2020/9/23

【解説】多角化経営に未来はあるか?

NewsPicks ジャーナリスト
コロナ禍の経済危機で、「多角化経営」が見直されている。
コロナ禍で自動車や航空といった産業が落ち込む一方で、IT機器や医療などの分野は堅調だ。
経済ショック時にはリスク回避という観点から、事業分野が幅広い多角化経営が、業績の安定化の面で強みとなる場合がある。
例えば、デジタルカメラを手がける企業で見ると、デジカメや複写機の販売比率が高いキヤノンがコロナ禍の業績を大きく落としている一方、同じくデジカメを手がけるソニーはゲーム事業、富士フイルムホールディングスは医療機器が好調で、全体の業績を補った。
コロナ禍で厳しい経済環境が長引くにつれ、需要縮小に苦しむ自動車業界や飲食業、観光業の中にも、多角化を目指す動きが出てきた。
とはいえ、多角化経営という「何でも屋」はえてして、専業企業に収益性で見劣りしている場合が少なくない。
多角化経営には、業績の安定化というメリットに加え、事業同士で生まれる「シナジー(相乗)効果」があるとされている。翻って、専業に勝てない多角化企業は、シナジー効果を実現できていないともいえる。
NewsPicks編集部は、日立製作所や旭化成、オムロンといった多角化企業の経営幹部や、多角化経営に詳しい有識者ら多数にインタビューを敢行。
多角化経営の課題と、その未来に迫る。
第一話はこちら

選択と集中で失敗

コロナ以前に多角化経営を見直し、「選択と集中」を進める企業があった。
代表的な例が、レイセオン・テクノロジーズ(旧ユナイテッド・テクノロジーズ)だ。
典型的な多角化経営の一社であった同社は、2019年に空調事業とエレベーター事業を切り離し、航空・防衛産業に特化する形で、選択と集中を進めた。
ところが、コロナ禍で航空産業が大打撃を受け、業績が悪化。約1.5万人の人員削減に乗り出す計画だ。
日本でも、群馬県に拠点を置くサンデンが2019年に、コンビニなどで見かけるショーケース事業を切り離して、自動車部品事業に特化した。
だが、コロナによる自動車業界の低迷がサンデンの業績も直撃し、同社は「事業再生ADR」と呼ばれる私的再生手続きによって経営再建の道を歩んでいる。
サンデンの自動車部品中核拠点、八斗島(やったじま)事業所(同社HPより)
一方、幅広い事業領域を持つ企業は安定している。
ソニーは家庭用ゲームから、音楽、映画、デジカメやテレビなどエレクトロニクス商品、スマホカメラなどに使うイメージセンサー、さらには保険などの金融まで、幅広く手がける。
2020年4-6月期は、コロナショックの影響で、スマホやデジカメ、自動車に使われるイメージセンサーの需要が落ち、センサー事業の利益は半減した。
他方、ゲーム事業が巣ごもりライフの恩恵で大きく伸びたことで利益が7割増えたこともあり、会社全体としてほぼ前年同期並みだった。
旭化成も自動車などに使われるプラスチック事業をはじめ、住宅事業、医療系機器などのヘルスケア事業などを幅広く手がける。
2020年4-6月期は、やはり自動車やアパレル品に使われるプラスチック事業の利益が約65%減と激減したが、ヘルスケア事業では、人工呼吸器、ウイルス除去フィルターなどの需要が大きく伸び、利益が23%増加。
結果として、会社全体の営業利益は前年同期比約27%減にとどまった。
多角化企業の代表的な一社である日立製作所の河村芳彦CFO(最高財務責任者)は、「多角化企業には、調子が良い事業と悪い事業があり、全体の業績を相殺する場合が多い」と解説する。
そのうえで、「専業企業のように好況時に業績が一気に伸びることはないが、今のような経済環境が悪い時には、業績の急激な下落に対して『バシッと』歯止めをかけられる」とコロナ禍での強みを語る。

専業トップには惨敗

とはいえ、多角化経営には、「コングロマリット・ディスカウント」という負のイメージが付きまとう。
改めてコングロマリットとは、異業種を複数抱える多角化企業のことだ。そしてコングロマリット・ディカウントとは、多角化企業は、専業企業より、投資家からの評価が低いことを指す。
ある特定の分野に投資をしたいと考える投資家にとって、多様な事業を展開する多角化企業に投資することは、投資したい分野の対象外の事業にも投資したお金が使われることを意味する。
これが、投資家が評価する企業価値が、割引(ディスカウント)となる一因だ。
ただ、こうした観点だけで投資家からの評価が低いのではなく、実際の稼ぐ力が専業企業よりも見劣りするケースが少なくない。