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マンガアプリの火付け役、800万ダウンロードの快挙

“編集未経験チーム”が発掘した「comico」という金脈

2015/2/10
右肩下がりが続くコミック誌。それに取って代わるようにしてシェアを伸ばしてきたのが電子コミックだ。すでにサービスは乱立し、市場は過熱感を帯びている。そんな中、シェアを急激に伸ばす3つのマンガアプリがある。本連載では各サービスを取材、5日連続でアプリマンガの最前線を追う。まず最初はcomico、800万ダウンロードの秘訣を探る。
第1回:IT企業と出版社が火花。マンガアプリを制するのは誰だ

興隆するマンガアプリ市場——。その火付け役となったのがcomicoだ。2013年10月のサービス開始から1年4カ月で800万ダウンロードを記録、他のマンガアプリを抑えてトップを走る。

comicoでは、専属契約を結んだ作家のオリジナル作品が1日に約20本掲載される。加えて、「チャレンジ作品」と呼ばれる、公式連載を目指す作品も2000本以上公開されている。今や読者数、コンテンツ量ともに市販のコミック誌をしのぐ巨大アプリとなった。

comicoの運営母体であるNHN PlayArtはIT企業だ。事業柱はゲームであり、マンガとは縁もゆかりもない。

なぜゲーム会社がマンガというジャンルに切り込んだのか。その理由を、同社の稲積憲社長は「スマートフォン(スマホ)が普及する前は多くの人が電車の中で新聞やコミック誌を読んでいた。その時間がスマホに奪われただけで、マンガという市場自体は確実に存在しているはず。それにゲームとの相性もいいと思っていた」と説明する。

(撮影:福田俊介)

(撮影:福田俊介)

だが、いざ開発を始めると、困難が待ち受けていた。他の出版社のように既存のヒットコンテンツもなければ有名作家とのコネクションもなかったため、肝心の「コンテンツ」が作れなかったのだ。

ほとんど手探りの状態で開発を開始せざるを得なかった。まずはスカウトによって書き手を発掘、彼らと専属契約を結ぶことでコンテンツを調達し、なんとか3カ月でアプリの公開にこぎ着けた。

「編集未経験者」だからこそ生み出すことができた仕掛け

ハードルとなったのは、コンテンツ集めだけではない。チームビルディングの面でも苦戦した。comicoはごく少数の社内メンバーから始まった。IT企業なだけに、編集未経験者が大半だった。そこでcomicoがとったアプローチは、編集経験者を雇うことではなく、編集者の役割を意識的に変えることだった。

「編集者は、他の出版社では著者の“スーパーバイザー”だが、comicoでは“サポーター”。編集者は基本的にアドバイスにとどめ、作品内容を評価しない」

発想を変えたのは、編集者の役割だけではない。媒体という点でも、既存の出版社とは優先順位を変えた。

「私たちは出版社のように紙→電子書籍→アプリというアプローチはとらなかった。最初から見据えていたのはスマホのみ。だから、いかにスマホに最適化したマンガを作るかだけを考えた」

その結果、生み出すことができたのがcomicoオリジナルの仕掛け、「縦スクロール」と「動くマンガ」だ。

comicoのマンガはすべて「縦スクロール」形式で配信されている。従来のマンガ配信サービスが、見開きのマンガを横にスライドする仕組みであるのに対し、縦に1コマずつスクロールして読み進めていく。一般的なマンガのような「コマ割り」という概念はなく、1コマ=スマホの全画面だ。

(C)NHN PlayArt Corp.

(C)NHN PlayArt Corp.

もう1つのユニークな仕掛けが、「動くマンガ」。これは文字通り、マンガ内の特定のコマが動き出すサービスだ。特徴は、効果音と連動している点にある。特にホラーマンガとの相性がよく、1コマずつ縦スクロールすると、突如、音声とともにマンガが動き出す。こうした取り組みは、スマホならではだ。

「スマホ最適化」という方針はコンテンツだけにとどまらない。ゲーム会社として積み上げたアプリ運営のノウハウを生かし、ユーザー同士のコミュニケーションを重視している。「マンガを読みに来るだけではなく、comicoという世界に遊びに来てほしい」と稲積社長はcomicoの世界観を表現する。

その象徴が「コメント」機能だ。1話ごとにマンガの末尾に著者からコメントが付き、作品の感想を読者たちが自由に書き込むことができる。人気マンガになると1話で4000コメント以上も付くこともある。また、気になるコメントがあれば、その読者がコメントした他のマンガもチェックすることができる。

こうした著者と読者の双方向のコミュニケーションによって、「単なるマンガ配信ではなく、他コンテンツへの回遊効果も生み、アプリ全体が活気づいた」と稲積社長は語る。

時にはコメント内容に応じて、マンガの内容が変わることもあるという。つまり、従来の編集者が果たしていた役割の一部を、読者自身が担っているのだ。

これまでのマンガ制作において、作者は、マンガ雑誌の編集者と二人三脚となって作品を創ってきた。編集者こそが「最初の読者」であり、編集者のアドバイスに則って、「ああでもない、こうでもない」と作品を練り上げてきた。しかし、そうした制作方法では、どうしてもイマジネーションが制約される。編集者の能力が、作品の質に直結してしまう。作家との距離が近いだけに、気を使って言いたいことを言えなくなったりすることもあるだろう。

それに対して、comico方式であれば、多様な読者から、多様な意見を、リアルタイムで聞くことができる。つまり、読者(=新時代の編集者)からフィードバックを受けて、作品に生かすことができるのだ。

(C)NHN PlayArt Corp.

(C)NHN PlayArt Corp.

今は投資段階、将来的なマネタイズは?

コンテンツ、チーム作り、プラットフォームの3つを備えたcomico。完全無欠のように思えるが、気になるのはビジネスモデルだ。コミコ内ではマンガはすべて無料で公開されており、アプリ内広告も一切入っていない。どのようにマネタイズに結びつけるのだろうか。

comicoのビジネスモデルは、出版社のように雑誌連載を単行本で回収するモデルではない。採用するのは出版社の中ではKADOKAWAのモデルに近い。マンガというコアコンテンツを中心として、それを単行本やグッズ販売、アニメやドラマ・映画などのマルチメディアに展開し、収益を稼ぐ戦略だ。

すでにcomicoでは、アプリ内でのグッズ販売を行うECサイトを立ち上げている。単行本もアプリ内でダントツの人気を誇る『ReLIFE』が2巻発刊され、すでに累計40万部を突破した。『ナルどマ』もアニメ化が決定するなど、comico発のプロマンガ家の発掘が着々と進んでいる。

「まずは何より、コンテンツを増やすことが重要。現在は投資の段階と位置付けている。サービスとして足固めをして、地力をつけ、段階的に収益化に取り組んでいく」(稲積社長)

すでに海外への進出も果たし、台湾・韓国の2カ国で展開しているcomico。今後、国内外でどのような施策を仕掛けていくのか。

「まずはスマホでマンガを読むと言えばcomicoと言われるレベルに成長する。ゆくゆくは、スマホ時代の手塚治虫が生まれ、たくさんのマンガ家が大金を得られるようなサービスにしていきたい」(稲積社長)

書き手もいなければコンテンツもない、その上メンバーも未経験。“ないないづくし”のチームだからこその“発想の転換”で、快進撃を続けるcomico。“編集素人チーム”の次なる一手に注目だ。

(撮影:福田俊介)

(撮影:福田俊介)