2022/11/15

【小島武仁】経済学を使えば、日本はもっと「幸せ」になれる

経済学は役に立つ──。そう言われても、いまいちピンと来ない人が多いかもしれない。
しかし、経済学はすでに、私たちにとって働きやすく、暮らしやすい社会を設計するために使われ始めている。
いま、日本で経済学を社会に実装するために最前線で活躍しているのが、小島武仁・東京大学教授だ。
小島氏は、2003年に東京大学経済学部を卒業後、アメリカに渡り、ハーバード大学やイェール大学などで研究を続けた。そして、その後、スタンフォード大学に移り、若くしてテニュア(終身雇用資格)を与えられ、教授にまで上りつめた。
経済学の本場・アメリカでも高い評価を得て、「天才経済学者」とも呼ばれている小島氏が衝撃を与えたのは、2020年に日本に帰国したことだ。
東京大学経済学部教授となり、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)を立ち上げて、センター長に就任した。
東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)が掲げるのは「人々の幸せ」だ。
 人々の幸せのために
 社会のしくみをどう作るか
小島氏の専門であるマーケットデザインは、主要理論が「マッチング理論」で、この理論は2012年にノーベル経済学賞を取った。小島氏は、マッチング理論でノーベル賞を受賞したアルヴィン・ロス氏とともに研究し、その成果を発表してきた。
日本ではまだなじみがないマーケットデザインを社会実装させるために、小島教授はまさにいま奮闘している。
その活動の最新状況と「天才」がいま考えていることに迫っていこう。
INDEX
  • 経済学✖️コンピュータサイエンス
  • マッチング理論とオークション理論
  • 「ゲール・シャプレーアルゴリズム」
  • 「配属ガチャ」はこう解決する
  • 経済学は「ブルーオーシャン」だ

経済学✖️コンピュータサイエンス

──まず「マーケットデザイン」とは、どういったものなのでしょうか。
小島 マーケットデザインとは、名前が示す通り「何かのマーケットをデザインする」経済学の一分野です。経済学やコンピュータサイエンスなどのコラボレーションによって、良い仕組みを理論的に見つけるだけでなく、社会実装まで行う実学です。
マーケットと聞くと、株式市場や商品市場など、お金を使って何かを売り買いしているマーケットを思い浮かべるかもしれません。ですが、経済学の視点ではもう少し広く捉えています。
例えば、企業の人事配属や保育所の利用調整は、いわゆる一般的なマーケットとは違って、お金という潤滑油がなく、価格調整が起きません。
特に、公的な保育所の入所は典型的で、お金を積めば希望の保育所に入れるわけではありません。
しかし、お金が介在していないマーケットだからと言って、経済学が役に立たないわけではありません。むしろ、あたかもマーケットのように見ることで、改良していくことができるんですね。
──コンピュータサイエンスもマーケットデザインのキーワードとのことですが、どう使うのですか。
例えば保育所の場合、自治体は入所を希望する人に対して、その希望の強さをお金で測ることができません。