【緊急提言】日本人が今できる、たった一つのこと

2020/4/10
新型コロナ感染者数の増加が止まらない。
日本の感染者は4月9日に累計5000人を超え、東京都内では新たに181人の感染を確認、1日当たりの最多を更新した。
緊急事態宣言は出たものの、事業者への休業要請をめぐり、国と都道府県の意見対立は続いている。結局どうしていいか分からずに、普段と変わらない生活を送る人も多い。
そうこうしているうちに、医療崩壊の足音は刻一刻と近づく。
この国家緊急事態に、わたしたちが本当になすべきことは何か。
公衆衛生学の専門家で、WHOのテドロス・アダノム事務局長の上級顧問を務める日本人をご存知だろうか。英国在住の渋谷健司医師だ。
世界を広く見渡し、日本の対応に危機感を抱く男が、NewsPicks上で緊急提言する。
渋谷健司(しぶや・けんじ)
米ハーバード大学にて公衆衛生学博士号を取得した、世界的な公衆衛生学の第一人者。WHO(世界保健機関)、東京大学教授を経て、昨年4月から英国キングス・カレッジ・ロンドン教授、ポピュレーション・ヘルス研究所長。WHO事務局長上級顧問、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)科学諮問委員も務める。

検査を増やせない「本当の理由」

渋谷 まず最初に申し上げておきますと、「あの時こう対応しておけばよかった」と後出しジャンケン的に議論するのは、本来望ましくないことだと思っています。
緊急事態宣言が7都府県で出た今、日本政府と国民はどのように行動していくか。焦点は、そこに当てるべきです。
そうした大前提に立った上で、「これから」の話をしっかりと理解していただくためにも、まずはこれまでの日本の対応について、振り返りたい。
パンデミック時の対応は、世界保健機関(WHO)も当初から述べていた通り、「検査と隔離を徹底せよ」という原則を守ることが肝心です。
香港やシンガポール、中国、台湾、韓国など、この原則を徹底した国は、早期の抑え込みに成功しています。もっとも、シンガポールなどは感染の第2波が来ていますが、これについては後述します。
(写真:Stefano Guidi/Getty Images)
私は、ここまでの日本の対応の問題点は、大きく3つあったと考えています。
①検査数の不足②独立した専門家の不足、そして③フェーズが変わっても同じ仮説・戦略に固執したことです。
まず、他国に比べて日本のPCR検査の件数が圧倒的に少ないことは、何度も指摘されてきました。
その釈明としては、検査精度がまだ高くなく、偽陰性偽陽性が、一定の割合で出てしまうことが挙げられました。
また、検査数を増やして陽性の人数が増えれば、病院のベッドが足りずに医療崩壊を起こしてしまう、と指摘する人もいた。
ただ、私はその2つとも、検査をしない理由にはなり得ないと考えています。
まず検査精度について。そもそも100%の精度を持つ検査は存在しません。それは、「あらかじめ分かっていたこと」です。
臨床医であれば、PCR検査の結果が陰性でも、今なら肺炎の症状があればコロナを疑い、隔離するでしょう。検査結果だけに頼らない、そうした判断は常に求められます。
「検査数を増やすと医療が崩壊する」というのも、誤りです。病床が足りなくなる「本当の理由」は、検査で陽性と出たら「軽症でも入院させる」と、はじめに決めてしまったからです。
(写真:sutiporn/iStock)
つまり本質は、政府が2月1日、新型肺炎を「指定感染症」に早々に指定してしまったことにある。
それにより、感染症法に基づき、無症状や軽症でも、原則として入院隔離措置がとられることとなりました。
検査をした結果として医療崩壊が起きたのではなく、検査をしなかったために院内感染が起こりやすくなった。こうして、正式なコロナ患者が増える前に、医療崩壊が始まっています。
4月になってようやく、無症状・軽症の患者については、自宅や宿泊施設での療養が始まりました。しかしもっと早いうちから、「軽症の場合は自宅待機」という方針に転換できたはずです。
一度決めたことをなかなか変えられない。これこそが、日本のシステムの弱点だと言えます。

保健所からのデータが「FAX」の衝撃

2つ目に、独立した専門家が不足していること。日本には、SARSなどのパンデミックを実践的に経験してきた、真の意味での感染症専門家が、ほとんどいません。
そのため日本の対応は諸外国と比べて、前近代的なものになりました。
例えば中国では、最先端のテクノロジーを駆使した検査と隔離が行われました。
まず彼らはDNAシーケンサー(DNAの塩基配列を自動的に読み取るための装置)を回し、コロナウイルスの全遺伝子配列を、すぐに入手しました。
PCR検査をどんどん行い、感染者はアプリで徹底的に追跡できるようにしました。
(写真:Chen Wen/China News Service via Getty Images)
一方で日本のやり方は、いわゆる「人海戦術」です。
厚生労働省は2月末、国内の感染症専門家を集めて「クラスター対策班」を作りました。
彼らは、クラスター(集団感染)の発生を早くに探知し、データの収集分析と対応策の検討に当たっています。
国立感染症研究所(感染研)が率いるデータチームと、東北大学率いるリスク管理チームで主に構成されているのですが、そもそも前者の感染研は、基礎研究者がメインで、感染制御やサーベイランス(監視)の専門家は少ない。非常に昔ながらの研究組織です。
彼らがまず推進したのが、水際対策。国外からウイルスを入れずにクラスターを潰していけば、国内で蔓延しないだろうという発想です。でも今の時代は、それでは無理です。
データを集めるやり方も、中国などがアプリで追跡しているのに比べると、かなりアナログです。
感染者の移動をアプリで追跡する中国(写真:Feature China/Barcroft Media via Getty Images)
もちろん、現場の皆さんの地道な活動には、本当に敬服しています。しかし、考えてみてください。感染者一人ひとりに聞き取りをし、接触した人がどこに行ったか、1件ずつ保健所職員がコンタクトして、確かめているのです。
さらに驚くことに、保健所とクラスター対策班のデータ共有は、いまだに「FAX」がメインです。
データを分析するためには、FAXの内容をいちいちエクセルに落とし込まなくてはなりません。
クラスター班に集められた、疫学が専門の優秀なポスドク(博士研究員)たちは、データの解析ではなく、FAXの内容をデータ化するための入力作業という「前処理」に、大幅な時間を取られている。
北海道における抑え込みは、こうした人海戦術でもなんとかうまくいきました。しかし、東京のような大都市でも同じ方法で抑え込むのには、そもそも無理があります。

対策の根拠は「すべて仮説止まり」

日本は2月末、早々に全国一律で休校要請を出しました。しかし、あの時点で休校するのは、あまり意味のないことでした。
疫学的には、ピークの前にシャットダウンするのが一番良い。本来、この措置をやるべきだったのは、今です。専門家会議でも、あの時期に小学校を閉めろといった人は、誰もいなかったと聞いています。
当時、政治に必要だったのは、そうしたシンボル的措置を打つことではなく、専門家の意見を聞いて、感染状況に合わせたシナリオをしっかりと作ることです。
そして最後に、3つ目の問題点。東京などでここまで感染が広がってしまったのは、フェーズに合わせて仮説・戦略を変えられなかった、つまりクラスター対策に固執してしまったからでしょう。
クラスター対策班の押谷仁教授は、コロナ対策においていくつかの仮説を提示しています。
ひとつは、「スーパースプレッダー」の存在。10人感染者がいた場合に、8人は誰にも感染を広げないが、残り2人が大人数に感染を広げているのではないか、というものです。
これは、流行初期の感染者と濃厚接触した人の中に、誰も感染が出ていないことの説明として考案されたものです。が、これはあくまで「仮説」です。
「3密」や夜の街クラスター、若者クラスターが感染を広げている、これもまた「仮説」にすぎないのです。もちろん正しいかもしれませんが、分かりません。
仮説を立てること自体はよいのですが、検証をする必要がある。
「日本式モデルが世界で注目されている」などとアピールされていますが、そんなことはありません。むしろ世界では、「日本の対策は、何かおかしい」という専門家や当局者の方が目立ちます。
実は、クラスター班の対策がうまくいっているかどうかは、簡単に分かります。抗体検査をすればよいのです。
どういうことかというと、一度感染した人の血清には、「抗体」が含まれています。
つまり、指定病院以外の医療機関における、過去1カ月の血清を調べれば、どの時期にどれくらい感染が広がっていたのか、だいたい分かるはずなのです。
それほどお金もかからないでしょう。しかし国は、こうした抗体検査を、進めようとはしていません。
問題は、このように仮説・戦略が機動的に変えられなかったことだけではありません。
緊急事態措置の前提となる数理モデルについて、データがほとんど公開されていないのも、大きな問題です。

不十分な「データ公開」

安倍首相は緊急事態を宣言した記者会見において、「80%の接触減で、2週間でピークアウトする」と述べました。