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【第1回】クロスボーダー時代の経営企画部の役割とは?

JT、リクルートの若手エースが語る、経営企画部の意義

2015/1/19
2007年、イギリスのたばこ会社Gallaherを日本企業によるM&A額で過去最高となる2兆2000億円で買収し、グローバルカンパニーとしての基盤を強化した日本たばこ産業。
2030年をめどに、人材・販促領域でグローバルNo.1を目指すと宣言し、中期的に7000億円程度のM&A余力を持つというリクルート。
両社の若き経営企画のトップである、日本たばこ産業執行役員企画副責任者の筒井岳彦氏、リクルートホールディングス経営企画室室長の林宏昌氏、国際化戦略論の専門家である立命館大学経営学部国際経営学科准教授の琴坂将広氏が、ユーザベースが主催する「SPEEDA Global management seminar」に集結。
モデレーターのNewsPicks編集長佐々木紀彦と共に、日本企業のグローバル化への課題や、グローバル化の推進役である経営企画部門の在り方について激論を繰り広げた。本稿では、そのパネルディスカッションを実況中継する。(全4回)

佐々木:日本たばこ産業の筒井さんによると、欧米系の企業では、経営企画部門を持たない組織が多いといいます。そして、本日の聴衆のみなさんは経営企画部門の方々がメインです。

ここでは、日本特有の経営企画部門の存在の是非は問わず、今後自社のグローバル化を推進する上で、経営企画部はどのような付加価値を出すべきか? 経営企画部だから出来ることについて、論じていきましょう。まずは琴坂さん、いかがですか?

海外企業に「経営企画部」がない理由

琴坂:一般的に言えば、日本の伝統的な本社の経営企画部では予算を作成する、経営会議のための資料を各所から収集するなど、どちらかというと管理的な業務が多いのではないかと思います。

一方、先進的でグローバルに展開する多国籍企業はどうかというと、そうした管理系の仕事の多くはSVP(シニア・ヴァイスプレジデント)やVP(ヴァイスプレジデント)クラスの幹部が部署ごとに責任をもつ場合が多いかと思います。

こうしたグローバル化が進む企業の多くでは社員個々人に明確なジョブディスクリプション(職務範囲の記述書)があり、各幹部の責任範囲、持ち場が比較的明確に定義されています。それは国境を越えて多様な人材を抱える組織ならではでもあり、人材を流動的である事実も反映しているでしょう。

しかし、組織にはジョブディスクリプションには書ききれない、必要なホワイトスペース(空白)となる仕事が必ずあります。そうしたホワイトスペースは経営環境の変化からも生まれます。突発的な買収案件かもしれません。

私は、経営企画はそのホワイトスペースを埋める存在なのではないかと思います。例えば、組織にとって不十分な要素は何かについて、外側から提案する機能、定常飛行している組織では対応できない事態に対応する機能などです。筒井さん、JTの場合はどうですか?

筒井:まずJTグループの、グローバルでの経営企画のあり方について説明します。JTグループの海外たばこ事業は、スイスのジュネーブにあるJTI(JTインターナショナル)が行い、業務執行役員会は11の異なる国籍の16人により構成されます。そして、現在、このJTIにJTの社員が180人出向しています。

わたし自身、2年半前にこちらから日本に帰ってきたのですが、最初に受けたショックは日本の経営企画の役割そのものでした(笑)。こんな役割の部署があったんだ、と。

なぜショックだったかというと、JTIを含む欧米型の経営では、”経営企画”の仕事はCEOのアジェンダなのですね。CEOがまず一生懸命経営戦略を考えて、その戦略の実行を部下にアサインする。ある種のトップダウンです。ところが日本では何と言いますか、経営陣が発している”気”を拾ってくる役目があるんですね(笑)。

佐々木:気、ですか?

筒井:ええ。その発せられている”気”をピピピッと察知した経営企画部が、社内をぐるぐる回って具現化する。この経営企画の機能は日本企業のある種、強味だと思う。なぜなら、経営戦略を社長の視点だけではなく考えられるからです。

一方で、マイナス面もあります。誰が何について責任を持つのかが、曖昧という点です。また、いらない業務も多い。そうしたものは減らして、純化すべきところに特化すれば経営企画の付加価値は増すはずです。

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グローバル時代の経営企画部の役割について語る、日本たばこ産業執行役員企画副責任者の筒井岳彦氏(写真中央)、リクルートホールディングス経営企画室室長の林宏昌氏(右)、立命館大学経営学部国際経営学科准教授の琴坂将広氏(左)とともに熱い議論を交わした

ホワイトスペース戦略

佐々木:いらないものとは?

筒井:私は執行役員になる前に、経営企画部長でした。そしてその間に、誰が何について責任があるのかをより明確にし、組織の中の血の流れ、つまりは情報の流れを良くしながらも、しっかりガバナンスが利く仕込みをしてきました。

例えばJTでは、2014年11月から会議形式の経営会議を廃止しました。では、どうやって経営が意思決定するかというと、経営会議を電子ベースで行えるシステムを導入しました。これにより、各役員、各部長がどこにいても、24時間365日意思決定が行え、執行に移せる体制が整い、事前説明など付加価値が低いと判断した業務を削減しました。

要は何が任されていて、何が任されていないのかということを明確にすることで経営のスピード化を図ったわけです。一方で、ガバナンスが綻びないようにも気を配りました。

琴坂:そうした”仕込み”のアイデアは、どのように考えるのですか? 経営企画を担う立場として、新しい組織運営や仕組みの考え方はどのように発想されているのでしょうか?

筒井:まさに琴坂さんが言った「ホワイトスペース」の話とつながりますが、私は経営企画の30%ぐらいは社内や社外をウロウロすることだと思っています。例えば先週、私は面白いことが起こっているらしいとの情報を入手し、イスラエルに飛びました。そうした生の情報を仕入れる時間を必ず取るようにしています。

佐々木:なるほど。一方でリクルートの林さんは、経営企画室長としてM&Aや新規事業の立ち上げなど様々なプロジェクトに携わられていますが、グローバル経営時代の経営企画の存在意義、付加価値についてどのように考えますか?

:海外企業はトップダウンで社長が経営企画を考えるとの話でしたが、リクルートは反対に究極のボトムアップカルチャーの会社です。社長に対してもそうですが、上司に対しても「指示を出してください」なんて言ったら、「それはお前らが考えろ」と言われてしまいます。

個人的に、経営企画の役割とは、10年後自分が本当に経営を担う機会を得たときに自分たちが困らないよう、当事者意識を持って今何をやっておくべきかを考え、設定していくことではないかと考えます。

具体的には、中長期的な競争優位をどのように作り続けるのか、そして新規事業を作る仕組みをどう整えるのかなどがテーマです。琴坂先生の言う通り、「管理」を超えた仕事をいかにするかが課題ですね。

筒井:同感です。私は「管理」の仕事は、あくまでも会社の中にある情報を吸い上げる仕組みだと思う。重要なのは、その情報の中から会社の経営、未来にとって重要なものを抜き取ること。それに合わせて、外からも重要なものを抜き取って、両者をかけ算すること。それが経営企画の付加価値かと思います。そして、そのためには、社内外でウロウロすることが大事なのです。

(構成:佐藤留美)

※続きは明日配信予定の2回目をご覧ください。

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