに君臨する。

早くもマネタイズに踏み出したマンガボックス

アプリ運営にとって、重要なのはダウンロード数だけではない。いかにマネタイズできるかも勝負の分かれ目となる。

例えばマンガボックスは、すでにアプリ内広告によるマネタイズを始めている。DeNAの守安功社長は2月5日の決算発表の席上で、「すでに広告という手は打った。将来的には個別課金も含めたマネタイズの手段を考えている。来年上期から収益貢献するようにしたい」と展望を語った。

マンガボックスに対して他の2社はどのようなマネタイズプランを描いているのか。本連載ではそれぞれのアプリの運営責任者にインタビュー。アプリ立ち上げまでの軌跡やコンテンツ作りの苦労などを探っていく。最終日には作家エージェント会社コルクの佐渡島庸平氏がマンガの未来について特別寄稿する。

第2回(2月10日):“編集未経験チーム”が切り開いた「マンガアプリ」という金脈

第3回(2月11日):ベテラン編集者とIT企業のコラボが生んだ「マンガボックス」

第4回(2月12日):目指す『ONE PIECE』超え、ジャンプ+はマンガの王道を行く

第5回(2月13日):スーパー編集者がマンガアプリに抱く「危機感」

明日(2月10日)はcomicoを運営するNHN PlayArt稲積憲社長が登場。編集未経験者が大半を占めるチームならではのマンガアプリ作りとは?

※本連載は2月9日から2月13日まで、5日連続公開予定です。

(撮影:福田俊介、齋藤誠一)