【座談会】組織や場所にしばられず、自分の「軸」で仕事を切り拓く

2019/10/11
知的生産を行う人を場所による制約から解放することで、どんなときも最大限のパフォーマンスを発揮できるよう支援するモバイルPCブランド、レッツノート。そのレッツノートが、今回、自身の価値創造力を高めたいと願うビジネスパーソンのために、「組織や場所にしばられない新しい働き方」を実践する4人による座談会を企画。

日本最大級のフリーランス総合支援企業、ランサーズ株式会社 取締役の曽根秀晶氏をモデレーターに迎え、これから存在感を増すであろう新たなワークスタイルの特徴や、それによる成功のヒントを紐解いていく。(全2回・前編)

「組織や場所にしばられない働き方」が存在感を増し始めた

曽根 働き方改革の波が世の中を大きく動かしている中、個人事業主や法人経営者などの狭義のフリーランスに、副業やパラレルの複業を加えた「広義のフリーランス」ともいうべき働き方が注目を集めています。
 その背景として、国としては、労働力人口の減少に伴う人材不足が深刻化している中、潜在的な労働力の活用や生産性向上といった課題があったり、また社会保障費が増大する中で国民に自立を促す動きが生まれていたりするのだと思います。
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻卒業。マッキンゼー、楽天を経て2015年2月にランサーズに参画し、2015年11月より取締役。経営戦略の立案や新規事業の推進、提携などを担当。学生時は建築を専攻し、デザイン・アートなどに興味。「個のエンパワーメント」というミッションのもと、「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というビジョンの実現を目指している。
 一方、企業としては、慢性的な人材不足で採用が厳しくなっている点から、社外人材を積極的に活用することで生産性向上やオープンイノベーションを推進していきたい。激しく変化する環境の中で企業の短命化も進み、財界からは終身雇用制が限界にきているという声も上がりました。今、もっとも課題感を持っているのが企業だと言えます。
 個人については、私たちランサーズでも毎年フリーランス実態調査を実施しているのですが、広義のフリーランスは1,100万人程度に達するとされています。そのうち副業・複業をしている人が700万人ほどを占め、この層の存在感が大きくなっています。
 背景にあるのは「人生100年時代」の到来です。自分の身にいつキャリアショックが起こるかわからない状況にあって、いつでもトランジションできるような自分自身のキャリア形成が必要とされています。
 ワークライフバランスや、仕事と私生活が混在するワークライフミックスといった価値観が広がり、自分らしい働き方や生き方を一人一人考え始める時代にもなってきました。

「ニューフリーランス」とは?

 ここで「ニューフリーランス」という言葉を定義づけておきましょう。
 端的に言えば、組織にしばられない(パラレルワーカー)×場所にしばられない(テレワーカー)というスタイルで働く人です。
 これまでの働き方は、1つの企業に属し会社員として働くか、個人事業主など狭義のフリーランスになるかの二者択一となる傾向が強かったと思います。従来のフリーランスはある種の自由がありながらもリスクを一身に背負って働いていました。
 しかし今は、両者の境界が溶けつつあります。テクノロジーの進化や自分らしく働くためのコツなどによって、これまでくっきりと分割されていた境界がシームレスにつながり、相互に行き来できるようになってきました。
 この2つの状態を自分らしく、ライフステージに応じて行き来して、それぞれの領域を拡張していけるのが新時代の働き方、「ニューフリーランス」。
 組織や場所を超えた働き方をするだけでなく、チャレンジとリスクヘッジを両立し、自分らしい自己実現のあり方や生産性の向上を実現している人を指します。
 それでは、ニューフリーランス的な働き方をされている4名の方々にご登場いただきます。それぞれの働き方の哲学、今の働き方に至るまでのプロセスや苦労、ニューフリーランスという働き方で得られる人生の豊かさについて語っていただきましょう。

自分の「軸」とパラレルワーク

平原 自分の中に「軸」を持っていれば、所属する組織や場所に関係なく、いろんなところにパラレルにいられる、というのが私の基本的な考え方です。
 大学時代に留学していたスペインでは、FCバルセロナでインターンをしていました。バルサの本拠地に見学に来る日本人観光客のツアーを取りまとめることができ、かつスペイン語を話せる日本人が他にいなかったんです。
 「サッカーが好き」「日本とスペインをつなげたい」という想いがインターンにつながったことで、「好き」を起点に自分にしかできないことがあると気づきました。
 その気づきは今に生きていて、現在所属の1つとなるコンサルティング会社では、「企業で働く人々の境界線を溶かしたい」というミッションで動いています。
小学生から単身で中国・カナダ・メキシコ・スペインに留学。3.11東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、デジタルストラテジー・タレントデベロップメントを経験。幼少期からの夢である日本の教育変革のためプロノイア・グループに転職。広報、ブランドマーケティング、スピーカーコーチングなどに従事しながら、幅広い世代への価値観教育のためWORLD ROADを設立。
 パラレルキャリアや副業推進を支援するコンサルタントが1つの企業に属していては何の説得力もないので、自分が実験台になって「働く」ことの限界を追求しようと会社を立ち上げました。さらに2社で行っている副業を含め、全部で4社で働いています。
曽根 自分の「軸」を持ちながら、サッカーとマーケティングのように異なるジャンルの掛け合わせによって境界線を越えていっているイメージがありますね。

バスケットボールという根幹から伸びる使命感

岡田 自分の軸は常にバスケットボールです。私には日本のバスケ界をよくしたいという信念があり、いろんなところにアンテナを張っています。特に自分にはない知見のある人と話すのが好きで、何か気づきがあるたび「これ、バスケに使えないかな」と常に考えています。
 公認会計士の資格を取ったのもそういう理由からでした。
青山学院大学卒業後、トヨタ自動車アルバルクに加入。複数クラブを経て2016年から京都ハンナリーズに所属。2009年に日本代表初選出。2010年に公認会計士試験合格。2013年に一般社団法⼈日本バスケットボール選手会を設立、初代代表理事。現在は新日本有限責任監査法人での非常勤勤務の他、会計塾講師、3人制プロバスケチームTOKYO DIMEと渋谷の飲食店Pizza&Sports DIMEの経営、執筆、講演などを行う。
 大学生だった当時、日本のバスケットボールはリーグの分裂問題が原因で、FIBA国際連盟から資格停止処分を受けていました。この暗黒時代を自分にしかできない方法で何とか変えたい、でかいことをやりたいという思いから、会計士資格を取得しました。
 監査法人に行って基礎的な知識は得られたので、これからバスケの現場で生かしていきたいです。
曽根 バスケットボール選手と公認会計士って、かなり距離がありますよね。本業の近くから副業・複業を始めるのでなく、いきなり遠くに行くパターンは、本業と副業・複業を掛け合わせたときのインパクトは大きいけれど、生かしきれないリスクもある。
 この距離感も興味深い問いになってきますね。

キャリアをすべて生かすための自然体

加藤 私の社会人としてのスタートは大手証券会社の営業でした。1万人規模の会社でしたが、10年、20年働いている先輩たちがまったく輝いていなくて、このままここにいたら10年後に私はどうなるのかしらと疑問を持つようになりました。
 そこからやりたいことをやろうと、学生時代アルバイトをしていた出版業界に転職。営業と編集を経験しました。
 ところがそこも時代の流れで、必ずしもみんな自由に働いているわけではなく、かつては輝いて見えた業界が今や自分にとってはなりたい職業とは程遠いものになっていたのです。
 そこから自分ができることを考えたときに、外国語が話せたのと、人と接するのが好きだったことから、ある会社のPR職に転職しました。すると最初の1万人規模の会社から、300人規模、100人規模、30人規模と組織の形が変わる中で、見える景色が変わってきたんです。
証券会社営業、出版社での広告営業・雑誌編集、商社広報勤務を経て、2010年にPR&コミュニケーション業務を中心とした株式会社カリテを設立。時計ブランド、レストランなどのPRの他、英語、フランス語の通訳など幅広い職務をこなす。食やおもてなしに関するコラム執筆も行う。海外からテレワークを行うことも多い。
 ちょうど時代も終身雇用が揺らぎ、世の中にフリーランスといわれる人が増えてきていました。でもまだ副業ができる環境はあまり整っていなくて、会社に隠れてという状況。
 そこで、今までの経験をすべて生かそうと独立を決意しました。副業でとやかく言われることもないし、いろんな人と楽しい仕事ができると思ったからです。
 フリーとして動いてみると、PRやコミュニケーション、営業、制作など幅広い知識や経験を持つ自分の立場は、思った以上にニーズがありました。フリーでも必要な人が集まればプロジェクトは成り立つという社会の受け入れ体制も整ってきたように思います。
曽根 個人も1人で働くだけではなく、ネットワーク化したりチーム化したりしているということですね。

仕事の境界が溶けていく時代へ

井上 お寺はもともと、戸籍を管理する行政機能、寺子屋のような学校機能、病院の機能などを持っていました。それが明治になって分業化が進み、行政は行政、学校は学校、お寺はお寺と専門性が高くなっていきました。
佛教大学仏教学科修了後、東京学芸大学で臨床心理学を専攻。2014年から全国各地の寺院・学校・企業でマインドフルネスをベースとしたワークショップ「お坊さんのハピネストレーニング」を開始。テレビ朝日系「ぶっちゃけ寺」の立ち上げやお坊さんが答えるQ&Aサービス「hasunoha」の企画運営に関わるなど、「今」を生きる仏教の普及を目指している。
 「葬式に来てお経を上げるだけ」というお坊さんのステレオタイプができたのは、わずか150年ほど前のことに過ぎません。
 住職はかつて「十職」だったと言う方がいます。副業ではなく「複業」を地でいくのがお坊さん本来のあり方であって、決して珍しいことではないんです。分業化が進んで一度できた境界が、今再び「溶けていく」時代へと移ってきたように思います。
曽根 もともとマルチでパラレルな働き方をしていたお坊さんの時代に戻っていっているんですね。
井上 私も、お坊さんに人生相談ができる「hasunoha」というサイトを作ったり、お坊さんのバラエティ番組を立ち上げたりしてきました。
 この他、「寺子屋学」と称してお寺という既存のスペースを地域で再活用するようなお寺のリノベーション活動をしています。いずれも企業とのコラボレーションです。

時間にしばられつつ、しばられていないように働くには

曽根 皆さん、それぞれに突き抜けていく天性の才能があったのではと想像しますが、やはり苦労もあったと思うんです。それをどう解決したかという点を含めてお話を伺えますか。
平原 現在、私は4社に関わっていますが、どこに対しても想いの強さはイコールです。単なるお金儲けではなく、互いに実現したい「軸」のために一緒に働いています。
 だからこそ、オンとオフを切り替えるのが難しく、副業先でも本業のことを考えてしまうし、自分の会社にいても他の会社のことを考えてしまうんです。
 そんなとき、「あなたの気持ちはどこにあるの?」とメンバーから言われてしまうこともあって……。
 会社に勤めながらどこか他のところでも働くとなると、時間に拘束されてしまうこともあります。時間にしばられつつも、しばられていないように働くにはどうしたらいいんだろうというのは、ニューフリーランスとして一歩を踏み出す上での悩みになると思います。
曽根 これって実は、会社員が社内で複数のプロジェクトに関わるときも同じですよね。「自分は何個までならプロジェクトを回せるのか」ということがわからないと、コントロールできなくなってしまう。

新規事業は諸行無常。「目の前の仕事」にただ集中すべし

曽根 掛け算の幅が遠いほど、イノベーティブで面白く、チャンスが増殖するようなことが起こると思っています。一歩踏み出す際の難しさと、うまく回りだしたときのコントロール方法を教えてください。
井上 日本人の思考回路の中には終身雇用の亡霊みたいなものが残っていて、副業するのにも律儀に長くやらなきゃいけないみたいなところがあると思うんです。新たな事業に関わったら向こう5〜10年は忙しい……、みたいな。
 でも、お坊さんの世界観からすれば、そこは諸行無常。万物は常に変化し、一瞬たりともそこにとどまらず、先のことはどうなるかわかりません。新たなプロジェクトに関わったとしても先のことばかりにとらわれることなく、目の前に集中することが大事です。
曽根 仕事が立て込んできたときなど、どうしているのですか。
井上 いろんなプレーヤーとコラボする上で、本業と副業の切り分けが難しい面はありました。
 一昨日はテレビ収録、昨日は企業研修、今日は葬儀、明日は企業と新規事業の打ち合わせというように、毎日まったく違う仕事をしているので、的確かつスピーディーに心の切り替えをしていかないと支障が生じます。
 そこで確実に必要になってくるのが「マインドフルネス」です。私は企業向けにマインドフルネス講座も開いていますが、自分のアイデンティティーや理念に立ち返るための技術は誰にとっても必要だと思うのです。

本業で文句のつかないだけのインテンシティを上げる

曽根 岡田さんは公認会計士の資格と出合い、違う領域に一歩踏み込もうというとき、周囲から批判を浴びるなど障壁はありませんでしたか。
岡田 新しいことをやると批判する人というのは多いですね。公認会計士を目指すとブログで宣言した当時は、まだブログを書いている人も少なかったので「芸能人気取りか」と言われたり。
 会計士の人からは「そんなに甘くない」とか、コーチからも「勉強ばかりしてるからシュートが入らないんだ」とか言われました。
曽根 勉強より練習しろよ、みたいな逆風をどのように突破したんですか?
岡田 それはもう結果で示すしかない。あとは「インテンシティ」ってよく言うんですけど、練習の強度を誰よりも高めていました。
 チームのみんなが帰っても、残ってシュート練習をして「すげーな、お前」って言われるくらい、ずっと体育館にいる。すると「手を抜いてる」とは誰も言えない。そうやってコツコツ続けることで周囲の信用は得られるようになっていきました。

まずは量が先。脳の深層に記憶させていく

曽根 本業と副業や、副業同士がおいしい関係になり始めるタイミング、あるいは何か掛け算のコツのようなものがあれば教えてください。
岡田 掛け算って応用じゃないですか。その前に基礎として専門分野を1つ作る必要があると思います。
 バスケで、練習の量と質、どちらが大事かとよく聞かれるんですけど、私はまず「量」が先だと答えています。質はすごく大事なんですけど、量をこなしていないと質が高いかどうかもわからないんですよね。
 会計もまったく一緒。入口の部分だけやって何かにつなげようって無理なんですよ。
 1つの分野である程度自分でコントロールできるようになると、そこに自分の軸ができる。そうなると、他の分野に手を広げたときに応用が利くような能力がそれなりについているはずなんです。
井上 日本の武芸に「守破離」という言葉があります。「守」っていうのは型を作る作業です。それって理屈じゃないんですよね。
 我々もお坊さんとして修行するとき、理屈よりも先に型を覚えさせるんです。最初は型をしっかりインストールし、そこから破って離れる。
 破るというのは先ほどの掛け算です。親和性の高いもの同士ではあまり掛け算になりません。遠いものと掛け算をしたときに、その間にあるものまで巻き取ってくるんじゃないかと思います。
 そして掛け算が終わったとき、あれ?オレ何やってたんだっけ、もともとバスケットボール選手だっけ、会計士だっけ。わからないけど何か新しいものができた──これが「離」なんです。そしてこれが「ニューフリーランス」になることだと思うのです。
 だから、量から質というのはまさにキーになると思いますね。
曽根 私個人は、学生のときに建築とデザインをやって、コンサルファームから大企業を経てベンチャーにいます。違う立場や視点を経験してきたことで、10年を経て自分の中で意外に掛け算になり始めた実感があります。
 皆さんのようにそれをうまくつなげられる人と、「私はここだけだから」という人では結構な差があるのではないかと思ったりします。
井上 大事なのは本質を理解して、抽象度を上げられるかどうかだと思います。そのためには量的なトレーニング寝かせる時間が必要になるのかもしれません。
曽根 型を作って俯瞰できるようになるまでに、経験が発酵するための一定の時間が必要なのかもしれませんね。
(構成:柴山幸夫 編集:奈良岡崇子 撮影:大畑陽子 デザイン:國弘朋佳)
※後編はこちら。
【新しい働き方】「ニューフリーランス」における成功と、その条件とは
※レッツノートの連載「Value Creating Talk 『新しい価値を生む人』の思考術」はこちら。