2021/8/13

【佐渡島庸平】もう東京暮らしには戻らない。僕は地方で成長する

新型コロナを機に、リモートワークを前提に地方へ移住する人が増えている。
編集者で「コルク」の社長を務める佐渡島庸平さんもその一人だ。今年4月、家族とともに東京から福岡市内へと移住した。
実は、佐渡島さんが引っ越したのは、山と海がそばに迫る、のんびりとした住宅地にあるタワマンの中層階。地方の移住先としてタワマンは有力な選択肢になるという。
佐渡島さんはなぜ、福岡への移住を決めたのか。そしてなぜ、タワマンなのか。佐渡島さんに聞いた。
INDEX
  • 都会の刺激を濾過する
  • 福岡への移住は「大正解」
  • ファミリー向け賃貸が少なすぎる
  • コロナ後もリモートワーク
  • 教育環境を変えたかった
  • なぜ、東京で働くの?

都会の刺激を濾過する

──地方への移住というと、緑あふれる環境を想像していましたが、博多・天神の街中にも、空港にも近い、便利で都会的な住宅地ですね。
佐渡島 普段は福岡にいて、毎週火、水、木曜日だけ東京に行く生活なのですが、とにかく移動がラクなので負担に感じません。
早朝だったら、自宅から福岡の空港までタクシーで15分、20分くらいで着きます。
福岡〜東京間の移動も慣れたもので、ギリギリの時間を読めるようになってきたので、福岡で朝6時に起きて、飛行機で東京に飛んで、午前9時開始の打ち合わせに間に合います。
大自然は旅行で味わえばいいと思っているんですよね。地方移住といえども、日々暮らすのはやっぱり、便利なところがいいです。
──そもそもなぜ、移住しようと思ったのですか。
僕は子どもの頃、南アフリカに住んでいたんです。大きな家で、芝生の庭にプールもあって、とにかくすごくよかった。
今思えばぜいたくなんですけど、それが原体験にあるので、いつか自然の豊かなところで暮らしたいなと思っていました。
でも、仕事を考えると、地方に移住するのは現実的じゃなかった。こちらからアポイントをお願いしておきながらリモートで打ち合わせするのは失礼だ、みたいな部分がありましたから。移住は老後かな、ぐらいに考えていました。
じゃあなぜ移住を決めたかというと、一つはコロナでリモートワークが当たり前になって、僕自身も、コルクという会社をリモートワークを前提に経営していこうと考えるようになった。
もう一つは、何かくすぶっているなと感じていて、考え方を変えて自分の器を広げないとだめだよなと思ったんです。
──移住への思いをつづったnoteでは、移住の目的の一つは「思考の濾過(ろか)」だと書いていますね。
そう。良い作品を編集するためには、たくさん刺激を受けられる東京みたいな場所よりも、ゆっくり考えられるところの方がいいなと思ったんです。
自然に近い場所で、都会の刺激を濾過して、普遍的な企画に思考を巡らしたいなと。
実際、福岡に来てから、普遍的、長期的、本質的なこととは何かとか、そんなことばっかり考えるようになっています。
昨年、屋久島で屋久杉を見てきたんですけど、東京から移住してきたというガイドさんが、すごく心が豊かで落ち着いた印象の人だったんですよね。
もしかしたら、ビジネスは僕の方が上手いかもしれないけれど、人生はこのガイドさんの方が上手いんじゃないか。僕はもっと人生を上手く生きる方法を考えないとダメだなと思ったんです。
そんなこともあって、去年の10月頃から移住を具体的に検討しはじめました。

福岡への移住は「大正解」

──なぜ、福岡を移住先に選んだのですか。
自然と都市が一体になったところに住みたくて、いろいろと検討しました。僕は神戸出身なので、神戸でも家を探して、実際に見に行ったりもしました。
だけど、意外と神戸は住みにくいんです。町が古くて、コンパクトシティじゃないから。
海は近くにあるものの、港だから海水浴ができない。子どもを遊ばせることができる浜辺は遠くて、しかも休日にはすごく混雑する。買い物に行ったり、子育てしたりがすごく大変なんです。
神戸は空港までの移動もラクではないから、東京に毎週通うのは体力的に難しいと思いました。仙台や札幌も検討したけれど、やっぱり、東京までのアクセスが難しくて断念しました。
そういった都市に対して、福岡はちょうど良いコンパクトシティなんです。空港へのアクセスもよく、海も山も両方あって、子どもを遊ばせる場所がすべてそろってる。
自宅から10分で海に子どもを連れて行けます。今日もね、子どもと海に行ってきたんです。
商業施設が集まる天神駅周辺(撮影:花谷美枝)
大濠公園をはじめ、良い公園がいくつもあって、立派だけれど東京ほど混雑していない動物園や植物園もある。基本的にあらゆる施設がすごく立派で、なおかつアクセスしやすい。
もう、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)がすごく上がって、大正解って感じです。
──福岡は縁があったわけではないのですね。
一切ありませんでした。仕事で何度か来たことはありましたが、夕方に着いて、翌朝に帰るような1泊2日の出張ばかりだったんです。
──エンターテインメントの仕事は東京が中心になりがちなので、福岡だと行き来が大変そうです。
僕はこれからのエンターテインメントの中心は韓国と中国になっていくとみているんですよね。
だから、日帰り感覚でソウルや上海に行けて、中国や韓国が心理的に近くなる福岡は、むしろビジネス上もいいんじゃないかと思ったんです。
韓国や中国をもっと深く理解したいし、現地のプロデューサーと仲良くなることが今後の課題の一つでもあるので、コロナが明けたら、ここから韓国、中国に出張する機会が増えると思います。

ファミリー向け賃貸が少なすぎる

──リモートワークを前提にした移住の場合、環境重視の自然あふれる土地に一軒家を建てたりするのかなと思っていたので、移住先がタワマンなのは意外でした。