2023/2/26

【教えて編集部】人的資本経営でマネジャーの役割はどう変わる?

NewsPicks コミュニティチーム
人口が減る未来が見えているからこそ、「人」の力を引き出す経営が大切。
そんな謳い文句の下、人的資本経営への注目度が高まっています。
しかし、名前の通り「経営の話」と捉えてしまうのは本末転倒。組織変革を実践し、根付かせるには、中間管理職と呼ばれるミドルマネジャーの力も必要不可欠です。
NewsPicksのコメント欄で読者の質問を募る「#教えて」シリーズ(詳細はこちら)。今回は、【#教えて編集部】宛てにいただいたマネジャーの役割について深掘り解説していきます。
INDEX
  • 👥「人的投資」重視の目安は?
  • 💪 中間管理職が活躍した事例は?
  • 👀 結局、どう行動を変えればいい?
  • 次回は3/5【#教えてプロピッカー】

👥「人的投資」重視の目安は?

今回取り上げるのは、2月6日から掲載した特集「人的資本経営の真偽」に寄せられた質問です。

経営や組織人事のホットワードになっている人的資本経営ですが、一般社員、特にミドルクラスのマネジャーは何をやればいいのか。特集を担当した平岡 乾記者が解説します。
ご質問ありがとうございます。
本当の人的投資。それは、「人が未知に挑戦する」こと、そして「人を深く知る」ことです。
この2つの実行度合いを知る上で見るべき指標は、次のような点になります。
【1】育成・メンバーとの対話(1on1)に使う時間
意外にもおろそかにされがちな「人を知る」ことの重要性。一緒に働いてきた同僚であっても、「どのようなことに喜びを感じるか」「何を強みだと思っているか」といったことは盲点になっていませんか?
人的資本経営とは、人が持つポテンシャルを最大限に引き出すこと。となると、その人の価値観や得意なことを知らないままで、人的資本経営は実現し得ません。
人を知るための対話に使う時間は、立派な投資活動です。
【2】経営トップが組織開発に使う時間
これも見落とされがちなこととして、経営者のミッションの1つは、組織づくり、すなわち、企業文化や、企業理念をプロセスに落とし込むことです。
過去の知見や失敗体験など、先代が蓄積してきた「学び」を、文化やプロセスに落とし込めば、世代を超えて継承できる「資産」となるのです。
組織づくりこそ、組織の長が率先してやるべきことです。
【3】失敗に使ったお金
富士通でCIO(最高情報責任者)を務める福田 譲さんは、「失敗とミス」は違うと言います。
ここでの失敗とは、挑戦を伴うもの。つまり、自分の能力以上のこと、または前例踏襲が通用しないことを成し遂げようとした結果、目標に届かないことです。
誰しも、挑戦と失敗こそが成長の糧だと思うでしょう。映画『スラムダンク』の原作となった漫画版では、「『負けたことがある』というのがいつか大きな財産になる」という金言もあります。
失敗が許されない組織では、失敗を隠そうとするので、せっかくの失敗経験が資産化されません。

💪 中間管理職が活躍した事例は?

続いて取り上げるのは、人的資本経営を実践して組織変革に成功した企業の中で、ミドルクラスのマネジャーが活躍した好例は?という質問です。

今年1月に『日本の大企業 成長10の法則』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版し、下記の特集2話目にも登場したコーン・フェリー・ジャパンの綱島邦夫さんに追加取材をしました。
ご質問ありがとうございます。綱島さんの著書『日本の大企業 成長10の法則』には、失われた30年と呼ばれる日本の低迷期を乗り越えてきた企業を中心に、組織変革に成功した事例がたくさん載っています。
中でも、ミドルマネジャーによる変革が奏功した具体例は、下のような企業です。
こうした企業の共通項は、情報伝達の階層が少ないという点です。
現場の声が経営陣に届きやすい仕組みづくりに腐心しており、経営トップ自らが伝言ゲームを減らす努力をしています。
例えば綱島さんがりそなホールディングス前会長の東 和浩さんにインタビューした際は、「私が一番よく行く現場はコールセンター」で「トップの重要な仕事は、意思伝達の壁を取り除くこと」と話していたそうです。
前述した細谷英二さんの後を継ぎ、公的資金の前倒し完済など「りそな改革」を成し遂げた東 和浩さん(時事)
つまり、“中核管理職”(綱島さんは中間管理職をこう再定義しています)が変革の起点になるには、それを受け止める経営トップの存在が不可欠ということです。
人と組織に淡泊なトップがいる組織では、変革も起こせない。上層部に何度進言しても変わらない組織にいるなら、経営トップが代わるのを待つか、転職するしかないと言えます。
ただ、それでは希望がないと思った人向けに、勇気づけられるエピソードを紹介しましょう。
2021年にパナソニック ノースアメリカの新CEOに就任したメーガン・ミュンワン・リーさんは、最初は法務部の秘書として入社したというキャリアの持ち主です。
リーさんは14歳から17歳まで日本に住んでいて、日本語も堪能。それもあって、綱島さんは彼女がまだ課長級のポジションに就く前から知っていたそうです。
しかし、それ以上にリーさんが強く印象に残っていた理由は、「組織運営について『これはおかしい!』『変ですよね?』と感じたことを、ブツブツと言い続けていた」からだと言います。
現場目線で課題と感じたことを直言して、周囲と衝突することもあったかもしれません。事実、リーさんは一度他社へ転職しています。
それでも出戻って言い続けるうちに、「じゃああなたがやってみて」となり、一つ一つ実績を挙げながら昇進していきます。
新規事業の指揮や経営戦略の立案、人事管理のデジタル化のほか、北米における同社のDEI(多様性、公平性、包括性)推進でもリーダーシップを取ってきました。
(Photo:iStock / Koh Sze Kiat)
リーさんのキャリアから学べることは、最初は高尚なビジョンなどなくていいということです。
今、見えている課題に声を上げる。そして、いざ解決のための仕事を任されたら、評論家としてではなく(ここがとても大切です)自ら動いて周囲を巻き込む。
行動さえ伴えば、「ブツブツ言い続ける」ことは組織変革の突破口になるのです。
何か1つ、問題を解消しようとすると、より大きな問題に直面することもあったでしょう。でもそのインプットがまた、視野を広げてくれます。だから、リーさんも秘書からCEOになることができた。
組織人事の世界では、こういう動きを「ジョブクラフティング」と言います。
(Photo:iStock / lemono)
任された業務をこなすだけではなく、クラフトビールを作るように新しい仕事を生み出していくイメージです。
実際に仕事を生み出す時は、いきなり全国で発売するブランドを目指す必要はありません。むしろ、地域ならではの特色を売りにするから、クラフトビールとしての魅力が生まれるのです。
これをミドルマネジャーの仕事に照らし合わせて考えると、今からできることが見えてくるのではないでしょうか。

👀 結局、どう行動を変えればいい?

ご質問ありがとうございます。綱島さんに聞いたところ、変革リーダーになるために「ジョブチェンジするぐらいの下積み」は必要ないそうです。
実際、前述した無印良品の松井忠三さんは、親会社だった西友からの出向で良品計画に移る前は、人事経験しかありませんでした。
「人を基軸においた経営」で、業務用エアコンの世界No.1メーカーに導いたダイキン工業の井上礼之会長も、社長に就任するまで空調事業はノータッチでした。
では、中間管理職が変革リーダーになるには何が必要なのか。綱島さんは、「タスク型課長からジョブ型課長への転身が鍵を握る」と言います。
  • タスク型課長指示された作業を淡々とこなす存在
  • ジョブ型課長誰か(通常は顧客)のために問題を発見し、解決し、貢献する存在
ジョブ型課長として成果を出す人は、例えば近年の経営テーマになっているDXでも、「テクノロジー部門や経営が進めるもの」という考えを持っていません。
「DXは自分のジョブを達成する武器になると考え、積極的に学ぶ」(『日本の大企業 成長10の法則』より抜粋)のです。
分かりやすく言えば、立場や役職に関係なく「私は詳しくないので、助けてください」とお願いしながら、自分ごと化して変革を進めていきます。
(Photo:iStock / Ellagrin)
綱島さんによると、こういう動きができるジョブ型課長が「組織の中に7%くらいいると変革が進む」そうです。
これを言い換えるなら、マネジャー個々人が、日々のマネジメント業務の中で7%くらいの時間を割いて組織課題に取り組むのもいいでしょう。
トヨタ自動車などは、プロジェクト運営の中でルーティンワークを2〜3割減らして、その分、新しいことに挑戦することを推奨しています。
これと似たような考え方で、メンバーとの1on1やチームの力を高めるために時間を作るのが、ジョブ型課長に変身するきっかけになります。
こういうリーダーを「インクルーシブリーダー」と呼ぶのですが、後日、さらに深掘りした記事を執筆予定なので、ぜひご一読いただけたら幸いです。

次回は3/5【#教えてプロピッカー】

NewsPicksは、これからも読者の「もっと知りたい」にお応えしてまいります。
【#教えて編集部】【#教えてプロピッカー】でいただいたコメントには、全て目を通しておりますので、たくさんの「問い」をお寄せいただけたら幸いです。
また、問いに対する答えは1つではなく多様であるため、追加取材した記事の内容も1つの意見だということをご認識いただけましたら幸いです。