SPEEDAセミナー

【第2回】「ユニット経営」は海外でも受け入れられるのか?

海外子会社にリクルート流経営を導入する方法

2015/1/20
2007年、イギリスのたばこ会社Gallaherを日本企業によるM&A額で過去最高となる2兆2000億円で買収し、グローバルカンパニーとしての基盤を強化した日本たばこ産業。
2030年をめどに、人材・販促領域でグローバルNo.1を目指すと宣言し、中期的に7000億円程度のM&A余力を持つというリクルート。
両社の若き経営企画のトップである、日本たばこ産業執行役員企画副責任者の筒井岳彦氏、リクルートホールディングス経営企画室室長の林宏昌氏、国際化戦略論の専門家である立命館大学経営学部国際経営学科准教授の琴坂将広氏が、ユーザベースが主催する「SPEEDA Global management seminar」に集結。
モデレーターのNewsPicks編集長佐々木紀彦と共に、日本企業のグローバル化への課題や、グローバル化の推進役である経営企画部門の在り方について激論を繰り広げた。本稿では、そのパネルディスカッションを実況中継する。(全4回)
第1回:JT、リクルートの若手エースが語る、経営企画部の意義

佐々木:次に、グローバル経営について論を移しましょう。基調講演で琴坂先生が、以下のグラフを使って、国際経営戦略の先進事例の変遷を語ってくださいました。
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おさらいしますと、日本企業のグローバル化は、1960年代のただ単に海外に行く、国際化をするという「母国複製と国際化」の時代から、1970年代には現地にどう適応するか、権限委譲するかの議論が進んだ「マルチドメスティック」の時代になり、1980年代には、世界で経営を統合することも出来るという「グローバル」の考え方が一般化してきました。

そして、1990年代には、グローバルとローカルを組み合わせた「グローカル」、もしくは「トランスナショナル」という経営ができるのではないかという議論が出てきた。そして、現在起きている議論が、「メタナショナル」、もしくは「グローバル統合」、つまり地球で一つの事業の連鎖を作り、その全体的な付加価値を最大化することが課題になっているとのことでした。

ここで一つお聞きしたいのが、今後の日本企業がグローバル経営をする中で、この説明を元にすると「メタナショナル」を目指さなければならないということなのでしょうか?

琴坂:必ずしもそうとは言えません。現代にはメタナショナルという選択肢も存在するということです。これはあくまで先進事例の歴史的変遷を示したもので、「現在は全ての企業がメタナショナルを目指すべき」という主張ではないのです。

そもそも国際化する必要がない企業もあるでしょう。わざわざ複雑な組織運営や戦略策定が必要なメタナショナルを目指さなくても、十分高いパフォーマンスを発揮できる企業もあるはずです。

佐々木:メタナショナルについてもう少し詳しく教えてください。

グローバル経営の最先端「メタナショナル」とは?

琴坂:わかりやすい事例を単純化して申し上げますと、iPhoneです。iPhoneには「Designed by Apple in California」で「Assembled in China」と書かれています。これは実際のところ、中国の電子機器製造受託企業と米国のアップルだけではなく、日本、韓国、ドイツ、英国など、世界中の企業が世界中の拠点を活用してその付加価値創造に関わっています。

これに代表されるように、全世界の企業が世界各地で連携して商品を作り、それをまた全世界に売るのが現代の現実です。これを実行する組織の戦略をどう設計していくかが、グローバル経営の一番の興味関心になろうとしています。

実際、少し古いデータですが、iPhoneの部品、部材の製造国の国別のシェア(2010年:アジア開発銀行研究所の推計)を見ると、日本企業がだいたい製造原価の34%、ドイツ企業が17%、韓国企業が13%、アメリカ企業が6%を担っていたといいます。もちろんこれは製造原価だけなので、全体を見ればAppleがその付加価値の過半を手にしているのは事実です。

しかし、全世界が協業して物やサービスを作る時代がより加速しているのは事実でしょう。どこかの国で作る、もしくはどこかの国に参入するといった議論ではなく、全世界の企業をつなげて最適な場所を組み合わせ、それによって事業構成をしていく、そんな時代が当たり前になろうとしており、これが「メタナショナル」のイメージかと思います。

ここでお聞きしたいのですが、こうした時代になりつつある現代、JTとリクルートは、グローバル化のどの段階にいるのでしょうか? どのようなグローバル経営の実践をされていますか?

:目下の段階では、買収した海外法人にリクルート流の経営手法を注入し、バリューアップすることができるようになりました。

佐々木:その手法とは?

:リクルートグループの海外展開の歴史は浅く、3年程度です。そして、われわれは、今後、中期的に持つ7000億円程度のM&A余力を活用していきたいと考えています。
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しかし、ただ闇雲に投資を行うのではなく、海外展開のアプローチを2つのフェーズに分けて考えています。

フェーズ1は、少額の投資をしながら海外展開の可能性を検証する段階。そしてフェーズ2とは、われわれが日本で培ってきたケイパビリティー、もしくはアセットを買収した会社に適応し、価値を最大化するフェーズです。

そして、過去のトラックレコードを振り返ると、人材派遣と人材メディアの2セグメントにおいては、すでにわれわれが日本で培ったノウハウを海外の企業に適用することでバリューアップができることが検証できました。よって、現在および今後は、より大型の投資に進んでいきます。

実際、人材領域では、スタッフマークやアドバンテージ、indeedといった売上高1000億規模の会社を買収しました。一方、販促メディア領域については、まだバリューアップの仮説、その筋書きを描く段階にいます。現在、その筋道が見えつつあるので、それが確立したら、一気にアクセルを踏むフェーズに突入していきます。

リクルートグループの海外展開・M&A戦略について語るリクルートホールディングス経営企画室室長の林宏昌氏。

リクルートグループの海外展開・M&A戦略について語るリクルートホールディングス経営企画室室長の林宏昌氏。

リクルート流を海外子会社にインストール

佐々木:買収した海外企業をバリューアップした実績とは?

:例えば、グローバルで就職マッチングプラットフォームを展開するindeed。買収当時のユニークユーザー数は、グローバルで大体8000万人もいましたが、テクノロジードリブンの会社ゆえ、マネタイズが難しい側面がありました。

このあたりを、リクルートが日本で培った営業のノウハウを注入していくことで、有料のクライアント数を伸ばし、買収当時の売上高、数十億円規模から、先期には250億円となり、今期も昨年対比で90%アップの実績を達成しています。

佐々木:具体的なバリューアップのやり方を教えてください。

:基本的に買収した海外法人のCEOには留まってもらい、われわれはチェアマンとして、CFOもしくはCFOのサポートを送り込み、ガバナンスしています。そして、このチェアマンがリクルートの原理原則である「ユニット経営」という手法を導入します。

ユニット経営とは、その名の通り、組織を小集団ユニット単位に分割して、そのユニットごとに売り上げや利益について目標を持ち、その達成を目指す手法です。

その上で、各集団に大幅に権限委譲し、自分たちの戦略を自分たちで決めさせる。PLの管理まで自分たちで行うことで、最終的なEBITDA(利払い・税金・償却前利益)に各ユニットが責任を持つようになる効果が見込めます。

このユニット経営はうまくはまっており、ある海外の派遣会社では、例えば日本で行っているのとまるで同じような、壁に受注出来そうかどうかの”ヨミ表”が貼られるようにまでなりました。

佐々木:リクルート流のユニット経営は海外法人にすんなり受け入れられるのでしょうか?

:僕が社長と一緒に買収した海外派遣会社に言って衝撃を受けたのが、リクルートグループに加わることで凄く仕事が楽しくなったと言う従業員が多いことです。

今まで仕事とは「今日はこれをやってください」とタスクを割り振られ手順も決まっていたのが、「あなたはどうしたいのか?」と、自分で自分の事業を考えてくださいと問われ、その問いを自問することで、仕事とはこんなにもクリエイティブなものかと感じたと。

佐々木:海外法人にリクルートのカルチャーも丸ごと導入するのでしょうか? あの強烈なカルチャーを(笑)。

:そうですね。丸ごとと言うより、組織をユニット単位に分けて、ボトムアップで何かをやっていくというリクルートにとってのコアとなるカルチャーです。

実際、大型買収となったindeedにも、エンジニアにはKPI達成に向けて自由に好きに作ること、その際の手順は問わないことを伝え、そのカルチャーは浸透したと思っています。そもそも、リクルートのカルチャーやノウハウに共感してもらった会社をM&Aすることも、我が社の海外展開の特徴でもあります。

佐々木:なるほど。一方、JTの海外展開は今どのようなフェーズにいるのでしょうか?

筒井:僕らは、買収を通じて海外たばこ事業を作りました。そして、その後の成長のために海外事業の本社はジュネーブに置いた。それにはいいところと悪いところがあります。

(構成:佐藤留美)

※続きは明日配信予定の3回目をご覧ください。

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